学園の門を叩く者
朝日が差し込み、学園の尖塔は金色に輝いていた。
石畳を踏みしめながら門の前に立ったアキトは、
あまりの威容に思わず息をのむ。
巨大な鉄の門扉には、翼を広げた獅子の紋章。
その奥からは、学生たちのざわめきや、
魔法が弾ける音が漏れ伝わってくる。
≪学園に入る確率:100%≫
≪試験に落ちる確率:68%≫
≪牢屋に入れられる確率:12%≫
「……なんでまだ牢屋に入る可能性があんだよ……」
思わず吐き捨てると、冷たい風が頬をなでていった。
転生してからというもの、まともな安堵など一度も訪れていない。
せっかく新しい人生を得たのに、
待ち受けるのは不安定な数値の羅列ばかり。
それでも――ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
門の奥には、新しい舞台がある。
己の異能を試し、確かめるべき世界が。
アキトは深呼吸をひとつして、門を見据えた。
「まぁ、確率100%だからな……入ったほうがいいってことよな」
小さくうなずき、門へと一歩踏み出す。
その瞬間、鉄の扉に刻まれた獅子の紋章が淡く光り、
まるで誰かの視線が降りかかるような圧を感じた。
≪門が開く確率:100%≫
≪拒絶される確率:0%≫
「……やっぱ、そういうことか」
数字に背を押されるように、アキトは門へ手をかける。
重々しい鉄の扉は、驚くほどあっさりと開いた。
眼前に広がるのは――白亜の校舎と、整然と並ぶ石造りの建物群。
魔法の光が空を渡り、学生たちの歓声と活気が渦巻いていた。
ここから、アキトの“学園編”が始まる。
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「広い学園だな……端が見えねぇ」
呟いた言葉は、喧騒の中にすぐ掻き消された。
目の前に広がる敷地は、もはやひとつの街のようだった。
中央にそびえる白亜の校舎は城を思わせ、
周囲には演習場や寮らしき建物が幾重にも連なっている。
石畳を行き交う学生の数も圧倒的だった。
鮮やかなローブに身を包み、魔導書を片手に談笑する者。
杖の先に小さな火を灯しながらはしゃぐ者。
そして剣を腰に提げ、まるで騎士のように堂々と歩く者――。
≪学園生徒数:ざっと見ても二千人以上≫
≪広さの推定:小国の城下町規模≫
「……とんでもねぇとこに来ちまったな」
アキトは額をかきながら、圧倒的なスケールを前に息を呑んだ。
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アキトは大きく息を吐き、石畳を踏みしめて学園の中へと足を踏み入れた。
広すぎる敷地に迷わされるように、
目に映るものすべてが新鮮で落ち着かない。
校舎へと続く大通りには、魔法で動く屋台が並び、
軽食や筆記具らしきものを売っていた。
その合間を抜けて、学生たちが笑い声を響かせながら駆け抜けていく。
≪道に迷う確率:84%≫
≪不審者として声をかけられる確率:57%≫
「……数字のせいで余計に落ち着かねぇ……」
そうぼやきつつも、興味に勝てず人の流れに合わせて歩みを進める。
中庭には噴水があり、光の魔法で虹を作り出す学生たちの姿があった。
さらに奥では、
武器を携えた集団が掛け声とともに模擬戦を繰り広げている。
「魔法に剣に……ギャンブルどころじゃねぇ世界だな、こりゃ……」
思わず口元が緩む。
だがその背後で――鋭い視線がひとつ、アキトを捉えていた。
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アキトは背後に注がれる視線など知る由もなく、
校舎へと向かう石畳を進んでいた。
近づくにつれ、白亜の校舎の壮麗さが際立っていく。
外壁は大理石のように輝き、
塔の先端には魔力で浮遊する結晶が灯台のごとく輝いていた。
扉の上には「アルカナ魔導学園」と刻まれた文字が、
古代語めいた装飾とともに掲げられている。
≪扉を通過できる確率:92%≫
≪職員に呼び止められる確率:64%≫
「……やっぱ、無事に入れる保証はねぇってことか」
数字に眉をひそめつつも、足は止まらない。
ちょうどそのとき――。
校舎前の広場に集まっていた一団の学生たちが、
剣を肩に担ぎながらアキトの進路を塞いできた。
その誰もが、明らかに場慣れした眼光を向けている。
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アキトが校舎の大扉へ足を向けたその瞬間。
前方に立ちはだかった数人の学生が、揃ってこちらを見据えた。
ローブを纏う者、鎧の胸当てをつけた者、
それぞれ装いは異なるが――視線だけは一様に鋭い。
ひときわ体格のいい生徒が一歩前に出て、声を張り上げる。
「おい、お前!見ねぇ顔だな!」
その声に呼応するように、仲間の一人が剣の柄に手をかける。
「この学園に用があるのか?それとも……ただの迷い込みか?」
広場のざわめきが静まっていく。
周囲の生徒たちも立ち止まり、
興味津々といった顔でアキトを注視していた。
≪戦闘に発展する確率:41%≫
≪強制的に職員を呼ばれる確率:53%≫
「……また面倒くせぇのに絡まれたな」
アキトは小さく舌打ちしつつ、対応を考え始める――。
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アキトは肩をすくめ、取り繕うようにとぼけた顔を作った。
「え、学園? ここが学園なのか?
