蝉の瞳
ヤクモは、道ばたで死んでいる蝉を見つけた。
透明な羽のそいつは、ひっくり返って空を見つめて死んでいた。
「この蝉は最後に空を見つめて何を思ったんだろう。
もう一度あの空を飛びたい?
もう十分生きた?
死ぬのが恐い?」
ヤクモはそう思った。
いつもなら「蝉が死んでる」とすら思うか怪しいくらいの意識しか割かないはずの道ばたの蝉に、何故かヤクモは歩みを止められてしまった。
空を振り仰いでみた。
まだ世界を暑くし続けている太陽は、青空の真ん中にある。
カレンダーの夏の終わりはもうすぐそこまで来ているのに、温暖化というもののせいだろうか。
白熱の太陽は直視を頑として拒む。
「最後にあの太陽をきちんと見たかったのかもしれない。」
おそらく全然当たっていないだろうと思ったが、八雲は妙に納得してしまった。