表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと目指す冒険の旅【新しい天賦が目覚めたので、無双します】  作者: なりちかてる
序の章:雪解け水は骨まで凍る(Degelakvo frostiĝas ĝis la ostoj)
5/7

第5話 “初心者殺しの小迷宮”

 それにしても——小隊の隊員同士のコンビネーションとは、どれもこんなものなのだろうか?

 ずっと、「千秋の轍」の戦いぶりを見てきたけど、なんだか、メンバーの間でコミュニケーションがとれている、とは決して言えない。


 ウォーレンも、エルランジュも、前衛としては腕は立つが、それだけだ。

 前衛のふたりはとにかく、戦闘が好きなようで、ギンゲツの指示も聞かずに、目についた招魂獣に攻撃を仕掛けていくし、ギンゲツのほうもそれに対して口を出したりもしない。

 前衛のふたりだって、連携がとれているとは、とても言えない状態だ。


 なんだか、「千秋の轍」は、弱点をカバーし合う、というよりも、ひとりパーティのアリアンフロッドがたまたま、居合わせたような、そんな状態となっている。

 呪文を使った攻撃にしても、ギンゲツを見ればわかると思うけど、攻撃範囲が被らないように発動させたり、または味方に被害が及ばないよう、声をかけたりするものなんだけど、そういうのは、まったくなし。

 気づかなかったほうが悪い、とばかりに好き勝手に攻撃しているんじゃないだろうか。


 その点、アカツキとセリカ姉のコンビネーションは本当に見事だと聞いている。

 ふたりは、ぼくがアカツキ家に引き取られてくる以前から、ふたりは小隊を組んでいたんだけど、ファル=ナルシオンのアリアンフロッドの間では、有名だった。


 そのふたりも、今はもう、どこにもいない。

 アカツキは数年前に亡くなり、セリカ姉は書き置きを残して、九曜の塔の天辺へと目指してしまった。

 ふたりに追いつこう——などとは思わないけど、同じスタートラインに立つことが出来れば、とぼくたちはこうして、アリアンフロッドへの道を歩み始めているのだった。


 それから、ぼくたちは塔の探索を続けた。

 招魂獣と戦い、通路を進み、階層を登り続けたが——ぼくの天賦が目覚めることはなかった。


 アカネも、斬奸刀を装備していないので、天賦を使いこなすことは出来ないみたいだった。

 斬奸刀(ざんかんとう)というのは、天賦を得たアリアンフロッドに特別に与えられる武器で、それを使えば強力な技を放てるというものだった。

 ただし、斬奸刀は招魂殻を使って、専門の工匠師によって鍛えてもらわなければならない。

 呪工(エンチャント)した程度の武器では、天賦の強力さを発揮する前に、折れてしまうそうだ。

 もっとも、天賦を使わなければならないほど、強力な招魂獣にも、まだ出会ってはいないのだけど。


「おー。やっと来たな。”初心者殺し”の小迷宮か」

 壁際に設置された、大きくカーブを描く螺旋階段を昇りきり、その先の広い部屋のような場所に出ると、ウォーレンが言った。


 ——初心者殺しの小迷宮?

 どういう意味なんだろうか……。


 部屋全体はドーム型で、周囲の壁が曲線を描きながら天井へと向かっている。

 床はまっすぐで、段差はない。

 広さとしては、かなりある。

 まっすぐ走っても、すぐには壁までぶつからないぐらいはあるようだ。


 扉は、ぼくたちが入ってきたもの、ひとつだけど、床近くにいくつもの、小さな穴のようなものが開いている。

 ただし、今はその穴は塞がっている。

 部屋の中央には、陣があった。

 たぶん、転送用の陣だ。


 陣の周囲には、八つほど金属製の棒状の杭があり、その尖端には宝石が嵌め込まれている。

 おそらく、中央の魔法陣に魔力を注ぎ込むためのものだろう。


 大きさからして、塔から外側へと移動するためのものではなく、塔のなかの別の場所へと跳躍するタイプのようだ。

 転送用のトラップ——というものだろうか。

 塔のなかには、いくつか、そういう罠が仕掛けられているようだ。


 陣を踏んだら最後、まったく見知らぬ場所まで飛ばされてしまい、帰還することが困難となってしまう。

 転送用のトラップを見るのは、これがはじめてなので、ぼくはその側まで歩いていった。

 アカネとチカも、ついてくる。


「ふぅーん。これが、転送用の魔法陣なんだねー。チカちゃんは見たことあるのー」

「うん? 私は当然、引っ掛かったことはありませんが、何度も見たことはありますわよ」

「そうなんだー。じゃ、踏まないようにしないとねー」


 アカネが言うと、大きな音が響いた。

 部屋全体が、赤く点滅する。

「え……な、なに?」


 チカがびくっと、耳を動かした。

 ぴんと、まっすぐに伸ばした後、垂れ下がる。

 ぼくの右腕を掴んでくる。


 ギンゲツたちを振り返るが、部屋のなかに彼らの姿はなかった。

 先程、入ってきた扉が閉ざされている。

 ということは、そこから出ていった、ということだろう。


 部屋のなかが一瞬、闇に閉ざされる。

 それから、大きな音が響き渡る。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 警告しているような、何も聞こえなくなるような大音声だ。