てっきり……大きな屋敷かなんかだと思ってたぜ」
広場にいた生徒たちの視線が一斉に揺れる。
一番前にいた体格のいい生徒が眉をひそめた。
「……おい、本気で言ってんのか?
アルカナ魔導学園を知らねぇってことか?」
横から別の生徒が鼻で笑った。
「まさかの田舎者かよ。
そんなやつが、どうやってここまで入り込んできたんだ?」
≪嘘が見破られる確率:47%≫
≪この場をやり過ごせる確率:52%≫
アキトは内心で冷や汗をかきながらも、
あえて無知を装って周囲を観察する。
「(……バレる確率と逃げ切れる確率、ほぼ五分か。勝負ってやつだな)」
と、そのとき――後方から足音が近づき、広場の空気が一気に張り詰めた。
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足音はゆったりとしたリズムで響き、広場に緊張が走った。
学生たちが一斉に振り返ると、そこには長身の男が立っていた。
深い藍色のローブを羽織り、
指先で本のしおりを弄ぶように遊ばせながら、口元には余裕の笑み。
眼鏡の奥に光る瞳は鋭いのに、
どこか人を小馬鹿にしたような雰囲気を漂わせている。
「……ふむ。朝から騒がしいと思えば、また君たちか」
その声音は落ち着いているのに、不思議と抗えない重みがある。
学生たちは気まずそうに目を逸らし、剣にかけていた手をゆっくり下ろした。
「せ、先生……これは、その……」
体格のいい生徒が言い訳を探すが、男は首を振って制した。
「言い訳は結構。――で、見慣れぬ服を着た少年。
君は……さて、どう説明してくれるのかな?」
≪教師が追及してくる確率:88%≫
≪その場で放免される確率:12%≫
アキトは教師の食えない笑みを正面から受け止め、次の一手を考える――。
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アキトは一瞬だけ逡巡したが、すぐに飄々とした笑みを浮かべて肩をすくめた。
「えっと……俺、方向音痴でしてね。気付いたらここに来ちゃったんですよ。
学園? へぇ~、ここ学園だったんですか?」
あまりにも能天気な調子に、周囲の学生たちはぽかんと口を開けた。
教師の口元がわずかに吊り上がり、薄く笑みを刻む。
「……なるほど。記憶力が怪しいのか、はたまた役者気取りなのか。
――だが、面白い」
彼はカツカツと石畳を歩き、アキトの目の前に立った。
眼鏡の奥の瞳が鋭く細まり、試すような光を帯びる。
≪この教師に興味を持たれる確率:76%≫
≪その場で牢屋行きになる確率:18%≫
「君のような珍妙な存在……
私の授業に混ぜてみるのも、一興かもしれんな」
学生たちはざわつき始める。
「先生、それは――!」
「まさか、このよそ者を……?」
教師は手を軽く振って沈黙を強いた。
「騒ぐな。判断するのは私だ」
アキトの心臓が跳ねる。
(……こいつ、只者じゃねぇな。策士って顔に書いてあるようなもんだ)
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教師は眼鏡を指で押し上げ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「――さて、少年。学園は遊び場ではない。だが、君がただの迷い人か、
それとも“資質”ある者か……確かめるのも教師の務めだ」
学生たちがざわつく。
「試験だと……?」
「入学試験は半年後のはずじゃ……」
教師は静かに片手を掲げ、空間に淡い魔力の紋を描いた。
すると、周囲の大気が震え、小さな魔物の幻影が次々と生み出されていく。
牙をむき出し、唸り声をあげる狼の影が、アキトをぐるりと取り囲んだ。
「ほうら。ここで生き残れるかどうか、それが試験だ」
≪生還確率:51%≫
≪怪我を負う確率:42%≫
≪即死確率:7%≫
アキトは浮かび上がった数値を見て、思わず喉を鳴らした。
学生たちは息を呑み、教師は楽しげにその様子を眺めている。
(……ははっ、いきなり命懸けかよ。こりゃあ本当に“賭け”だな)
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アキトは周囲を取り囲む幻影の狼たちを一瞥し、口角を吊り上げた。
「……ククッ。なんだよこれ、犬の散歩か?
