嫌われてるぞ邪神ちゃん
『寂れとらんか?』
『そうですかね?結構大きいと思いますが』
『そうか……』
気まずそうな邪神ちゃんは大昔を思い起こしているのかうんうんと唸るが「そもそも記憶にないわ」と諦めた。
『まずは軽く仕事じゃな、なにかあるか?』
『さぁ……』
ユダもさほど詳しくないので知らなかった。
ブラブラとしながら日雇いの仕事を探すもののそれらしき仕事はなかった。
『不景気じゃの』
『そこまでですかね?』
競馬場やカジノなどの鉄火場の社交場に出入りする邪神ちゃん基準ではどこでも不景気だろう。
『こうなったら教会に行くしかないですね』
『あー……ワシ入っても大丈夫かのぉ』
『…………わかりません』
じゃ、ワシ教会の入口で待っておるからと放り出されたユダはこうして教会を訪れたのだった。
「ようこそツヴァストラ商神教会へ、私は商神司教のダギルと申します。迷い子よ何かありましたか?」
「ユダと申します。司教様。実は日雇いの仕事を探していまして……」
なんでこのような場所の教会に最下層の司祭ではなく上役の司教がいるのだろうとも思うが自分にはわからぬ良い立地なのだろう。街も大きいし。
ユダはどうでもよいと割り切り街に来たばかりで仕事を探していることを告げた。
「組合にはいかれましたか?就職の斡旋所ですが日雇いもあります」
「本当ですか!場所はどこでしょう!?」
「紙に書くから待ってくださいね。えーとここが教会でこの通りを曲がって……この看板、こんな感じの絵が書いてある場所です」
「ありがとうございます!」
「街には来たばかりですか?」
「はい、村の人間に財産を奪われて追放されたので」
「は?ちょっと待ってください、どの村ですか?」
「街の左の街道を行ったところの……」
「…………あの背徳者の集落か……」
「背徳者……?」
散々な言われようだがたしかに子どもの財産を奪い取ってまともに食料も持たせず追い出すのは徳があるかないかで言えばないだろう。
「仕打ちを考えれば背徳者としか思えませんが……やはり村長ですか?」
「やはり?いや、あの村、もとい集落は……邪神を信仰しているのです。ここはそれを見張る教会です」
ああ、だから司教なんて大物が出張ってるのか……。
でもその邪神ちゃんは道祖神にいたけど……。
「特に信仰はありませんでした。村人が邪神というのならば納得するほどですが」
「まさか!邪神は他人の不幸を眺めて愉悦に走り、人の金を貪る神を追放された存在!それほどまでに邪悪な人間なぞ」
「うちの村の人間ですね。僕にされたとおりです」
「バカな、邪神がそんな数に……!?報告せねば……!」
「あの僕は……」
「この街から出ないでください!これはいけない!おのれ……!」
やはり邪神ちゃんは他の神々から恨まれているのか……。これはしくじったか?いや、あの村には邪神ちゃんはいないし大丈夫か。
ユダは奥に向かったダギル司祭を一瞥した後組合に向かった。
「ウンフォル大司教!」
各教会で司教以上の眷属が持つ通信装置を使いダギルは各神2つあるなかで自らの教会を管轄する北方大聖堂に報告を上げた。
が彼の腰は重かった。
「それは……村人が単にロクデナシの背徳者なだけではないか?」
「邪神は人心を惑わすのです!これはいけません!ただちにあの背徳者の集落へ聖騎士団を!」
「いや、今更邪神が何を……?」
「世の中を惑わそうというのです!3000年前に追放された邪神が再びこの世に混乱を!」
ウンフォルは眷属として邪神ちゃん騒動を教皇にして大神殿長から具体的な話は聞いているがどうにも邪神に関して聞いた話と噛み合わなかった。神だけに。
「邪神が何をするのだ?」
「この世を混乱に陥れようとしているのです!この教会はその監視ではありませんか!」
「それではそもそも邪神があの場所へ帰還してたことになるのだが……」
「私の任期中の出来事であれば誠に申し訳ない。司教職を返還してでも……打倒します」
「ダギル司教は加護がないではないか!」
「ですから聖騎士団の出動を願いたいのです。何卒……」
「教皇猊下に図る、けして動くなよ?」
「はっ、街道沿いの監視に……」
「それもするな、通常業務のみを遂行せよ」
コイツ本当に暴走しないよな?と不安がったウンフォルはとにかく釘を差した。
「とのことです。教皇猊下」
同じように立体的な通信装置を使い教皇であるトロイアンに報告を上げたもののトロイアンの顔は疑問げだった。
