能力名は【黒い向日葵】
コードネームは『土曜日のひまわり』4402
検索用Nコード:N9325HY
作者:腰抜け16丁拳銃/クロモリ440 先生
の二次創作です。
作者の腰抜け16丁拳銃/クロモリ440 先生より許可をいただいております。
※ しいな ここみ 先生主催の【リライト企画】参加作品です
短いけど、異能力バトル!!
後頭部にごりっと押し当てられた冷たい感触に、おれの首筋から汗が垂れる。鉄の温度を持ち、鉛の銃弾を吐き出すその孔は、鋭利でもなければ三日月を描いてもいないが、死神の鎌のようだった。
いくらおれが居合の達人とはいえ、この距離で銃口を背後から突きつけられては、できることは限られる。
普通なら選択肢はみっつ。
前方か左右にステップを踏んで、この零距離射撃から逃れるか。
肘や踵で、一撃をいれて、間合いをとるか。
半回転しての居合で、斬り捨てるかである。
だが、あいては【初動殺し】の能力をもつ男だ。視界内にある対象の動き出しをすべて感知し、光速の早撃ちで仕留める。
おれがさきほどのみっつのうち、どの選択をとろうとも、ぴくりとでもした瞬間に、後頭部から顔に抜ける風穴があくだろう。
だが、やつもこのおれから少しでも情報を引き出さねばならない手前、こちらが動くまでは撃つわけにもいかず。
口を割らないおれとのあいだで、しばらく膠着状態が続いていた。
そして、正午を挟んでもう三時間、こうしている。
背負っていた太陽は、頭上をとおりこして、おれの視界まで降りてきた。
誰のものかわからない気配に、こちらから誘い出したこの屋上でも、まさかこう簡単に背後をとられるなどとは思ってはいなかった。しかし一見、絶体絶命のように見えて、このロケーション。じつは最悪なわけでもない——いや、「最悪ではなくなった」と言ったほうが正確か。
「おぉい、いぃ加減、吐いちまったらどうよ?
あんたも、おれの能力を知らんわけじゃあ、あるまいに。
ぴくりとでも動いても、ずどん!
動かなくても、おれがもういいやって思っちまやぁ、ずどん!
こんな屋上じゃ、邪魔もはいらねぇし、はいったとしてもその瞬間に、ずどん!
ずどん! ずどん! ずどんだぁ」
「……吐けば、この場は生かしといてくれるとでも?」
おたがいの初動はどちらにせよ、直ちにおれの死を引き起こすものになる。ふたりとも、会話のための唇と喉、そしてわずかな腹の上下以外は、石像のように動くことがなかった。
「んん? どうだかなあ?
だが、吐かないなら死ぬしかねえぞ。
正面からの銃撃なら、マシンガンさえ全弾斬り払うおまえの刀でも、この位置関係はどうしようねえだろぉ?
時間稼ぎも無駄ぁ。吐かねえなら、撃っちまうかぁ?」
最期通告のような台詞だが。それはおれにとっても、そろそろ頃合いだと思わせるものであった。
「半分正解、半分不正解。結果としては、残念だが赤点だな」
「なに?」
おれの不敵な返しに、やつの片方の眉毛がはねあがる——見てはいないが、そんな声色。
「たしかにおれの居合の腕のほうは、きちんと把握してくれてるようだけどね——もうひとつ。
おれの能力でもある【黒い向日葵】の字名を忘れちゃいないか?
おまえの能力のように、おおっぴらに見せちゃいないから、その全貌を知らないとはいえ——いや、知らないからこそ迂闊だぞ」
こんどは手汗でも滲ませたか。こっちはおれの首すじに垂れたから、見なくてもよくわかる。
「時間稼ぎは無駄だと言ったよな?
その無駄な時間稼ぎのあいだに、太陽はおれの前方まで降りてきた。
おれが目を空にやれば、その光が見える。
【黒い向日葵】はその花を咲かせるんだ」
「くっ!」
おれの初動を待たずに引き金をしぼろうとするが、もう遅い。
太陽が目の前にあるということは、おれの影は背後に——やつの足もとに伸びているということだ。
正午を過ぎたとはいえ、まだ昼間。影の長さは心許ないが、この間合いならじゅうぶんだろう。おれの影もやつを呑み込むほどには、のびているはず。
「咲くがいい。
【黒い向日葵】!!」
牙のような花弁をぐるりと生え揃えた、漆黒の向日葵となったおれの影が、刹那にしてやつを喰らう。
叫び声も呻き声も許さぬ、丸呑みだ。
さすがの【初動殺し】も、その範囲を床にまでひろげていなかったのが禍いしたか。
残骸も残さず喰らわれたのを確認するために、おれが振り向くと。漆黒の向日葵も掻き消えて、そこにはコンクリート打ちの床があるだけだった。
おれの【黒い向日葵】。
おのれのその影を肉食花とする、凶悪な能力ではあるが。
太陽を正面から目にして、背負った影しでしか、その花を咲かせられないという発動条件は意外と厳しく、使い勝手を著しく悪くしている。
影のほうを振り向いてしまえば、太陽を見ることができないわけだから、花は消滅してしまうため、鏡越しでなければそちらを目視で確認することもできず(太陽は鏡越しでなく、正視せねばならない)。目視できないから、むしろ好都合でもあるとはいえ、こちらの操作もうけつけずに、すべて花の食欲に任せるしかない。
花の鮮度は落ちるものの、透過度さえ高ければ硝子ごしでも発動できるのだが。ほぼ屋外、それも日照条件の良い場所と時間、さらに良い天気を必要とする。
影の長さと密度で射程距離と威力が変わること(短い影なら強いがリーチが短く、長い影なら遠くに届くが威力は下がる)も含めて、いつでもどこでも安定して使える能力ではないうえに。
これらの詳細がばれてしまっては、使用条件を満たさない状況での戦闘を強いられてしまうため、無力化も容易い。
そのため、この能力に頼らないように。
おれは刀の腕を磨き、居合の達人となった。
こいつ一本でも、おれはじゅうぶん一流を名乗れるほどだ。
能力に溺れることもないが、ひとつの切り札として有効には使わせてもらう。
一流は無いものには嘆かないが、すでに有るものにも頼りにきらないやつのことを言うんだ。
【黒い向日葵】が咲くのを目にできる者は、そう多くはないだろうが。
目にできたそのときは、そいつの死をお約束しよう。
楽しく描けました。