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王都冒険者ギルドの激震

 ――冒険者。


 これすなわち、軍事力なり。


 ――冒険者。


 これすなわち、自警力なり。


 ――冒険者。


 これすなわち、開発力なり。


 ――冒険者。


 これすなわち、輸送力なり。


 ――冒険者。


 これすなわち、国の礎なり。


 組織ゆえ、どうしても動きが鈍る正規軍に代わって対魔物を始めとする戦闘の担い手となり、開拓や商路の護衛戦力も務める……。

 とかく冒険者という存在は小回りが利き、国家運営に必要となる様々な事業において、必要不可欠。

 故に、彼らを取り仕切るギルドのマスターにも、相応の力というものが必要とされた。


 世界最大最強を誇るここセネクア王国王都冒険者ギルドにおいて、それはずばり――血筋。

 現在の王都ギルドマスターは、その名をベイブ・ルッチ・セネクア。

 姓名から分かる通り、現王の実弟である。

 要するに、この国においては冒険者という遊撃戦力を王家直轄へ組み込んでおり、で、あるからこそ、世界最高峰の手厚いサポートを与えられるのであった。


 そのベイブが執務を行う部屋は、しかし、余人が見たところで執務室とは分からぬだろう。

 壁際の棚へ整然と並べられているのは、様々なサイズのフラスコや蒸留器といった実験器具。

 中央部を占拠する大机には使用済みの乳鉢や乳棒、試験管といった品々が散乱しており、一心不乱にこれらを用いていたのだろうことが伺える。

 室内を一見して、思い浮かべる言葉は――錬金術。


 それは、決して間違いではない。

 ベイブ・ルッチ・セネクアこそ、当代一の錬金術師にして、王都冒険者ギルドのギルドマスターなのだ。

 しかも、彼がただの錬金術師でないことは、招かれたSランク冒険者たちの前に供された品々を見れば、明らかである。


 まずは、パン。

 これはごく普通の、ライ麦を使ったそれだ。

 冒険者ギルドに専属の職人が焼き上げたパンは、まだ焼き立ての香ばしさが残っており、それが何よりの香辛料として作用していた。


 問題は、パンの隣に用意された小鉢……。

 中に入っているのは、いかにも粘性の強そうなペーストであり、これはやわらかな黄金色をしている。

 それにバターナイフが添えられているのだから、パンに塗って食すものであるのは明らか。

 だが、呼ばれた冒険者たちにとっては未知の食べ物であり、未踏をねぶる職にありながら、誰もが臆していたのであった。


「名付けてピーナツバター。

 ご賞味あれ」


 そのような態度は、予想の範囲……というより、いつものこと。

 威厳ある形に整えられた口髭を撫でながら、ベイブがニヤリと笑った。


「……いただこう」


 その言葉が、皮切り。

 鉄塊のごとき大剣を背に担いだ剣士が。

 三角帽を被った露出過多な魔女が。

 達人特有の静けさを漂わせるエルフの狩人が。

 それぞれパンを手に取り、ピーナツバターなるペーストも塗る。

 そして――実食した。


「「「――こ、これは!」」」


 結果、一同揃って目を見開いたのである。


「なんて濃厚にして芳醇なピーナツの風味!

 口の中に、何十粒ものピーナツを放り込んだみたいだぜ!」


 筆頭で口を開いたのが、戦士。


「このまろやかな口当たり……たまらなくパンを食べ進めさせるわ」


 うっとりとしながらつぶやくのが、魔女。


「しかも、これだけ濃厚な脂でありながら、完全な植物性。

 栄養価も、恐ろしく高水準なのでは?」


 鋭く見抜いたエルフが、ベイブに尋ねた。


「くっくっく……いかにも。

 吾輩が開祖となった栄養学に基づいても、高タンパクとミネラル、食物繊維を併せ持っておる」


 極めて邪悪な笑みを浮かべるベイブに対し、三人のSランク冒険者たちはざわめく。


「こいつは、早速ギルドの献立に組み込んでもらわないとな!」


「そうね!

 同じくギルドマスターが開発したアイスクリームやチョコレートと同じく、愛される食品となるに違いないわ!」


「さすがは我らがギルドマスター!

 本来、あと500年くらいはしないと生み出されなかったであろう栄養という概念を発明しただけのことはある!」


 三人ものSランク冒険者からバチクソに褒められ、ベイブは豊かな腹を大きくのけぞらせた。


「ムッハハハハハ! ムッハハハハハ!

 我が手によって品種改良された各種の作物を、農民たちもよく生産してくれている!

