自業自得だった邪神ちゃん
「まずはどうするべきでしょうか?」
「そうじゃのぉ……まずは金じゃな、いくら持っとる?」
「手ぶらで追い出されたので」
「…………すまんの」
「いえ……」
地獄の空気に変わる質問をした邪神はお前の金でなんとかしようぜ!という他力本願のことを言おうとして状況の悪さに沈黙した。
「まぁ、餓死はせんから……不死じゃし……。どこぞの神が飯を食えなくなる呪いでもかけなければ大丈夫じゃ」
「食神様ですか?」
「まぁ、あやつはうまいもん食ってりゃ問題ないからなんもせんじゃろ、ワシの追放も興味無しで見てただけじゃったし」
「そもそもなぜ追放されたのですか?」
「生と死を司ってる時点で割とほかの神と職務がかぶるんじゃよ、だから信望を掠め取ってると言われてな。まぁ色々あってワシが追放された。ゼクテルの嫉妬じゃな。まぁ……あとはあんまり味方がいなかったんじゃけど」
「なぜ味方がいなかったのですか?」
人望がないからじゃけど?と返せない邪神は唯一の眷属にして使徒にどう見栄を張ろうか悩んでいた。
そもそもワシら仲が良かったわけでもないしの。天神降臨の時も暇で暇でしょうがないから下界に降りようと言い出して……門番を出し抜いて逃げてきたからの。
神としてはたしかに偉いが、天界から逃げても呼び戻しに来ないから別にいなくても仕事回るし良いかと思われているのか堕天したとでも思われてるか。天に還った神はいるので別に問題はなく旅行に行った感覚で思われてるのかも知れない。
「そうじゃの……やはりワシの美しさと多岐にわたる職務と権力が緩やかに嫉妬と恨みを買ったのじゃろう。ゼクテルに呼応したということはそういうことじゃろう」
大嘘である。邪神は最低限の仕事もしないので吊し上げられたのである。
ワシの仕事なんてすることないし~と舐め腐って不作の際に忠告もしなかったり、美味しい獣が絶滅するのも放っておいたり、戦争で死人が出てもワシ戦争の神じゃないしとガン無視していたためである。
生と死、未来という多岐にわたる職務に関わるということは裏を返せば自分がなにもしなくても担当がいるから何もしなくてよいということでもある。
そのため他の神々が忙しい中、大変じゃのうとアイスを食べながら眺めていたり、戦争で忙しい中ワシは野蛮なことは苦手じゃのうと本を読んでたり、病気が流行ってる中でワシは神だから平気じゃしのう、ワシの仕事じゃないのうと賭け事に興じていたり、飢饉の際に食神なんだから余地くらいしとけと言って逆鱗に触れたりしている。
邪神の中ではゼクテルが仕事をサボりがちな自分を追放するために根回ししたと思っていてめんどくさいから神々が追認したということになってるが、実情はあいつ強制送還してやろうか?のじゃロリ邪神のやつは自分の未来は見ないし囲んでボコボコにしてやろうか?と殺気立っていたのでちょっと頭冷やしてこい!働け!という形で先手を打って追放しただけである。
もっともゼクテルは器も胸も小さいのも事実であり、これで他の職務に口を出して最高神っぽくなるわ!と一石二鳥感覚でやっていた。
まさか適度な信仰があれば大丈夫なのにそのうえでギャンブルをしたり美食の旅をしたり、好き勝手遊んで邪神村の信仰が消える寸前に薄れた挙げ句に道祖神になってるとは神々も知らない。ゼクテルが知ったら笑いすぎてそのまま天に還るだろう。
下界の方針を決める神々の会議は追放された邪神だったがプライベートの神々の集まりは別に追放されていないのでもう少しマメであれば最近顔出さないなと調べられたが邪神ちゃんはこんな感じなのでまだ遊び歩いてるなとしか思われていない。
なんなら顔出したらボコボコにしてやろうと思ってた神もそこそこいたので流石に察してこないんだろうと思っていたくらいである。
