ここだけの話ってさ
「ここだけの話にしといてやるんだけどさ、シャンヅェンお前、管財総務課の受付ちゃん好きだろ?」
「んぅぇあ!? げほっ、ごほっ」
「あー、ごめんごめん。飲み物飲んでる時に話しかけた俺が悪かった。そしてよーくわかった」
シャンヅェンの先輩にあたるこの男、イサクは、挙動不審な後輩の言動をからかうように肩を叩いた。
時期は丁度麗らかな春の日が心地よい頃。
彼らの主であるカタバミ様が美しいお妃様を迎えられてお祭りムードだったものだから、少し浮かれていたのかもしれない。
「最近お前夜勤でも早めに来た日は率先して鍵返しに行ってるだろ? たまたま近く通った時に見たらでれでれした顔で受付ちゃん見てるしなぁ」
「イサク先輩ガチで最悪です」
「フラれてもストーカーにはなるなよ」
「うっわ本当にこの先輩最悪」
「最悪って2回も言うなよ泣いちゃうぞ」
「泣けば良いんじゃないっすか」
イサクは辛辣な後輩の言葉に、細い目を更に細めて笑った。
「悪かったって。別にからかったんじゃなくて、お前女の子に免疫無いからデート先とかプレゼントとか迷ったら相談のってやるぞって言いたかっただけだよ」
「先輩が遊びまくってる女の子とカノコちゃんを一緒にされるのはちょっと……」
「なんだよー。俺結婚経験者だぞー!?」
「離婚しましたよね。風俗行きまくってたのバレて」
「そうなの。だって性欲強いからしょうがないの」
「わー、クズってこういうやつのこと言うんだろうなー」
「と、まあ、冗談はここまでにしといて」
イサクはすっと真顔になった。
「宮庁勤めで鍵番ってことは身辺調査確実にシロだろ。良かったな」
腐っても一国の長の護衛だ。
墓場まで持っていかなければいけない秘密もたくさんあるため、うっかりハニートラップにでも引っ掛かったら国が崩壊してしまう。
「職業病かもしんないっすね。無意識でもそういう相手選ぶのって」
「シャンヅェンは俺と違って、真面目だから余計にそうなんだろ。ま、がんばれー」
イサクはぽんと肩を叩き、雑談はもう終わりだと軽い調子で歩きだしていた。
普段どおりの会話だった。しかし、シャンヅェンは心に引っ掛かることがあり、イサクを振り返って見た。
「『俺と違って』って、イサク先輩まさか……」
「どうだろな。想像にお任せするよー」
後ろ手を振って去っていくイサクを見て、シャンヅェンはなんだか無性にカノコに会いたくなって、胸元でぐっと手を握り込んでいた。
後日。シャンヅェンは青筋を立てながらイサクを壁に追い詰めていた。
「先輩、なんでスイホウ様に俺がカノコちゃんに片思いしてるってバレてんですか……?」
イサクはちっとも笑っていない後輩から目線をそらし、諦めたかのようにからりと笑って肩を叩いた。
「シャンヅェン、良いことを教えてやろう」
イサクは細い目でわかりにくいウインクをした。
「『ここだけの話』ってのは往々にして、拡散されちまうんだよ」
「やっぱり発信源ここかよマジでこの先輩最悪」