「邪神が……?なんでわざわざ……?確かか?」
「いえ、確かではないのですが聖騎士団を動かし当該の村を襲うようにダギル司祭が……あの場所を集落と呼んでいますので頑なです」
トロイアンはため息を付きながらウンフォルに尋ねた。かつて邪神の話をした先人として……。
「あの邪神がわざわざそんな事をするか?」
「伝え聞く話ではないと思うのですが……」
だろうな、あの話でそのような要素はない。そんあ無駄なことはしないだろう。するに値するなにかがあったとしてもな……。なんでわざわざ村人の財産を巻き上げて追放したくらいで邪神が?似たようなことは世界の何処かで起きてると思うが……。
「堕落しないように言い聞かせる話で脚色しすぎたのではないか?」
「かもしれませんが……」
「これは関係がないと思うのだが……。ただ単にあの邪神村が住む人間が邪神以下の人間しかいないということでしかないだろう。そもそもあの教会は邪神を補足するためのものであって討伐するための拠点ではないぞ?神殺しなんてできるわけがないだろう?天界に帰るだけではないか」
「その当たりももう少し司教にも情報を開示したほうが……」
「まさかあの司教の墓場が活躍するとは思わぬからな、邪神追放事件の500年後くらいにはもう有力な人間は送られなくなったぞ」
「まぁ司教としての墓場ではありますが……土地としては重要ですのでそれを足がかりに出世するものがいるのも事実です」
「まぁ基本的に加護がなければ死にますからね。剥奪されることもありますし返上する人もいますから。ひ孫が死んでも生きているのが嫌になって死ぬ人もいますからね、出世の芽がないわけではないですし。貴方も枢機卿を目指しているのですか?」
「いや、心労で大変そうだからいやです」
枢機卿は教皇側近として大司教1名、司教2名、司祭3名が各神殿から選ばれる。枢機卿団として教皇補佐の他、大神殿における神臨席会議に出席することも義務付けられている。激務の大神殿ほど枢機卿が余生を過ごしたいと引退する。大神殿によるが教皇ですら引退する。なお枢機卿は大抵使徒なので殺されない限りは死ぬことがない、つまり加護を返して死ぬ。商業神はどこぞの邪神ちゃんのせいで無駄に仕事が多くそうなりがちである。
なお邪神ちゃんは誰も任命しておらず大神殿自体に丸投げしていた。
「では報告の必要があるな……」
「頑張ってください」
大神殿で仕事をするトロイアンは比較的容易に神に会うことができる。教皇であっても神の前ではただの信徒に過ぎない。彼は使徒ではあるがそれを盾にして横暴を働けばどうなるかはよく知っている。
神の前ではよくても神殿長に過ぎない。神殿長の運営する組織における役職名なんて神にとってはどうでもよいのだから。
言われた通りの報告を上げて対応を聞くものの、やはり商神ヘルクスは興味がなさそうであった。
「は?それ別に邪神が見つかったわけじゃないだろ?」
「はい、おっしゃるとおりです」
「神殿長、俺は忙しい……。これほど忙しくなる原因を思い出して何ならちょっとイラッとしてるが我が子に当たるわけにも行かないこの怒りをどうしたものかと思っている」
「報告しないわけにはいきませんので……」
「だろうな、それにしてもあの邪神がそんな事をするわけがないだろう。見て笑うことは会ってもわざわざ子ども一人追放させるなんてするわけ無いだろう。アイツが働いたらそれこそ俺達は天界に還るかもしれんぞ」
「それは……」
「ありえないということだ、俺達が邪神に負けるというわけではない。いや、勝てる勝てないの話しでもないが……。天界に戻っても降りてくるだけだしな。俺はちゃんと天界の仕事もやっている、再度降りてきてもなんの問題もないだろう」
ホッとしたようでトロイアンはヘルクスの神らしい態度に安堵していた。
ああ良かった、どうやら仕事は増えなそうだ。
「そもそも神々の会議は追放されたが集まりの方は追放されていない、依然邪神は神なのだ。あのときは腹が立って絶対捕まえろと悪い噂を流して捉えようとしたがそれはもういい、むしろ帰ってきたら今の大神殿体制を構築してやつに仕事を押し付ける、絶対逃さんぞ……」
並の人間であれば慄く神威に触れても平然としてる当たり大神殿長に任命されるだけあったトロイアンはそれで今回はどういたしますかと尋ねた。
「本当であれば捕らえてつれてこい、神々の会議でやつを復職させて働かせる」
「御意にございます」




