無計画だぞ邪神ちゃん
邪神ちゃんの神域から戻ってきたユダは街に向かって歩き続けた。
いくら死なぬとは言うども空腹ばかりはどうにもならずユダは疲れて腹が減っていた。せめて疲労くらいはなんとかならぬかと邪神ちゃんに聞くものの。
『ワシ、疲れたことないしな。神は疲れないものじゃから』
単に疲れることをしなかっただけでこの言いようである。神だって披露はするし、邪神ちゃん追放前の神々は邪神ちゃんのせいで疲労しきっていたので神は疲れないは嘘である。
そもそも下界に来た理由をつまらないから、面白そうだからと記憶しているが仕事で疲れたという理由も込みで来たことを当の本人もすっかり忘れている実に適当な神である。
適当な神はいくつもいるが様々な仕事がある中で色々と手を出せるのにめんどうくさがってる邪神ちゃんは神の中で最も怠惰ではないだろうか。
「神々に疲労がないならたしかに加護には含まれませんね」
『そうであろう?神々は偉大なのじゃからな』
偉大とは無縁の邪神ちゃんの態度にやはり力が落ちてるとはいえ神はすごいのだと思うユダには酷なことな気もする。
「せめて空腹ばかりはなんとかならぬのでしょうか?」
『神は餓死せんからな、自分を上回る神の餓死する祟り以外で。例えばなにを食べても吐くとかはそもそも神は食わんでも平気だし、いや神によっては食事でなんとかするものもおるしな……。すくなくともワシは死なん』
「邪神ちゃんはあまり食べたりはしないのですか?」
『ワシ?食べるよ?美味しいもの食べるのは大好きじゃし』
「それはなぜ食べるのですか?生きるためではないのですよね」
『え?美味しいからじゃけど』
「生きるためではなく娯楽なのですね」
『そもそも下界を仕切ってる神々は娯楽でしか食べてないからの。食が一番の楽しみなんじゃ』
趣味がなくやることがなくなった仕事熱心な中年層がやっと見つけた趣味みたいな言い方をするが案外間違っていない。
その状況で食のことでも神々の怒りを買ってしまった邪神ちゃんは一番の楽しみを奪っていたわけだが。
食事以外興味がなく、神としての仕事は食生活向上につながるので真面目に働き、出しゃばりなゼクテルに関しても仕事と食事の邪魔と邪険にしていた食神デルメルスをあのクソチビどこへ行った!と数日間追いかけさせた邪神ちゃんは神々からも違う意味で一目置かれている。本人は記憶から抜けてる話でしかないが。
『まぁ神々にはよるぞ。賭博しか興味がない神もおるし、ずっと遊び呆けてる神もおるからな。嘆かわしいことじゃな』
当の神々から言わせたらちゃんと働いてルールの改定やらなにやらをやっているのでお前のことじゃクソガキ!と罵声を帯びせること待ったなしな発言をした邪神ちゃんは自分のことだとは欠片も思っていない。
「邪神ちゃんは真面目なのですね」
『無論じゃ、神とは崇拝されてなんぼじゃからの、それがわからぬ愚か者が増えておる』
道祖神にまでなった経験から真面目にそうは思うものの、別段働く気はない邪神ちゃんの平然とした態度にユダは崇敬の念を強めていた。
神々がこの場にいたら助走をつけてどの口でいうか!とぶん殴りに行くだろう。
『神とは人々の崇拝なくばなにも出来ぬものよ』
天に還るだけで別になにも出来ないわけではないが小賢しい邪神ちゃんはユダにたいして庇護欲をそそることを囁く。邪神らしい仕草である。
実際道祖神ではなにも出来なかったので本心ではあるのだが。
「では他の神々は……」
『人々の崇拝を搾取してるものもおるじゃろうの』
見放された邪神ちゃんが言うと重みが違う。神々もお前にだけは言われたくないという言葉を連発しながら邪神ちゃんはしたり顔だった。
なにせ本人はそんな気はないのだから。
「邪神ちゃんを元の地位につければ世界はより良くなるのでしょうか?」
『そうじゃのう……もしかしたら、いや他の神々次第ではあるが……。よくはなるかもしれんな、うむ』
邪神ちゃんはそこまでは望んででいないし、元の地位に戻ったら他の神々の仕事が増えてかえって悪くなるのだが。
