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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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色々とありましたね。

立場も色々とありましたね。

朝早く、漸く外出許可の出た龍志朗が、真っ先に来たのは龍斗の職務室だった。


「少しはましになったのか」


「問題ありません」


そう、龍志朗は答えたが、全快には遠い。


ただ、じっとしている方が限界だっただけだ。


「まぁ、良いだろう」


「捜索の方は?」


「見つけたと思う、確証は無い」


「どこに!」


「座れ、話をしてからだ、終われば迎えに行く」


詰め寄らんばかりに迫る龍志朗に、龍斗は片手で制して、座らせる。


「少し長いが、月夜家にとって大事な話だ」




龍斗は彩香の一族と月夜家の関りの話を始めた。


先の大戦の時、我が国は劣勢だった。


特殊部隊も今ほど強くも無く、人も少なかった。


そんな中、月海一族が、自分達が住んでいる所まで戦火が迫ってきて、それを退けるために使った力が人知の及ばない様な力だったのだ。


彼女達一族は海を割り、その余波で船艇は波に飲まれ沈み、その風の力で戦火も自陣を焼いてしまう事になり、敵は手も足も出なかった。


海が影響を受けるので、潮の満ち引きも万物の生命も影響を受けてしまう。


一度、敵を追い払った一族に目を付けた時の帝が、都に呼び寄せ、海の側、今お前が住んでいる別邸に住まわせて、その力を利用していた。


だが、1年もしない内に、再度、攻め入られて来た時には、同じ手は通用しなかった。


その時の巫女はそれ程力が強くなかったのもあったのだが・・・


だから、まだ、儀式も済んでいないと一族から拒み続けられたのに、無理やり、力の強い幼子を、時の帝は戦場に向かわせたんだ。


一族が別邸に住んでいた頃、月夜家が特殊部隊を率いていた事もあって、一族と交流を持っていた。


その頃だ、月夜家の当時まだ幼かった父が、その戦場に行く幼い女の子と出会い、お互いに心を交わして、子供ながらに結婚を約束したそうだ。


父が約束に庭の花を渡した時、はにかみながら嬉しそうな笑顔を向けてくれた眼差しは、死ぬまで忘れられなかったそうだ。


だが、いくら強いと言っても儀式前の幼子は持たなかったそうだ。


敵を撥ねつけて、戦には勝利したらしいが、その無理がたたって、翌年には命の灯がまるで消え逝くように眠りについたそうだ。


そうして、戦が終わってしまえば、今度は、時の帝がその力を恐れ、都中に一族の悪い流布をした。


力を持った巫女も亡くした一族は都を追われるように出て、行方が分からなくなった。


決っして、時の帝を許さないと、姿を消したそうだが、その時、月夜家は逃れても暫くは暮らしがたちゆくようにと、金と物資を持たせて、いつか再び会える日をと、送り出したそうだ。



時の帝が一族を追い出しにかかった時に関連資料も焼失させたので、月夜家がひっそりと持っていた記録しかなく、公的には何も残っていないので、星北に調べてもらっていたのだが、時間がかかるばかりで辿り着かなかった。


そんな時にお前の相手として彩香さんが現れた。


最初は気が付かなかったのだが、病院の中庭で会った時に、父から聞いていた話を、不図思い出してな、苗字に海があって、名前に彩があった。


偶然と思ったのだが、何と無く引っかかって調べてみたら、可能性が出て来た。


「父上は彩香が一族の直系で力を持っているから、認めたんですか?」


語気を強め、挑むように龍志朗が龍斗を睨む。


「否、そもそも、中庭で会った時には名前も知らなかったからな、その時、このお嬢さんだったら良いなぁと思って話していたくらいだ、病室に送り届けて驚いたよ、その時何だよ、父上、つまり、お前にとっての祖父から聞いていた見た目が彩香さんと一致していると思ったのは、だから調べ始めたんだ」


龍斗は飄々と答えた。




家に残っていた記録にある、一族が元々いた土地と、今回、田沢が言ってきた海域が近かったから、可能性から確信に変わった。


「そして、一昨日、一瞬見たと思ったのが、恐らく・・・彩香さんだ」


龍斗が静かに龍志朗を見つめて告げる。


「そこへ、すぐ!」


龍志朗は立ち上がり、入口に向かおうとする。


「座れ、だから、話が終わったら行く」


「話は後で聞きますから、行きます」


「急いでも、会えない」


「何故です」


「都の者は一族に恨まれている、向こうの結界も強く張られている、無理に突破すれば向こうが傷つく、それは彩香さんかもしれない」


「うっ」


龍志朗は思わず唇を噛み、拳を握りこんだ。




「だから、お前が必要だ」


龍斗が正面から龍志朗を見据えた。


龍志朗は意図が解らず、龍斗を見上げた。


「帝から、内々に話が来ている、時の帝の事を帝は良く思っていない、そうだろう、散々利用しておいて、自分より力をつけるのではと疑って、追い払ったのだから、だからこそ、探し出して詫びたいのだ」


龍斗が初めてこの捜索が私的に彩香を探している事では無いと打ち明けた。


「一族から都の人間は恨まれている、だが、お前が呼べば、お前の声なら彩香さんが聞き分けられるだろう、そこに結界が解ける機会がある」


龍斗が龍志朗の肩に手を置いた。


「絶対に彩香を連れて帰ります」


龍志朗が瞳に力が宿っていた。


二人で連れ達、船艇に向かった。




船艇には既に皆揃っていた。


「これから配置を説明する」


龍斗が皆を見回し口火を切る。


「右は北と穂高、左が岩木と天城、正面が龍志朗、上空が私、防御は各自対で組め、対馬が龍志朗、近江が北、但馬が穂高、阿波が岩木と天城へ、諏訪と丹沢は甲板で待機、星は私だ、全方位から一斉に仕掛けるが、龍志朗が彩香さんを呼んで結界が緩むのを待つ、だが、結界が緩みやすいように弱い攻撃を仕掛ける、相手に敵意と取られないように、加減しろ」


「はっ」


各自が準備に入る。




「月夜、ほんとに飛んでも大丈夫なのか?」


対馬が龍志朗の顔を覗きこんで心配そうに尋ねる。


「ああ、絶対に連れて帰るんだ、どんな事をしても」


万全では無い事は確かだが、それを補って余りある精神力に頼るしかないのかもしれないと対馬も思った。


「そうだな、迎えに行かないとな、きっと待っているのだろうから、任せろ、何があっても防いでやる」


対馬も龍志朗に笑顔で応えた。




「坊は大丈夫なのか?」


星北が龍斗に密かに声を掛けた。


「まぁ、万全では無いが、あれの声に頼らざる負えないからな、それに、本人がじっとしていない」


龍斗は半ば呆れた声で応えた。


「・・・誰に似たのやら・・・」


そっと、立ち上がった星北だった。

大丈夫、だったかな?


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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