友との食卓、そしてルナの誘い
上級生たちが逃げ去り、廊下は静けさを取り戻した。
アキトは肩をすくめ、ベッドに戻ろうとしたその時――
≪この場に誰か現れる確率:84%≫
≪無事に眠りにつける確率:9%≫
(……やっぱり、オチはつくわけか)
廊下の奥、月明かりに照らされて立つ影。
ゆっくりと歩み寄ってきたのは――黒髪の少女、ルナだった。
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「……やっぱり、あなたね」
低い声でそう告げると、ルナの瞳が鋭く光った。
その視線は、先ほどまでの決闘ごっこを見抜いていたのだろう。
「ただの一年が、上級生二人を追い払うなんて普通じゃない。
偶然じゃ片づけられないわ」
≪ルナがアキトを“ただ者ではない”と確信する確率:79%≫
アキトは鼻で笑い、肩を竦めた。
「俺はただの流れ者だって言ったろ。
オッズが偏ってただけさ」
ルナは口元をわずかに緩め、挑むように囁いた。
「……確率。やっぱり、そう呼んでるのね」
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その言葉に、アキトの目が見開かれる。
≪ルナに≪確率≫の力を知られる確率:47%≫
≪まだ誤魔化せる確率:41%≫
「……さぁな。お前の勘違いかもな」
誤魔化そうとするが、ルナは一歩近づき、静かに見上げてきた。
「私、興味があるの。
運命を数値で読むような――そんな力を、ね」
彼女の声は冷ややかだが、そこには確かな熱が宿っていた。
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≪ルナがアキトに協力を申し出る確率:52%≫
≪ライバルとして執拗に追う確率:48%≫
未来は半々。
アキトは苦笑を浮かべ、月明かりを背にしたルナを見返した。
(……こいつとは、長い付き合いになりそうだな)
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月明かりの下、ルナの瞳が細められる。
その奥に宿るのは、冷たさと――ほんのわずかな期待。
「勘違いでも構わない。
でも、もし本当に“確率”を読んでいるのなら……」
彼女は杖を軽く床に突き、囁くように続けた。
「私と組まない? この学園で生き残るには、
一人よりも、強い手札を揃えた方が有利よ」
≪ルナの提案が本心である確率:63%≫
≪裏に別の意図がある確率:37%≫
アキトは肩をすくめ、苦笑を浮かべた。
「……強い手札、ね。俺はギャンブラーだぜ?
他人の差し出すカードに簡単に乗っかるのは、性に合わねぇんだが」
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ルナの口元がわずかに吊り上がる。
「フフ……いい返しね。
じゃあ、こう言い換えるわ――“次に大きな勝負が来たとき、
私と同じ卓に座る覚悟はあるか”って」
≪ルナと協力関係を結ぶ確率:55%≫
≪決裂する確率:28%≫
数字は不安定だ。
だが、アキトの胸には奇妙な熱が宿っていた。
「……ま、賭け金次第だな」
その答えにルナは満足げにうなずき、踵を返す。
「いいわ。それで十分。――また会いましょう、アキト」
黒髪が月に揺れ、彼女の姿は廊下の闇に溶けていった。
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≪ルナと再び協力する確率:79%≫
≪彼女に裏切られる確率:46%≫
アキトは額を押さえ、乾いた笑いを漏らした。
「……ほんっと、平穏に寝かせてくれねぇな、この世界」
そしてようやく自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
しかし瞼を閉じても、
ルナの冷たい瞳と挑むような笑みが脳裏に焼きついていた。
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翌朝。
アルカナ魔導学園の鐘が鳴り響き、
学生たちがぞろぞろと校舎へ集まっていた。
白亜の校舎の大講義室は、すでに人で埋め尽くされている。
アキトとガルドも人の流れに押されるように席に着いた。
「……すげぇ人数だな。昨日の試験より緊張するぜ」
「お前、昨日は命懸けで笑ってただろ……」
アキトが小声で突っ込むと、ガルドは頭をかきながら笑った。
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壇上に立ったのは、昨日アキトを試した教師――名倉セイジだった。
眼鏡の奥の瞳が鋭く光り、広間に静けさが満ちる。
「諸君、よく集まった。