試験って割にはずいぶんとぬるいじゃねぇか」
その挑発に、周囲の学生たちが一斉にざわめいた。
「な、なんだと!?」
「あの魔狼の幻影を“ぬるい”だと……?」
狼たちが牙を鳴らし、低い唸り声をあげる。
しかしアキトは恐怖よりもむしろ
ギャンブルのテーブルに座る時の高揚感を覚えていた。
≪勝利確率:64%≫
≪致命傷を避ける確率:71%≫
数値が浮かび上がるのを見て、アキトの挑発的な笑みはさらに深くなる。
「上等だ。テメェら、俺の運試しの相手にしてやるよ」
教師はその様子を見て、眼鏡の奥の瞳を細め、口元をわずかに緩めた。
「……ほう。愉快な子だな。ならば――始めようか」
次の瞬間、狼の影が一斉に飛びかかってきた。
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狼の影が飛びかかってくる。
だがアキトの目には、飛びかかる瞬間の
≪噛みつかれる確率:78%≫
≪回避成功確率:22%≫
が浮かび上がっていた。
「……なるほどな。正面から突っ込んだら確率通り喰われるってわけか」
アキトは一歩下がり、狼の影の突進を紙一重でかわす。
次の瞬間、数値が変動した。
≪背後から襲われる確率:36%≫
≪左側面から襲われる確率:61%≫
「左だな……!」
まだ振り返ってもいないのに、アキトは反射的に左へ身をひねる。
直後、狼の牙が空を切り裂き、アキトの頭のすぐ横を通り過ぎた。
「おいおい……これ、悪くねぇな」
彼は心臓を早鐘のように鳴らしながらも、笑みを絶やさなかった。
数値は常に揺れ動く。
アキトはそれを「次の一手のヒント」として使い、
ギャンブラーの直感で最適解を選んでいく。
攻撃を食らう確率が高いルートは避け、
回避率が数%でも上がる行動を選び続ける。
その様子に、見ていた学生たちは息を飲んだ。
「な、なんだ……偶然じゃないぞ……」
「あの動き、確率を先読みしてるみたいだ……!」
教師だけは静かに眼鏡を押し上げ、口元に笑みを浮かべている。
「……なるほど。やはり面白い」
≪勝利確率:73%≫
≪致命傷を負う確率:19%≫
≪全滅確率:8%≫
数値はまだ不安定。
だがアキトは、確率という“賭け札”を読み解き、
勝利へと踏み込んでいった――。
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狼たちは囲みを狭め、じりじりとアキトに迫っていた。
牙を剥き、影の毛並みが逆立つ。
だがアキトの視界には、最後の勝負を告げるように数値が浮かんでいた。
≪一斉攻撃を受ける確率:92%≫
≪切り抜ける確率:18%≫
≪勝利確率:51%≫
「……半々ってとこか。上等だ」
アキトは足元の石を拾い上げ、狼たちの群れの中心に投げつけた。
その瞬間――数値が激変する。
≪群れの動きが乱れる確率:74%≫
≪全体の攻撃精度が下がる確率:68%≫
「よしっ……!」
狼たちは石が落ちた方向に意識を奪われ、一瞬だけ隊列が乱れる。
その隙にアキトは真正面の個体へと飛び込み、拳を叩き込んだ。
「賭けのラストカードってやつだな!」
幻影でありながらも、拳は確かな手応えを返し、
狼の影が砕けて霧散していく。
次々に数値が変化した。
≪残存狼数:5 → 3 → 1≫
≪勝利確率:98%≫
最後の一体が飛びかかる。
アキトはあえて背中を見せるように回避し、狼の牙を誘い込む。
≪致命傷確率:67%≫
≪反撃成功確率:33%≫
「三分の一の大穴狙いだ……!」
牙が迫った瞬間、アキトは体をひねり、狼の首元に肘を叩き込んだ。
爆ぜるように影が散り、辺りの空気が一気に静まり返る。
≪勝利確率:100%≫
アキトは肩で息をしながら、挑発的に笑った。
「……ほらよ。これで“合格”でいいんだろ?」
見ていた学生たちは口をあんぐりと開け、
教師だけが愉快そうに手を叩いていた。
「見事だ。――合格だ、少年」
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アキトが狼を倒した直後――空気が一気に緩んだ。
学生たちのざわめきは驚嘆と畏怖に満ち、
誰もが「試験は終わった」と思い込んでいた。
しかし教師だけは、にやりと唇を吊り上げる。
「……なるほど。やはり本物だな。
だが――この程度で終わりだと思ったか?」
ぱん、と教師が指を鳴らした。
途端に、先ほど砕け散ったはずの狼たちの残滓が再び蠢き出す。
それらは一つに集まり、
黒い霧の塊となって渦を巻き……やがて、巨大な影の獣へと変貌した。
