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3.



「ここだけの話なんだけどさ、カタバミ様の告白全然スイホウ様に届いてなくてウケる。お世継ぎ問題本格的にヤバいわ」

「カタバミ様の今までの行いですかねえ。あと全然『ウケる』という感じの顔してませんが本格的に大丈夫ですか?」

「ははっ」

シャンヅェンはコミカルなキャラクターのように笑っているが、目が全く笑っていない。


「カタバミ様の問題なのに側近がちゃんとしてないせいだって宰相から理不尽に怒られるわ、スイホウ様の侍女や護衛からは白い目で見られるわ、親父からも『ちょっとこのままはダメだよねえ』って発破かけられてるわで逃げ場が無いのがキツい」

シャンヅェンの父親は西側の帝国との国境付近に領地を持つ貴族で、一言で言うと中々の交渉上手なたぬきおやじである。


「すごく中間管理職やってますねえ。さすが我々世代の出世頭。下っ端には眩しいわ」

「棒読みじゃん」

「そりゃ2交代制常習(12時間労働)の護衛官は羨ましくもなんともない」

「可哀想でしょ。なにかご褒美ちょうだい?」

きゅるんと小首を傾げておねだりする姿が普段と同じ姿過ぎたので、先程までの同情を返して欲しい気分だ。

カノコは半眼でカウンターの上で頬杖をつく男を見上げた。

「お賃金がご褒美でしょうが高給取り」

「お賃金は魅力的だけどストレスやばい。禿げそう」

ガチのトーンだった。

本当に疲れているらしい。

「禿げ……は……うん……頑張ってください」

「ねえ何その含んだ言い方?? ねえ??? まだ大丈夫だよね???」

頭を押さえるシャンヅェン。

少し気になるお年頃なのだろう。


「しょうがないので秘蔵のおやつをあげましょう」

カノコはごそごそと机をあさると、アーモンドのたっぷり乗ったフロランタンをシャンヅェンの手に乗せた。

カノコの手のひらにちょうど良いサイズだったが、シャンヅェンの手に乗るとやけに小さく見えてしまう。

「あー甘いもの助かるー……女神ー……んぁ、結構苦くてうめえ。どこの店のやつ?」

貰うやいなや、セロハンに包まれたそれを外してぽいっと口に放り込んだシャンヅェンは、かりかりと口の中で転がすように噛んでいた。


「あ、私が作ったやつです」

がりっ、と大きく噛み砕いた音がした。


「……」

驚いた顔でこちらを見るシャンヅェンに、何かまずいことをしてしまったかと不安になった。

「すみません……もしかして他人が作ったものとかダメなタイプでしたか? 一応昨日作ったものなので賞味期限とかは大丈夫だと思うのですが……」

「いや、女子の手作りとか貰ったの初めてで……」

口元を押さえて耳まで真っ赤にして照れているから、どうにも調子が狂ってしまう。

女子て、20代半ばの同年代にそんな学生みたいな言い方て。

「……またまたー。学生時代とかいくらでも貰えそうなイベントあるじゃないですか」

「いやほんと。モテたこと無いんだって。15歳くらいまでぽっちゃりデブで、そのあとはずっと男子校だったし」

「あら……シャンヅェンさんなら多少ぽちゃっとしていてもお姉様方に可愛がられそうですけどねえ」

「近所のおばちゃん達にはモテてたな。めっちゃ野菜とか貰った」

「なるほどぉ……そう言うことならもう一個あげますね、マダムキラー」

「マダムキラーはやめなさい。でもお菓子は貰います」

いそいそと両手を椀のようにして受けとるシャンヅェンが面白かったので、余分にもう一個足してあげた。


「へへ、事務所で見せびらかしながら食おっと」

「まじでやめてください。自分用のおやつなんで見た目微妙なんですって」

「そんなこと無いけどな。今度お返しあげるね。食べれないものとかある?」

「特に無いですがアルコール入りのものは職場で食べた時の罪悪感がなんかすごいので避けたいですね」