100年、500年と長い年月がすぎるにつれて神々の怒りも薄まり、あいつまだ顔出さないのか?今どこで遊んでるんだ?人間体で感知されないように遊んでるあたりマジで神の仕事する気ねぇな?と変わっていき、とうとう暇になったら顔に出すだろうし別にいいや……と追放されても神としての仕事しろよという邪神への思いすら神々から消えた。当時一番ぶっ殺してやると小声でブツブツ言っていた医神アスピオンスはいないほうが仕事が進む、あいつは別に働かなくていいだろ……と完全に諦めていた。
当の本人は道祖神になって商人のお供え物をありがたい……ありがたい……面目ない……面目ない……と商人のよくわからんけど道祖神だし敬っておこう程度のほそぼそとした信仰とセットで食いつないでいたのだが……。
唯一の眷属に岩塩の場所を教えるという仕事か信仰のお礼かわからない行動をしてるとは露とも思わず、その上、唯一の眷属が死んで息子に加護を与えて使徒にしたなんて他の神々が知るわけもない。
詳しく知っていたらゼクテル以外も笑い転げて天に還ることは間違いない。
死なない神とはいえコイツそこまで生きるの下手なのか?と。
「邪神様……そんな忙しい邪神様を他の神々は追放したのですね……」
「うむ、出来る神は嫉妬されるのも仕事のウチじゃからの。天に還ってもどうせ無理やり下界に降りてくるから対して変わらんといえば変わらんが」
邪神は忘れているが職務を放りだして下界にやってきて天との連絡も取っていないし、もちろん仕事もしていない。溜まった仕事が終わるまで何も無い天界で延々と仕事をさせられるので下界に戻るには長い年月がかかる。
先に天に還った神々があいつ下界でも全く働きやしねぇ!と愚痴っているので神々総出で仕事と邪神を監視することになるからだ。
流石に未来を見て脱出しようとしても全部のルートが詰んでいるので、ゴールは捕まっていやじゃ!いやじゃ!と泣きながら仕事をする邪神の姿しか見えない。
邪神は既のところで仕事天国という地獄からユダによって逃げることができたのだった。天界の神々は舌打ちをしてもいいと思う。
「邪神様の力を奪い、姿も奪い、地位も、何もかもを奪ったのですね」
あれ?そんな大きい話だったっけ?と思いながら持ち上げられて気分が良くなった邪神はちょっと絵になる美しさを見せてやろうと頭邪神な行動に出た。
この状況で嘘泣きである。
「うっ……うっ……ワシを理解してくれる眷属が……使徒がいて嬉しく思うぞ……」
「邪神様」
「今の姿では様では格好が付かん、もっと気軽に邪神ちゃんと呼んでくれ」
様付けで呼ばれると実体化した時うっかりバレたりするかも知れないので、ちゃん付けならどうとでもごまかせるだろうという小賢しいことこの上ない手に出た邪神ちゃんは考えて実行した。そのための嘘泣きである。
「いえ、邪神様をそのようには呼べません」
「様はワシの力が戻ったときに取っておいてくれ、邪神ちゃんじゃ」
戻ったところで今の姿と変わらないのだが、ユダはきっと相当な美人に戻るのだろうと思いながら、これが耐え忍ぶということかと感慨深く考えていた。
考えすぎである。
「まず、街へいかねばならんの……。なにをするにも金が必要じゃ。世知辛いのじゃ」
「はい、それでは街へ行きましょう。邪神ちゃんは移動できるのですか?」
「お主に付けばなんとかなる。眷属だとちょっとあれだが……加護を持った使徒だからの、ついて行っても平気じゃ!」
それにユダへの感謝は自分の信仰につながるし、道祖神としての供え物もまた信仰につながる。
道祖神だと暇だから街へ行ったほうが良いのは間違いないからの。
そんな言えば台無しになるような心の声の隠しながら邪神ちゃんは街への期待を高鳴らせていた。




