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【甘口ホラー】帰れない帰り道

作者: 衣谷強
掲載日:2023/07/04

夏のホラー2023参加作品です。

が、タイトル通り、普通のホラーとは怖さの方向性が違います。

夜寝られなくなる事はないと思いますので、怖いのが苦手な方もよろしければお読みください。

 ……妻が言っていた。


『プールから帰って来る時は、回り道して帰って来てね』


 私はその意味が分からず、曖昧に頷いていた。

 それがどれほど大切で、意味のある言葉かを知らずに……。




「パパ! プールたのしかったね!」

「あぁ。天気も良くて良かったな」

「うん!」

「さ、早く帰ってお風呂入ろうな」

「えー? プールのあとにシャワーしたからいいでしょー?」

「頭シャンプーしてないだろ? 髪の毛ごわごわになるぞ?」

「それはやだー」

「じゃあお風呂入ろう」

「……はーい」


 少しむくれるはなの手を握り、私は家路を急いだ。

 プールの疲れから、早く家に帰りたいと思ったせいだろうか。

 妻の言葉を私はすっかり忘れ、家への最短ルートを進んでしまった。




「あ! パパ! パンダこうえん!」

「お、そうだな」

「パンダさんのる!」

「え? いや、今日はもう帰ろう」

「やだ! パンダさんのるの!」

「えぇ……?」


 華が指さすパンダさんは、空飛ぶヒーローのような形のパンダのお腹にバネがついた遊具だ。

 前後左右に揺れるだけで、何も楽しくないだろうと思うが、華はどうしてもこれに乗りたいらしい。

 無理に連れて帰ったら大泣きするだろうな……。


「しょうがない。ちょっとだけだよ」

「わーい!」


 華は嬉しそうにパンダにまたがると、猛然と漕ぎ始めた。

 まぁこんな単純な遊具、少し遊んだら飽きるだろう。


「たのしー!」

「そうか、良かったなー」


 歓声を上げて喜ぶ華。

 うん、無理に連れ帰らなくて良かった。


「つぎはゾウさんのるー!」

「えっ」


 ゾウさんはその名の通り、ゾウの形の滑り台だ。

 華は滑り台に乗ると長いんだよなぁ……。


「……なぁ、帰ろうよ……」

「やだ! ゾウさんのる!」

「……しょうがない。一回だけだよ」

「うん!」


 ここで私はようやく妻の忠告を思い出した。

 回り道をしていれば、この公園を避ける事ができたのに……。


「パパー! すべるとこみててー!」

「……あぁ、見てるよ……」

「きゃー!」


 楽しそうな華。

 傾いていく太陽。

 このままでは夜まで遊びかねない……!

 そうだ!

 妻なら華を帰らせる、何か良い手を知っているかも!

 急いで『パンダ公園に入ってしまった。どうしたらいい?』とメールを送る。


「パパー! すべるのみてー!」

「あ、うん、見てるよ」


 ゾウさん滑り台の上で手を振る華を見守りながら、妻の返信を待つ。

 あ、来た!


『長いよ。覚悟して』

「……」


 この文面で私は理解した。

 この帰れない帰り道は、まだ始まったばかりなのだと……。

読了ありがとうございます。


げに恐ろしきは子どもの「まだあそぶ!」ですねぇ……。


もう一つコメディーホラーを考えていますので、投稿の際には、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖くなかったですが良かったです。 ちょっとだけが長時間に子供あるあるですね。
[良い点] 子供を甘やかすと怖いけど、説明しない妻も怖い。あるいはいい加減な返事や「子供に甘いこと」が多すぎるに夫に業を煮やして、あえて説明しなかったのかも知れないけど、その場合、意思疎通出来ていない…
[一言] 井上陽水の名曲 『帰れない二人』を思い出しました ホラーでは無いけど 途方に暮れる感じ (´;ω;`)
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