パウンドケーキやチョコレートをお土産や差し入れで配られた際に時折遭遇してしまうのだが、うっかり食べてしまうと微妙な気分になるので好ましくはない。

勿論、勤務時間外なら大好物だ。


「お酒自体は強いの?」

「ほどほどですね。生中のジョッキなら5杯程度はいけますけど、ワインやウイスキーが混ざると、ビールを1杯しか飲んでなくても悪酔いするタイプです」

「想定より全然飲めてる。じゃあ酒ありのご飯誘ってもいい?」

「嫌ですよ。素面でこれだけ愚痴多いのに、更に愚痴ばっかりになりそうじゃないですか」



なんて会話をして数日たった終業後。

帰る間際のカノコの元に、ばたばたと少し乱雑な足音をたててシャンヅェンがやって来た。


「カノコちゃんーーー本当にありがとう! これお礼!」

「え、どうしたんですかこれ」

数欠片のフロランタンのお返しとは思えない豪華な装飾の袋を渡されて、カノコは目を白黒させた。

……袋の重さと大きさ、ロゴから考えて、要人御用達でお馴染みの店のチョコレートだろう。

詳細な値段まではカノコは知らないが……嬉しいを通り越して恐怖を感じる価格帯だったような気がする。


袋を抱えたまま固まるカノコに気づいていないのか、シャンヅェンはあっけらかんと話し出した。

「いやあのさ! 事務所でこの間貰ったお菓子見せびらかしてたらさ、丁度カタバミ様がおられて『こんなものが嬉しいのか』って言われて」

「ちょくちょく失礼ですね。やっぱりそういうとこですよ」

「そうそう、失礼じゃん。それで俺がめちゃくちゃ怒ったんだよ。『疲れてる時に好きな子が俺のためにくれたんですよ! 自分の事を想ってのプレゼントなら飴玉でもダイヤになりますよそりゃ!』って言ったらなんか考え方変わったみたいでさ、今までドレスとか宝石とか好きにこの金で買いなのスタンスだったカタバミ様が、スイホウ様に鉢植えのお花あげたんだよ。なんかそれスイホウ様の故郷でよく咲いてる花で、そこの花畑で味もそっけもないプロポーズして連れてきちゃったからやり直しさせてくれって言って。そしたらスイホウ様に刺さったみたいでさ! そこから祝! 同衾よ! カタバミ様のマーラ様がようやくスイホウ様と合体して外までアンアン喘ぎ声聞こえてきて一番新入りのリュテなんか顔真っ赤にして前屈みになってやがんの! そんな状態だと仕事にならねえから抜いてこいって言ったら全然戻ってこなくて」

「ちょっと待って色々待ってめちゃくちゃいい話の中に聞き流せないところといらない下ネタ混ざってるちょっと情報量!」

「なんだよ。まだ面白いところあったってのに」

不貞腐れた顔でそっぽを向くシャンヅェンは、自分が今何を言ったのか覚えていないのだろう。

カノコひとりがとてつもなくどきどきして手が震えてしまっている。


「あの……まずカタバミ様とスイホウ様はおめでとうございます。それ以外の情報については聞かなかったことにしますね。ええ」

「いや、ごめん……思い返したら俺すごいこと言ってた……ちょっと待って……」

顔を手で覆って背を向けるシャンヅェンは、そのままへなへなと崩れ落ちてカノコから見えなくなった。


「あー、その……大丈夫ですよ。シャンヅェンさん」

「慰めは大丈夫。いっそきっぱりと『無いわー』って言って欲しい……」

「その、一緒なので大丈夫ですよ」

「なにが?」

「気持ちが」


「は……?」

カウンターの影から驚いた顔がひょこっと出てきた。


「カノコチャン、オレノコトスキ?」

「なんでカタコトなんですか……ここだけの話ですが、嫌いだったらこんな機密事項の共有者なんてとっくにやめてますよ」


くすくす笑うカノコを見て安心したのか、シャンヅェンは大きなため息を吐き出してへなへなと崩れ落ちていった。





最後におまけがあります

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