 その音声が止むと、今度は部屋のなかが赤く照らされた。


 床近くの、いくつもの小さい穴がいっせいに開く。

 ぼくの心臓が、早鐘を打ち出す。

 アカネが腕を伸ばし、チカとは反対側の、ぼくの手をぎゅっと握ってきた。


 トラップが発動したのはもう、明らかだ。

 どういう理由かわからないが、ギンゲツたちはぼくたちを罠に嵌めてしまったらしい。

 穴からは、無数の小さい虫のようなものが床から這い出て来た。

 ゆっくりと、ぼくたちへと迫ってくる。

 じり、じり、とぼくとアカネ、チカはその虫を避けるようにして、後ろへと下がっていく。


 虫たちは、小型の招魂獣なのだろう。

 箱型の水槽のようなものを抱え、円状に配置されている金属で覆われている六本の肢がそれを支えている。

 水槽には、濁った液体が入っており、歩く度に液体が揺れている。


 体の大きさは、ぼくの膝の高さぐらいまでしかないが、問題はその数だろう。

 既に、部屋のなかにいる小型の招魂獣の数は、数え切れないぐらいになっている。


 ぼくの斧とアカネの刀だけでは、招魂獣をすべて、駆逐するのは無理だろう。

 それどころか、穴からはまた、招魂獣たちが次々と部屋のなかへと続いてきている。

 ——死の罠だ……。


 ぼくはさっき、ウォーレンが呟いた、”初心者殺しの小迷宮”という言葉を思い出していた。

 唾を飲み込もうとするが、口のなかはカラカラに乾いていて、舌を動かすこともできない。


「チカ……あの招魂獣は知ってる?」

「え……えぇ。痛鳴蟻(つうめいぎ)です。接近してくる者に、酸を浴びせてくる機械型の招魂獣ですが……こんな大量の痛鳴蟻は、これまで見たことはありませんわ」

「やっぱり、トラップ……ってことだよね」


「ど、どうしますか? 私の天賦でしたら、痛鳴蟻を一掃することは出来ますが……」

 いや——たぶん、無駄だろう。

 あの床近くの穴からは、今も痛鳴蟻を無数に吐き出してしまっている。

 穴を破壊するか、脱出するための扉を開けなければならないのだが——チカの天賦でも、さすがにこの部屋の壁をぶち破れるような威力はないと思う。


 ためらっていると、後方にいた痛鳴蟻の一体が、水槽の下のフレーム、顎が生えているように見える部分を開いた。

 そこから、刺激臭のある液体を放ってくる。

 チカが悲鳴をあげる。

 こちらからは距離があるが、その液体は仲間であるはずの、痛鳴蟻の一体にかかった。


 液体を浴びた痛鳴蟻は奇妙な声をあげて、その場にひっくり返った。

 痛鳴蟻の水槽が割れ、液体が床に撒き散らされる。

 さらに数体の痛鳴蟻が倒れて、次々と刺激臭のある液体が広がっていく。


 酸——というが、かなり強力なものなのだろう。

 液体に浸っている痛鳴蟻が湯気を上げながら、肢やフレームなどを溶かしてしまっている。


 ——どうする? どうすれば、いいのだろう。

 アカネとチカが、両脇から身体を寄せてくる。

 ここから先は、ひとつの選択の誤りが、死を招くことになる。


 死への恐怖が忍びよってくる。

 身体に、震えが走っている。

 こんなところは嫌だ——逃れたい、と訴えかけてくる。


 もはや、ギンゲツたちの悪い冗談だとは、思わなかった。

 ぼくは、背後の転送用の陣を見た。

 一度、あれに飛び込めば、どこへ飛ばされるのか、わからない。

 もっと、ひどい状況へと投げ込まれるのかもしれない。


 だけど——このまま、生きたまま、強酸に体を溶かされてしまうだなんて、想像もしたくない。

 特に、アカネとチカをそんな目に遭わせるわけには、絶対にいかない!


 反対側の手で、ぼくはチカの腕を掴んだ。

 ふたりの顔を見ると、同じことを考えていたようだ。

 頷きかけると、同時に走りはじめた。


 陣へと向かった。

 ぼくたち、三人が揃って陣に足をつけると、金属製の杭に固定されている宝石が仄かに光った。

 足元の陣の線に沿って、白い光が走った。

 下側から、ぼくたち三人の姿が照らされる。


 ぎゅっと、ぼくたちは握った手に力を入れた。

 浮き上がるような感覚が、ぼくたちを襲う。


 体が軽くなり、そして、周囲の景色が消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