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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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23

その頃、彩香は。。。

(ここは?)


彩香は、海へと入っていったのに、瞼を上げたら夜明け間近の紫色の空が見えた。


「気が付いたかい?」


老婆の声が上から降ってきた。


彩香は体を動かそうとしたが、力が入らず、分ったのは指先の感触で、浜辺の砂の上に寝ている事だった。


もう片方の手にはしっかりと龍志朗からもらったストールを握っていた。


「今、運ばすから、動かなくて良い、ま、動けないだろうけど、意識が戻っただけでも、思ったより早かったね、やはりここは合うんだろうね」


老婆の指示か、若い男が二人、板を持って来て、彩香をそっと移動させた。


振動を気にしているのか、浜辺からゆっくりと運ばれてきたのは、お屋敷だった。


屋敷に着くとまず風呂場まで、若衆に運ばれ、二人女性に付き添われて、お湯を浴びた。


湯に浸かりながら、髪も洗われて、昔読んだ絵本のお姫様の様だと、浮かんだ。


新しい浴衣に着替えたら、先程の若衆が呼ばれて、運ばれ寝かされたのは、質素な部屋だが、設しつらえは整えられており品格があった。


「まだ、身体がきついだろうから、ゆっくり休むと良い、何かあったら、このゆりに言えば良いから、お前のお付きだ、もうひと眠りしたら、お粥を用意する」


老婆が後ろに控えていた若い女を紹介してくれた。


「ゆりでございます、廊下に控えておりますので、何かありましたらお呼びください」


ゆりが両手を付いて頭を下げる。


「あの・・・ここは・・・」


掠れた声だが、どうにか彩香の喉が働いてくれた。


「お前の故郷だよ、ここには何もお前を害する者は無いから、ゆっくり、身体の事だけ考えておやすみ」


老婆はそれだけ告げると、部屋から立ち去った。


布団の横に綺麗に畳まれてストールが置かれていた。


彩香は静まり返った部屋で一人天井を見つめる。


(故郷?どこ?)


海へと入ったが、流れついてどこかの島に辿り着いたのか、まだ、ぼんやりした頭では考えも進まない。


唯、初めて会った老婆に、この屋敷に、恐怖心が全くなかったのも不思議だった。


柔らかで温かな布団の中に静かに吸い込まれていった。




「お目覚めでございますか?」


彩香の瞼が開いて、間を置かず障子の向こうから声が掛かり、滑るように障子が開けられた。


「よくお眠りになられましたか?」


和やかな声の方に顔を向けると、声に違わない笑顔を向けられた。


「はい、よく眠りました」


彩香の声も小さいが言葉になってきた。


「良かったです、お食事をご用意致しますね」


上体を起こすと、小さな膳が運ばれてきた。


「少しずつ召し上がってくださいね、食べられるようでしたら、他もお持ちしますから」


ゆりが匙に一口よそり、彩香の口元まで運んだ。


彩香は自分でと言いたかったが、腕が上がらなかったので、雛鳥のように口を開けた。


こくりと飲み込む。


「美味しいです、ありがとうございます」


「お口に合って良かったです、ゆっくり召し上がってくださいね」


ゆりが微笑みながらゆっくりと、一口ずつ運ぶ。


「また、少しおやすみくださいね、食べる事もまだお疲れになるでしょうから」


そう言うとゆりは膳と共に下がった。


温かな布団に横たわると、確かに眠気が待っていた。


視界に龍志朗のストールがある事を確認すると、そのまま、眠気に意識を委ねた。




「目が覚めたかい」


次に目を開けた時には、初めに会った老婆が部屋に居た。


「あの・・・」


彩香は起き上がろうと身動ぎをした。


「無理はしなくて良いよ。今、ゆりが食事を持ってくる」


老婆は愛おし気に言葉を掛ける。


ゆりが膳を持って入ってきて、彩香を起こしてくれる。


先程よりは体うごいたので、今度は自分でゆっくり食べられた。


ゆりが膳を下げたのを見計らって、彩香が老婆に訊ねる。


「あの、故郷って・・・どういう事でしょうか?」


「そのままの意味じゃよ、お前の母の故郷がここで、わしがお前の高祖母こうそぼだよ」


老婆が彩香の頭をそっと撫でながら、話した。


彩香は息を飲み、目を見開いた。


今まで、家族が居ない天涯孤独と思っていた。


だから龍志朗と家族に成れるのがとても嬉しかった。


母は祖母の事を嫌っている様な気がしていたし、話くれなかったので、聞けなかった。


父も同じだった。


だから、まさかおばぁ様が居るとは思わなかった。


「おばぁ様・・・」


涙が溢れて、言葉が続かなかった。


泣いている間、そっと頭を撫でられていた。


「ほんに、お前は海に愛されているね」


泣き止むと、老婆が語り始めた。


一族が何も者であるかを。


訥々(とつとつ)、語られ始めたのは、全く聞いた事が無かった。


『海を操る能力を持つ女性が生まれる月つき海み一族』その直系が彩香だった。


一世代毎に生まれる女子おなごだけが持つ能力で、波を起こしたり、海を割っって人が歩けるようにしたり、大波をおこしたり。


潮の満ち引きに影響を与えるため、生きる者の産む事へ、影響を与えてしまう。


それはすなわち、一族の敵となったものが、死に絶えてしまう可能性をも持つ事なので、古来から、恐れられた能力なのだが、そこまで影響を与えられる女子が生まれる事も少なかった。


そして、能力を持って生まれた女子は寿命が短く、持たずして生まれた女子は子孫を育むため天命が長かった。


いずれも15歳の時に儀式があり、その時、持つ者と持たざる者とが、わかるのだと言われているが、世代交互に生まれて来るのが常であった。


そう、あの時までは。


「何も知らなかったのだろうから、驚いただろう、今日はここまでにして、また、ゆっくり休むと良い、もう、ここにお前を害する者はいない、遅くなったが、満月の日に儀式を執り行えば良いだろう、大丈夫、お前は何も案ずることは無い、さ、おやすみ」


高祖母がゆっくりと彩香の髪を撫で、そっと手を貸して休ませる。


「ありがとうございます、おやすみなさい」


彩香も、驚くばかりだが、正直、頭が付いて行かず、促されるまま、眠りについた。 

大丈夫、だったかな?


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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