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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
58/75

28

わくわくわくわく。

船艇があの海域に着いた。


龍志朗は遠くから見ていた時は浜辺だったのに、近づいたら絶壁に見える事に驚いた。


「ここから、幻術なのか・・・」


「そうだ、だから一旦船を沖へ戻す、それから、目標地点を見失わないようにそれぞれが近づいて行く」


驚きの声を漏らした龍志朗に龍斗が諭す。


後ろを振り返り、皆の眼を見てから龍斗が振り上げた手を下す。


一斉に飛び上がって行き、甲板に防御陣が居並ぶ。


真正面へと最大速度で向かう龍志朗に靄が掛かってきた。


速度を落とし、両手に紅い炎を乗せ、靄を薙ぎ払いながら、叫ぶ。


「彩香、彩香」


靄が薄らいでくるがその向こうには絶壁が見える。


龍志朗より少し後ろの上空に居る龍斗が靄の上に陣取り、凍らしていくと、小さな破片のように、靄が下に落ちて行く。


龍志朗が避けた靄が左右に流れると、北や岩木達が更に横へと流していく。




攻防の向こう側で、彩香と彩也が浜辺に立ち竦んでいた。


「今回は強いね、前回の者と同じ様な気がするが、強い者が加わったのだね、彩香、力を貸しておくれ、結界を張る範囲が広くて・・・」


彩也が息切れをしながら、背中を八十助に支えられていた。


彩也の手を彩香が握っている。


「おばぁ様、よく・・・解らなくて申し訳ありません」


彩香の眉尻が下がり、気弱な声で応える。


「儀式が終わったばかりで、これから、と思っていたのに、向こうさんが早かったんじゃよ、せっかちだね」


切羽詰まっているはずなのに、彩也の声はどこかのんびりしていた。


「あ・・・か・・・、・・・や・・・」


微かに声がした。


彩香は周囲を見渡したが彩也も八十助も誰も声は発していなかった。


「あや・・・あ・・・か、・・・やか・・・」


再び声がする。


「おばぁ様、私、誰かに呼ばれているような気がします、海の上の方から・・・」


彩香が彩也の目を見つめた。


彩也にも微かに何かが聞こえるのだが、不確か過ぎて解らなかった。


「あ・・・・・や・・・・あ・・・・・・・か・・・・」


微かに聞こえてくる声が気になって、集中できなかった。


「あやか・・・あやか・・・」


聞き覚えのある声が微かだが、靄の向こうから聞こえてきた。


「龍志朗様?」


聞き間違える筈の無い、聞きたかった声である。


「彩香、彩香」


声のする海上に意識が向いた、目を凝らして声のする方を見つめた。


薄くなった靄の向こうに、龍志朗が見えた。


「龍志朗様!」


彩也の手から離れ、彩香は海へと駆ける。


「彩香!」


彩香の声を聞いた瞬間、靄が晴れて、浜辺に彩香の姿が見えた。


龍志朗は彩香の元へと駆け降り立った。


腕の中に彩香を強く抱え込んだ。


「彩香、彩香、彩・・・香・・・」


龍志朗は何度も何度もその名を呼び、自分の腕の中の温もりを確かめていた。


「りゅ・・・し・・・」


彩香も声にならない声を、その温かな胸板に呟いていた。


もう、二度と戻れないと思っていたその胸に頬をつけて、溢れる涙で濡らしていた。




彩也の数歩前に龍斗が降り立った。


彩也の前には、剣を抜いた八十助が、後ろ手に彩也を庇いながら、睨んでいた。


「突然で申し訳ない、そちらは一族の長だろうか? 私は月夜龍斗、危害を加える気は無い、どうか話を聞いて欲しい」


両手を上げて、静かに八十助に告げた。


「月夜?」


彩也が八十助の後ろから声を出した。


「月夜龍りゅう真まは私の父です、ご記憶にありますでしょうか?」


龍斗が八十助の後ろに見え隠れする彩也に向かって声を掛ける。


「龍真坊の・・・坊か?」


彩也は、馴染みのある名前が出てきて驚いた。


「八十助、剣を引け、危害は及ばない、お前も知っているだろう、昔話によく出てくる月夜の者だよ」


彩也が目の前に立ちはだかっている八十助の背をトントンと軽く叩く。


八十助も剣を終うが、彩也の前からはどかない。


浜辺に北や岩木達も降り立ったが、必要以上に近づかない。


「おばぁ様」


漸く、腕を解いてもらった彩香が彩也の方を振り返ったが、腰はしっかり龍志朗が引き寄せたままだ。


「おばぁ様、龍志朗様達はお話して下さった月夜家の方々です、だから、心配なさるような事は無いから大丈夫です、八十助さんも安心してください」


先程まで術を掛けて攻防していた相手に、八十助や彩也が敵を向けては困ると、彩也にも八十助にも笑顔を向け、取り繕った彩香だった。


「彩香、その引っ付いている男は誰じゃ? 龍が付くようじゃが?」


彩也に問われて、彩香はその言葉に真っ赤になっていった。


そう言えば、龍斗や北達もいるのに、龍志朗の半身が寄り添っているままだったし、先程まで抱擁されていた事に、今更気が付いた。


「あの、あ・・・あの」


余りに恥ずかし過ぎて、言葉が口から出てこない。


「初めまして、月夜龍志朗と申します、そこにいる龍斗の息子です、龍真は祖父になります、彩香の婚約者です」


彩香から手を離さないでいるが、口調は至って冷静だった。


「ほっっおぉ」


彩也が上気した声を上げ、口の端も上げて彩香を見た。


「は・・・い・・・」


対照的に赤い顔を俯かせて応える彩香だった。


「月夜殿、ここではなんじゃ、屋敷へ戻ろう、皆も一緒が良いか?それとも沖の船に戻るか?」


彩也が目の前の八十助の横から龍斗達に声を掛けた。


「お前たちは一旦、船に戻って、待機してくれ、防御隊に現状を伝えてくれ、星や対馬も安心するだろう」


「了解しました、船はもう少しこちらに近づけますか?」


北が龍斗に確認する。


「いや、動かさないで良い」


一瞬、考えて龍斗が答える。


「了解しました、隊長、彩香さんが見つかって良かったですね、安心しました」


北が龍志朗に声を掛けた。


「ああ、ありがとう」


珍しく穏やかな笑みを口の端に称えた。


「いえ、これで心置きなく仕事してもらえますから」


こちらは満面の笑みを顔に広げた北が応えた。


「・・・」


眉根が寄り切った龍志朗は声も出さない。


北達が船へと戻り、彩也達が屋敷へと戻る。




「龍志朗様、あの、その」


龍志朗は彩香を横抱きに抱えて歩いていた。


彩香が羞恥心から何とか降ろしてもらおうと、身動ぎを繰り返していた。


「もう、絶対離さないと決めたんだ」


力強く応える龍志朗は揺るぎない。


その姿に口を何度も開閉しながら、困り顔の彩香だった。


前を歩く彩也は小さく笑っていたが、龍斗は苦い顔をしていた。


その間で八十助が睨みを効かせていた。

大丈夫、だったかな?


無事に再会できました。

もう離しませんから!


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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