『波風立てる必要もあるまい、小さな村でほそぼそとやればワシは十分じゃ。下界のことは下界に委ねたほうが良いじゃろう。ワシはワシの手の届く範囲で精一杯じゃ』
手の届く範囲だったユダの村すら放り投げて遊び歩いていた邪神ちゃんの言葉である。
「手の届く範囲ですか」
なにか致命的な失言をしたような気がした邪神ちゃんは生来の適当さでまぁなんとでもなるじゃろと割り切った。
『今はユダだけ、眷属も使徒も一人きり、使徒は久々じゃけどな。まぁ死なないというのは良いことじゃ。普通に生きてればなんとでもなるしの。死なないというのはそれだけで利点なのじゃ』
別にそうではないが、その体躯を生かして神々の子供を殴ろうとしてるやつがおるぞー!の一言で信仰心を失わせたりして逃げていたものの、女性新相手には躾ですとなかなかひどい目にあったことある邪神ちゃんは本心からそう思っている。ワシでなければ死んでおったぞ、よって死なないことは利点と思っているが逆を言えば切り刻まれても死ねないのだから痛いだけである。
「そういうものですか、たしかに死なないのは利点ですね」
ユダは死なない利点を餓死や獣に襲われてもなんとかなると思ってる程度であるが。
『そうじゃ、痛覚カットするか?』
「出来るのであればお願いします、死なないのであれば痛覚で限界があっても仕方ないですし……疲労は痛覚とは別なのですか?神々にないくても人間にはあるので応用できるのではないでしょうか?」
『え?違うと思うんじゃけど?同じなのか?ワシは神々に殴られると痛いけど疲労って痛覚カットしてなくなるのかの?』
「え?邪神ちゃんは神々に殴られたのですか?」
『……追放されるとはそういうことじゃからな』
ぶっちゃければ邪神ちゃんが100:0で悪いので特に言うことはない。
「なんてことを……許されざることです」
『よいのじゃ、過去のことより今のことじゃ』
流石に殴られた話の大半は邪神ちゃん目線でどれだけ美化してもどうにもならない話なので触れられたくはない。かといって立場を変えると絶対矛盾することをわかって言うので話を守ることもでっち上げることも放棄した。
結果、邪神ちゃんですら語れぬひどい出来事であったとユダを驚かせ、同時に神々の不信感を煽らせる結果となった。神々にとってはとんだとばっちりである。
『では痛覚を取り除くぞ、取り除くというか加護を与える、追加?これどうなるんじゃっけ?えーと……あれ?うーん?出来た!』
……と思うと心でだけつぶやき邪神ちゃんはユダに尋ねた。
『どうじゃ?』
「足の痛みは消えましたね、あと寝違えたの背中の痛みも消えました。でも空腹は消えませんね……」
『疲れは取れたか?』
「足の痛みって疲れなんですかね?」
『さぁ?わからんな……?』
「とにかくまだ歩けそうです、空腹だけはどうにもなりませんが」
空腹って苦痛じゃね?と邪神ちゃんはじんわりと思ってきたが、よくわからないのでほっとくことにした。自分の今後を委ねる唯一の眷属にして使徒にでも邪神ちゃんはこんなもんである。
『街に付けばなんとかなるじゃろ、とにかく金がないことにはなんともならんしな、その種銭でちょっとワシが頑張って増やしてやろうではないか。神は眷属を見捨てないものじゃ』
良いように言ってるがユダに働かせて金を稼いでギャンブルするだけである。
現状肉体がない邪神ちゃんは稼いだ金で豪遊も出来ないのでユダにいい生活をさせて最終的に村でも作らせるか商会でも作って自分を信仰させるのもありだなと思っている。
明らかに同僚の商神と食い合うのであるが、自分の権限のうちだしと問題にも思ってないあたり邪神ちゃんが追放された、されざるをえなかった状況がわかる。
「わかりました、街でなんの仕事しようかは悩みですね」
『ワシの力が使える仕事なら楽なんじゃがの。そろそろ交差路じゃな、記憶が正しければじゃが……。口に出すのは辞めた方がよいの』
『はい、邪神ちゃん』