今日から君たちは――アルカナ魔導学園の一員だ」
≪学生たちが耳を傾ける確率:92%≫
≪居眠りする確率:7%≫
セイジの声は低く、だが不思議と抗えない力を帯びていた。
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「本学園は、三つの柱によって成り立っている。
一つ、魔導の研鑽。
二つ、武技の修練。
三つ、知略の学問。
剣と魔法と学問――どれか一つでも極めればよいが、
すべてを軽んじる者は、生き残れぬ」
学生たちがざわつき、ノートを取り始める。
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アキトの視界に数字が浮かんだ。
≪魔導で生き残る確率:31%≫
≪剣で生き残る確率:42%≫
≪知略で生き残る確率:59%≫
「……やっぱり、“知略”寄りってことか」
小声で呟くと、隣のガルドが首をかしげる。
「ん? なんか言ったか?」
「いや、こっちの話だ」
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セイジは続けた。
「そして――君たちの行動はすべて記録され、
“適性試験”の結果に反映される。
友と競い、敵と争い、時に命を賭けることもあるだろう。
学園は舞台であり、戦場でもあるのだ」
≪適性試験で脱落する確率:37%≫
≪突破して上位に入る確率:41%≫
数字は揺れ、アキトの胸にざらりとした緊張を残した。
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講義の終わり際、セイジは眼鏡を押し上げ、ふとこちらを見やった。
その視線は、明らかにアキトを射抜いている。
「――特に、“異質”な者よ。
君がどう振る舞うか、私は楽しみにしている」
≪周囲がアキトに注目する確率:74%≫
≪噂が広がる確率:61%≫
学生たちのざわめきが広がり、アキトは苦笑いを浮かべた。
(……こりゃあ、ますます隠しようがねぇな)
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講義が終わるや否や、大講義室は再びざわめきに包まれた。
緊張の糸が切れ、あちこちで自己紹介や雑談が始まる。
「なぁ、お前ら! 一緒に食堂行こうぜ!」
ガルドが豪快に声を上げると、周囲の学生たちが何人かこちらを見た。
≪誰かが話しかけてくる確率:86%≫
≪敵意を持って近づく確率:22%≫
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最初に声をかけてきたのは、金髪の少年だった。
やや気取った様子だが、笑顔は柔らかい。
「君、昨日の試験で目立ってたよな。アキトだっけ?
僕はリオン。剣術科でトップを狙うつもりだ」
手を差し出してくる。
アキトはその手を握り返しながら、軽く笑った。
「俺はただのギャンブラーだ。トップはそっちで勝手に取ってくれ」
リオンは少し驚いたように眉を上げたが、すぐに爽やかに笑った。
「面白いな、君」
≪リオンが友好関係になる確率:68%≫
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一方で、別の机から低い声が聞こえてきた。
「……目立ちすぎなんだよ。
新入りのくせに教師に目をつけられて、いい気になるな」
声の主は、腕に包帯を巻いた大柄な男子。
昨日の小事件に居合わせたらしい。
アキトは振り返り、片眉を上げた。
≪挑発に乗る確率:47%≫
≪軽く受け流す確率:52%≫
「……そうか? 俺は目立ちたくなんてねぇんだがな。
どうしても確率がそっちに偏るんだよ」
皮肉めいた返しに、周囲がクスクスと笑った。
大柄の男子は睨みつけながらも、それ以上は言葉を飲み込んだ。
≪敵対関係が深まる確率:61%≫
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そんなやりとりを、少し離れた席からルナが黙って見ていた。
腕を組み、何かを測るような鋭い視線。
(……人を惹きつけ、同時に敵も作る。やっぱり“異質”ね)
彼女の思惑をよそに、アキトの周囲には自然と人が集まり始めていた。
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学園の食堂は、昼になると学生たちであふれかえった。
高い天井に光が差し込み、香ばしいパンや煮込みの匂いが漂う。
トレイを手にしたアキトとガルドは、人の波を縫って空いた席を探す。
「お、あそこだ!」
ガルドが指さしたのは、ちょうどリオンが座っているテーブルだった。
金髪の彼は手を振り、にこやかに呼びかける。