≪影獣・完全形態 出現確率:100%≫
≪アキトの生還確率:27%≫
「……は?」
目の前の影獣は先ほどの狼の数倍はあろうかという巨体で、
校舎の壁を覆うほどの大きさだ。
赤く輝く目がアキトを射抜き、
ただ立っているだけで周囲の学生たちの膝が震える。
教師は余裕の笑みを浮かべたまま言った。
「真の入学試験はここからだ。学園とは――“ただの才覚”では生き残れん。
己の知略と度胸、それに運命を切り拓く力を示してみせろ」
周囲の学生たちがざわめく。
「な、なんであれを……!」
「正規の入学試験じゃないだろ!」
だが教師は聞く耳を持たない。
「ここで生き残れば、堂々と学園に迎えよう」
アキトの視界に、無数の数値が浮かび上がる。
≪影獣の弱点を見抜く確率:12%≫
≪影獣の初撃を耐える確率:9%≫
≪勝利確率:3%≫
「……確率低すぎだろ、オイ」
アキトは苦笑しながらも、挑発的に笑みを浮かべる。
ギャンブルの修羅場で何度も見た「絶望的なオッズ」に、
血が騒いで仕方なかった。
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影獣が咆哮を上げると同時に、
地面が揺れ、学生たちは恐怖に足をすくませた。
アキトは一歩も引かず、その場で口角を上げる。
「……なるほどな。正攻法じゃ勝てないって確率が出てるわけか」
目の前に浮かぶ数値を凝視する。
≪真正面から戦う勝率:3%≫
≪影獣を利用する確率:29%≫
≪教師を巻き込む確率:41%≫
「(……フフ、あるじゃねぇか。使える“穴目”が)」
影獣が巨腕を振りかぶり、アキトを叩き潰そうとした瞬間――
アキトは自ら一歩踏み出し、わざと攻撃の射線上に立った。
≪被弾確率:99%≫
≪生存確率:4%≫
学生たちが悲鳴をあげる。
「バカだ! 死ぬぞ!」
だが、アキトは冷静に微笑む。
「……このゲーム、俺がディーラーだ」
直撃の瞬間、アキトは地面の石を蹴り、わずかに位置をずらした。
拳は彼を掠め、直後――背後に立っていた教師の真横に叩きつけられる。
轟音とともに地面が抉れ、土煙が舞う。
教師の姿はかすかに揺らぎ、幻影のように空気へ溶けた。
≪教師が実体を隠していた確率:84%≫
≪影獣の支配権が揺らぐ確率:62%≫
アキトは確率の揺れを即座に掴み取る。
「――やっぱりな。お前、この獣と繋がってやがったろ」
影獣は苦悶するようにのたうち、赤い目が一瞬、濁る。
その隙を逃さずアキトは声を張った。
「聞こえてんだろ! お前ら学生! 俺に協力しろ!
いま、この獣の弱点は“教師”と繋がってるところだ!」
ざわめいていた学生たちが一斉に武器や魔法を構え、
影獣に向けて力を放つ。
数値が一気に跳ね上がる。
≪勝利確率:3% → 74%≫
アキトは笑った。
「ほらな……ギャンブルってのは、台を揺らせばオッズが変わるもんなんだよ」
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学生たちの魔法が一斉に炸裂した。
火球、雷撃、氷槍――色とりどりの魔力が影獣に突き刺さり、
咆哮が夜気を震わせる。
≪影獣の耐久率:45%→12%≫
アキトは確率の変動を確認し、息を吐いた。
「……とどめのタイミングは、俺が引く」
影獣の巨大な腕が再び振り上げられるが、その動きは鈍くなっていた。
アキトは手近の石を掴み、軽く放り投げる。
≪石が影獣の眼を撃ち抜く確率:2%≫
≪石が注意を逸らす確率:93%≫
「狙いはそこじゃねぇ……引き金だけで十分だ」
石が獣の眼前をかすめ、わずかに注意が逸れた瞬間――
学生たちの魔力が一斉に炸裂。
轟音と閃光の中で、影獣は苦悶の絶叫をあげ、ついに崩れ落ちた。
≪勝利確率:100%≫
場に静寂が訪れる。
土煙が収まると、
影獣の残骸は黒い霧となって消え、ただの広場が残るばかり。
学生たちは息を荒げながらアキトを振り返った。
「……本当に、倒したのか?」
「アイツ……わざと仕掛けて、みんなを動かした……?」
ざわめきが広がる中、空間に揺らぎが生じ、教師が姿を現す。
冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりと拍手を送っていた。
「見事だ。策を弄し、確率を読み、状況をひっくり返す……」
「少年。合格だ。これで君は、我が学園に正式に迎え入れられる」
教師の言葉に学生たちが一斉に驚きの声をあげる。
アキトは肩をすくめ、心の中でほくそ笑んだ。
(……学園入り確率、100%。上等じゃねぇか。こっからが本番だろ)