使い道がないぞ!邪神ちゃん
『よし、うまくいったな!』
『結構失敗してませんでした?』
『よし!うまくいったな!』
『はい……』
聞く耳を持たない邪神に屈したユダは自分が本当に不死になったのか疑問ではあったが試す気もなかった。
邪神も今や唯一の眷属にして使徒のユダにうまくいったかどうかちょっと死んでみよといきなり心が離れるようなことをいうわけもなく勝った気分になっていた。
『これでお前は不死身よ!…………神の眷属や使徒相手でなければ(ボソッ)』
『え?今なんて言いました?』
『大丈夫じゃ、こんななにもないクソ田舎に眷属がいるわけなかろう。使徒にいたっては論外じゃな。これからお前はワシの眷属で加護を持った使徒として頑張ってもらわなければならん』
ふんすと見えない胸を張ったように喋る邪神に対してユダはようやく気がついたようで、そういえばなぜ名前を?と声に出して尋ねる。
『最初に会話した際にちょっと見た。深くは見なかったが村の話を聞いて、あーみなくてよかったと心の底から安堵しておる。というか……お前の親父ワシの眷属じゃぞ?』
『えっ?』
『あの村でワシを唯一崇めておったな、だから……』
もしや邪神を崇めていたから排斥されていたのか?あの親父邪神を崇めるように強制でもしていたのか?なにを考えているんだ!
湧いて出た怒りは今や邪神の使徒になったことでぶつけどころをなくしていたが。
『ワシが未来視で岩塩の場所を教えて村でいい生活をさせてやったんじゃ』
ぶつけるどころか消えた、むしろ恩人だった。
父の生きていた頃の生活を思い出すとたしかに良かった。子供の頃からの恩人だったのは流石に想定外であったが……。
『村への怒りがちょっと出てたの』
『はい』
邪神を崇めて排斥された父親に対してですとはいえず、その上ちゃんと利益を持ってきて恩恵も受けていたので適当にごまかすことにしたユダだった。
邪神とて眷属たちがなにを考えているかいちいち覗きたくはない、信用してないぞと態度に出したくもないし、眷属どころか使徒になったユダにそんなことしたくはないので表面の感情だけは覗かなくても見えてるので伝えただけであった。
ユダはユダでわざわざ触れないなんて優しい邪神だなぁと気楽に思っていたが。
『未来視はどこまで見られるのですか?』
『見ようと思えば結構未来まで見えるぞ?ただ多用すると疲れる。あと力も弱まってるから辺な未来を見るともっと弱まるかもしれん。他の神の未来視とかな』
『なるほど、万能なんですね』
『まぁ、自分の未来は見通せなかったがな!ガハハ!』
言ってて悲しくなるようなセリフを吐きながら邪神は笑う。
別段と自分の未来など見ても楽しくもなんともない、神の未来なんて知ったところでどうしょうもないと思っていた邪神は力が弱りいずれ消え去るかも知れないという危機感は抱いても未来を見ようとは思わなかった。
それは自分の未来がまた道祖神であることを信じたくもなかったし、未来を変えるための行動を道祖神では起こしようもなかったからだ。
『今なら見通せるのですか?』
『自分の未来はつまらんから見ない。見て絶望するのも面倒くさいしの』
『見ていたらどうにかできたのでは?』
『ワシを祀る村だったのにお主の親父一人しか祀らなくなった未来が見えたりしたらそれこそ心が折れてしまうじゃろ。神は死なぬ。天に還るだけじゃ、あのなにもなくてつまらなくて暇な天にな』
『天はつまらないのですか?』
『面白かったら神だっておりてこんじゃろ、ゼクテルなんて真っ先に降りてきて「一番乗りだから私が主神!あんたたちは下ぁ!」なんていうくらいのクソガキじゃからの』
現世における最高神を声マネをしながらこき下ろした邪神を見ながらユダはそんな声してるんだ、本当に器小さそうだなと漠然と考えていた。