「アキト、こっちだ!」
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アキトは軽く肩をすくめ、席についた。
リオンの隣には、栗色の髪をした少女も座っていた。
大きな魔導書を抱えた、真面目そうな眼差し。
「私はミナ。魔導理論専攻よ。よろしく」
「おう、よろしくな」
≪ミナが友好関係になる確率:72%≫
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和やかな雰囲気が広がる中、突然後ろからトレイが倒れる音が響いた。
濃いスープが床に散り、学生の一人が舌打ちする。
「ちっ……足ひっかけただろ!」
「な、なに言ってるのよ! あんたが突っ込んできたんじゃない!」
小さな口論が広がり、周囲の視線が集まる。
≪このまま小競り合いに発展する確率:64%≫
≪誰かが止める確率:31%≫
アキトは数字を見て、ため息をついた。
「……やれやれ。せっかくの飯がまずくなる確率が上がってきたな」
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軽く立ち上がり、アキトは二人の間に入った。
「まあまあ、ここで喧嘩しても誰も得しねぇだろ。
どうせなら、この学園で勝負すればいいじゃねぇか?」
周囲が笑い、緊張が少し和らぐ。
口論していた二人も顔を赤くし、バツの悪そうに席へ戻った。
≪事態が収まる確率:81%≫
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席に戻ると、ガルドが感心したように言った。
「お前、喧嘩の仲裁まで上手いんだな」
「いや……ただ確率が高かっただけだ」
「相変わらず意味わかんねぇ理屈だな!」
リオンとミナも思わず笑い、テーブルに穏やかな空気が戻った。
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その様子を、食堂の隅からルナがじっと見ていた。
紅茶のカップを持ちながら、彼女は小さく呟く。
「……やっぱり。人を巻き込む力は本物ね」
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昼食を終え、アキトはガルドやリオンたちと別れて中庭へ出た。
石畳の小道を歩いていると、ひやりとした風が頬を撫でる。
次の授業まで少し時間がある――そう思った瞬間。
「……相変わらず、妙に目立つわね」
背後から声がかかった。
振り返ると、木陰にルナが立っていた。
腕を組み、冷たい瞳でこちらを見つめている。
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「お前か……。昼飯くらい、のんびりさせろよ」
「のんびり? さっきの仲裁、あれは無駄に敵を減らしただけよ」
アキトは片眉を上げる。
「……減らしただけって言い方、妙だな。普通は“得”って言うだろ」
ルナは肩をすくめた。
「敵が減るのは確かに良いこと。でも同時に、“力を示す機会”を失った。
この学園ではね、力を誇示しない者は舐められるの」
≪ルナが敵対心を抱く確率:19%≫
≪ルナが興味を深める確率:77%≫
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「……じゃあ、お前は俺に“強さ”を見せろって言いたいのか?」
「いいえ。むしろ逆よ」
ルナは一歩近づき、声を潜める。
「昨日の小競り合いでわかった。あなたの“異質”な力……普通じゃない。
私にとっても興味深いし、利用価値がある」
アキトは目を細めた。
≪ルナが“協力”を打診してくる確率:68%≫
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「はっきり言えよ。協力したいってことか?」
「……そうね。協力“関係”とでも呼んでおくわ」
ルナは淡く笑みを浮かべた。
その笑みは友好ではなく、獲物を試す捕食者のそれに近い。
「あなたが確率を操るなら――私が状況を操る。
お互いの弱点を補えるはずよ」
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アキトは少し考え、肩を竦める。
「俺にメリットがあるなら考えてもいい。
ただし――確率が“裏目”に出ない限りはな」
ルナはくすりと笑った。
「面白い。じゃあ、次の授業……期待してるわよ、ギャンブラー君」
そう言い残して、彼女は風のように去っていった。
アキトはしばらくその背を見送り、深くため息をついた。
(……協力関係、ね。得か損か……確率は五分五分ってところか)