 吾輩がいる限り、民は……ことに、第一線で働く冒険者たちは決して飢えさせぬわ!」


「クックック……」


「フッフフフ……」


「フフ……」


 ベイブと共に、Sランク冒険者たちも大変に邪悪な笑みを浮かべる。なお、言っている内容はただのいいことである。

 かくして、冒険者ギルドの食事に新たな品目が加わったその時。

 バタバタという騒がしい音と共に、執務室兼実験室兼試食室の扉が開かれたのであった。


「――大変です!

 最近姿を見なかった“戦神”ニウ様ことニウ・ラミン様ですが……書き置きを残して出奔されていました!」


「――なんだと!?」


 駆け込んできた秘書――ブロンド美人だ――の言葉に、ベイブがくわと目を見開く。

 驚いたのは、彼だけではない。


「ニウの奴が……。

 あいつ、高ランク向けのブロックで暮らしてねえから、気が付かなかったぜ」


「そうね。

 しかも基本、部屋にこもっているし」


「思うに、室内にて魔力と魔術の鍛錬をしているのだろう。

 それ故、狭い部屋に一人でいることを好むのだ」


 同じSランク冒険者である三人も、それぞれなりの反応を見せた。

 そして、駆け込まれた全員に共通して浮かぶのが、この疑問。


「して、ニウの奴はいかなる理由で出奔したのだ?」


 一同を代表して、ベイブがこれを尋ねる。

 だが、聞かれた秘書の方も、いまいち内容を咀嚼しかねているのか、あごに指を添えながら答えることとなった。


「それが……食事に不満があるから、極東のヤーパンに発つと」


「食事に不満……バカな!?」


 その言葉に、ますます目を見開くベイブだ。

 何しろ、ギルドマスター就任以来最も力を入れている項目が、冒険者へ提供する食事であるのだから、これは当然だろう。


「書き置きに日付はあるか!?」


「はい、書かれている日付は――」


 秘書の言葉を受けて、すぐに棚から書類を取り出す。

 当然、食堂の献立は全て記録していた。


「例として、その前日に提供されていたのは、いつも通りの取り放題形式。

 品目は……」


 以下は、記載されていた料理の名前である。




┌────────────────────┐


 ローストターキー(バーベキューソース)

 フライドチキン

 マカロニミート

 クリームミートボール

 マッシュポテト

 フライドポテト

 茹でグリーンピース

 茹でニンジン

 ライス

 パン

 パンケーキ

 パウンドケーキ(ホイップクリーム付け放題)

 丸ごとリンゴ

 オレンジ

 オリーブ 

 アイスクリーム

 コーヒー

 紅茶


└────────────────────┘




「「「こ……これは……」」」


 品目を読み上げられたSランクたちが、こぞって声を震わせた。

 そして、一言。


「「「完璧な献立だ」」」


「たっぷりの肉に、体を動かす原動力になるパンやポテト!

 男の食事っていうのは、こうじゃなくっちゃな!」


「私、パンケーキにアイスクリーム乗せるの大好き!」


「付け合せのグリーンピースやニンジンで野菜も完璧だ」


 三者三様の理由でもって、ギルドの食事を全肯定する。

 つまり、導き出される結論は……。


「……となると、やはりギルドで出している食事に問題はないか」


 “戦神”ニウは食事に不満を抱いて出奔したと書き残しているが、肝心の食事内容にまったく問題は見受けられない。

 答えの見えない難問へ悩む天才錬金術師に、秘書がそっと耳打ちした。


「ギルドマスター。

 実はそのことで、一つ気になる情報が」


「……何!?」


 ゴニョゴニョと秘密の情報をもたらされたベイブが、またも目を見開く。


「――“戦神”ニウはミドリなるヤーパン出身の地味眼鏡に、いつも食事を差し入れられていた!

 そして、出奔時期はその地味眼鏡が退職し故郷へ帰った時期と被っている!

 その上で、あやつが向かったのもヤーパンか……。

 ならば、答えは出た」


 聡明なるギルドマスターが出した結論……。

 一同は、それに傾注する。


「――毒だ!

 あるいは、禁断症状をもたらす麻薬か。

 ミドリなる地味眼鏡は、卑劣な手段をもって“戦神”を己なしで生きられぬ身としたのだ!」


「「「「――な」」」」


 ――ごくりんこ!


 喉を鳴らした他四名が、一斉に声を重ね合わせた。


「「「「なんて説得力のある推理なんだ!」」」」


「――刺客を放ていっ!

 邪悪な地味眼鏡を討ち、“戦神”を極東より連れ戻すのだ!」


 感心する四名に対し、ベイブが力強く言い放つ。

 かくして、正義の刺客は放たれたのだ!

ペラ紙プロット『テンプレなド無能ギルマスと取り巻きがイイ気になってるところで出奔を知り、慌てふためくざまあイベント』


ボク「うん……うん!」


 お読み頂きありがとうございます。

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