1/9
プロローグ
ネオンの光が雨に滲む。
深夜の裏路地。
カジノ帰りの男は、煙草をくわえながらよろけるように歩いていた。
そのポケットは空っぽ。
勝負に勝ち続けた人生の末路は、
あっけなく「いかさま」という形で幕を下ろした。
テーブルの上に散らばったカードのイカサマを見抜いたのは遅すぎた。
勝率を読み切ったはずの自分が、
最後には「運」ではなく「ズル」に負ける。
その事実が、何よりも惨めだった。
胸の奥に、長年積み上げてきた勝負勘が砕ける音がする。
喉に絡む苦い笑いを押し殺し、男は夜風を浴びながら歩いた。
交差点。
赤信号を無視して突っ込んできたトラックのライトが、
視界を真っ白に染め上げる。
──その瞬間、時間が止まった。
迫る光の中で、ふと「数字」が浮かんで見えた。
助かる確率、0.01%。
生き延びる確率、限りなくゼロに近い。
だが、男は思った。
「それでも、俺は最後まで賭けてやる」
衝撃音と共に、世界が闇に沈む。
次に目を開いた時──彼は見知らぬ大地に立っていた。