しれっと自分の村が邪神を祀る村だったことは聞き流しつつも、あの村人の性格じゃ邪神の部下みたいなもんかと自らの食塩水バラマキを棚に上げて評したユダは神って案外頼りなさそうだなと思った。
『邪神様は人間体になったりはしないのですか?』
『眷属の前で以外は流石に難しい、神の体って力いるからの。どれ……ちょっとワシの姿を見せてやるか』
今までいた風景が変わり、真っ白な場所になったと思えば急に眼の前に神々しさがそびえ立ったような感覚がユダを襲う。
白い光が彼を多い邪神も白いのかと失礼なことを考えながらもその神威にユダは自然と膝をついた。
「…………いまのは流石に心の声に出しすぎじゃね?同じ場所から来たのにワシだけ光が黒かったらおかしいじゃろ?そりゃ白いに決まってる白光ぞ?流石に傷つくんじゃが?」
そう言いながらも顔を挙げないユダを見た邪神は『あれ?光眩しすぎるか?そういえば使徒一人だからその分集中してるのかな?これ調整どうやったっけ?』となにかを弄り回していた。
屈せよ、膝を付けと働きかける神威が薄くなったユダはそっと顔を上げた。
そこに立っていたのは黒髪の長髪で8歳ほどにみえる子供であった。幼女と言ったほうが良いだろう。
着ている服は他の神々の肖像に書かれるような、あるいは古代ローマの彫像に見られる布を巻いたようなトガであり、足元は普通に皮靴を履いていた。
しかし、その姿でも神々しさは素晴らしいほどでユダは再度顔を伏せてしまうほどえあった。
「照れとるのか?昔はそりゃあもう…………いまよりも背は大きく、胸も大きくこう、あれ、モテモテじゃったのだが力をなくしてしまってのう。あーワシが美を司る可能性もあったんじゃがのー」
嘘である。この邪神は他の神々が聞いていたら腹を抱えて大笑いし、集まりの度にコイツ昔は美人でナイスバディだったらしいぞと1000年はからかい続けられる大嘘を付いた。
今も昔もこの姿である。
今の神々の中で主神であるゼクテルたちがこの話を聞いたらそれだけで自分たちと同じ地位に戻して美を司らせるか、愛を司らせるかと晒し者にするであろう。
それくらいの大嘘であった。
『御身に……』
「あ、ここもうワシの世界だから口に出していいぞ」
「……これが神の力……」
普通不死の方でなんか反応しない?試せないから無理だよなと邪神はちょっとだけがっかりしながらユダに尋ねた。
「どうじゃ、我が身は?」
「大変可愛らしく存じます。まるで妹のような……」
「…………まぁ力が戻ればユダの姉でもあり母でもあるからな。今でもそうではあるが見た目は流石にな」
どこまで力を戻しても力が足りないからまだワシは幼女なんじゃ……と逃げ切る気満々の邪神は自分に対する誇大広告をでっちあげてさも素晴らしい美貌を持つかのように言った。
神は成長しないから永遠にこの幼女のままである。
ぶっちゃけ村で祀られてほそぼそ暮らせれば力はそんないらんし、出歩ける程度の実体化も可能だから遊び歩けるしと心底社会を舐め腐っている。
そのせいで追放されてもなんとかなってると遊び歩き続け、村の信仰が薄れて村の小さな礼拝所が壊れた際になんの神かわからないけど別に恩恵もないし良いかと片付けられたことを本人は気がついていない。
当時の邪神ちゃんは未来視で剣闘士の戦いの勝敗を確かめた後で賭けて稼いで遊んでた時期である。
自業自得であった。
「いずれはどこぞの村で祀られるほどの力を取り戻してくれようぞ」
「街でなくて良いのですか?」
「一応追放された身だし……街ぐるみだと流石に他の神がちょっかいかけてくるし……手堅く行こう、うん」
「わかりました、着実にですね」
こうまでされては神を信じるしかないという消極的な理由から「神はいた、ここに……」となるほどの華麗な手のひら返しをしたユダに対し、この姿でも魅了してしまうワシってもしかして……イケてる?と思う哀れな邪神がそこにいた。




