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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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父、怒る!!

龍志朗は負傷してから一週間意識が戻らなかった。


「あの靴があった近辺で、何か他の手掛かりは無いのか?」


「はい、未だ、何も、発見されていません」


(それは、幸か不幸か・・・)龍斗が深い溜息と共に飲み込んだ言葉だった。


「沿岸警備艇からも報告はありません」


「そうか・・・」


(どこへ・・・)再び深い溜息を落としたのは龍斗だけではなく、その場に居合わせた北も同じだった。




龍志朗が病院に担ぎ込まれた翌日、雪乃が早朝に病院を訪れた。


「彩香様が龍志朗様のお側にいると思いまして、また、ご無理なさっていないかと、心配で来ました」


そう、手にはお結びと龍志朗の着替えを持って、龍志朗の病室の入口で、柊医師に声を掛けた。


「えっ?彩香さんは見てないよ?龍志朗の意識は戻っていないし、他にも怪我人が多くて昨夜は目茶苦茶だったからね・・・」


「えっ?彩香様は昨夜、屋敷にはお戻りになっておりませんよ?」


病室の中で柊医師の言葉に、雪乃は息を飲む。


「えっ・・・」


「ど、どういう事でしょうか?」


雪乃は柊医師の白衣に縋った。




「あの・・・」


龍志朗の点滴を替え終わった看護師が、口を開いた。


昨夜、目の前で起きた出来事を震えながら語った。


桔梗に唯、罵られ、責め立てられていた彩香。


龍志朗の身を案じて深々と頭を下げて病院から出て行った彩香。


自分があの時追っていれば、と、唇を噛んで俯いてしまった。


「月夜将校に話をしてくる、探さないと、雪乃さんは雅也君のところに連絡を、君は看護師長に今の話をして、病院の中を捜索かけてもらって、後はここに誰かしら待機するように、彩香さんが来たら確保して、あ、後で私が病院長のところに行くから」


柊が叫ぶように指示を出して、駆けて行った。


「よろしくお願い致します」


深々と頭を下げた雪乃も、目を吊り上げて駆けて行った。


両手の拳を力強く握りしめ、顔色を失くした看護師が龍志朗を見つめてから、病室を後にした。




「どうして、こんな事に・・・」


廊下を駆けながら柊が呟く、魔軍は別棟だ。


駆けこんで執務室を目指すが、所在の確認をしていなかった、と、扉の前で初めて気が付いた。


が、勢いでいきなり開けてしまった中には上位長達が居た。


「あの、叔父さん・・・至急の大事な話が・・・」


人払いをお願いした方が良いのかすら、わからなかった。


日頃は使わない、親戚筋を利用する事を思いついただけでも、儲けものと思えた。


「話せ、構わない」


龍斗は、柊の眼が何よりも優先すべきと語っていると思えた。


「彩香さんが行方不明です、昨夜から・・・今、わかって、とても、危ないと思います、何とか探して頂けないかと・・・」


柊もどう伝えて良いかわからなかった、ただ、今なら婚約者として扱ってもらえる。


だから、儚げだった少女を探して欲しいと。




「どういう事だ?」


それは、月夜家の絶対零度が遺伝子として備わっていると、実感させられる声音だった。


何より、側近の顳顬こめかみが動いた。


「今朝、龍志朗君の病室に雪乃さんがお見えになって、彩香さんが居ない事を伝えていたら、現場を見ていた看護師が話を始めて、わかったのですが・・・」


柊が先程聞いた話を桔梗が言った言葉は伏せて、伝えた。


代わりに、自殺の可能性もあると、いう事を添えて。


「播磨はりまを呼んでくれ、第四部隊を使う、沿岸警備隊の田沢も呼んでくれ、海だ」


龍斗は懐刀の星ほし北きた麻呂まろに氷った顔のまま、指示を出した。


星北も険しい顔のまま、無言で頷き、部屋を後にした。




「龍志朗はまだ、意識を戻さないか?」


龍斗が佇んでいる柊に声を掛ける。


幾分、温度が戻った。


「はい、まだ、戻っておりません、時期に戻るとは思いますが、その前に彩香さんを見つけたいです、怪我はかなり重いので、動かれては困ります、ですが、動かないとは思えません」


柊も医師として、思うところと人として思うところが折り重なる。


「・・・そうだな」


龍斗も思わず零れる。


星北は別室で待機している者に伝令を飛ばすと、部屋に戻ってきた。


「星、どうだ」


「どちらも直ぐに来れるだろう、良いんだな」


「構わない」


現状では、龍斗が私情で軍を動かすことになる、何かあれば足元を掬われる。


それを踏まえての確認だった。


無論、星北に異存は無いのだが・・・




「幸則は戻ってくれて良い、後はこちらで行う、あ、病院内の捜索はどうされた?必要なこちらから手を回すが、もちろん、医療棟は日向にやらせるが」


龍斗が言葉の最後を強めた。


「話してくれた看護師にそのまま看護師長に話して、病院内は捜索をお願いしています、龍志朗君の側には必ず誰か付いて、彩香さんが来たらそのまま確保するように言ってあります、これから病院長の所には行こうかと思っておりますが・・・あ、雪乃さんに雅也君の所には行ってもらいました」


「そうか、雪乃にはそのまま屋敷に戻ってもらって、武田を付けよう、彩香が屋敷に戻った時に居ないと困るからな、病院長の所には、星に行ってもらう、良いか?」


柊に向いて話していたが、仕舞いは星北の方に向いていた。


「ああ、もちろんだ」


星北は静かに頷き応える。


「また、義兄から小言をもらうな・・・」


彩香に何かあれば森野雅和が動く、他動的に部屋の温度が下がった。




同じ頃、雪乃から雅也が話を聞いていた。


「・・・」


雪乃から話の内容を聞いて、言葉にならなかった。


つい、先日、彩香の婚儀の衣裳の話で、妻の牡丹と母の椿が盛り上がり過ぎて。父の雅和と別室に逃げていたのに、それが何故?こんな事態になるのかと、日向に対する怒りよりも彩香に対する憐憫が強かった。


「父に・・・知らせます、森野邸でも彩香さんが来ていないか、確認します、来たら絶対逃がしません」


雅也は普段“絶対”という言葉を使わない。


薬師として、この世に“絶対”という事は無い、と思っているからだ。


「よろしくお願い致します」


雪乃はここでも深々と頭を下げた。




「播磨、どんな手段を使っても構わない、情報が欲しい、身柄を安全に確保したい、田沢どんな小さな事も見落とすな、潜水士も使え、あらゆる手段を使って探してくれ」


龍斗の執務室に糸が切れるような空気が溢れていた。


「は、先日、国境警備の方が落ち着きましたので、筑紫つくし、伊勢、濃尾のうび、八代やしろをまず当たらせて、白神の所も確認させます、そこは誰か張らせますか?」


播磨が極秘任務の範囲を確認する。


「否、軍部内は総ざらいで捜索掛けているので、仕方ない状況だ、ただ、民間に対して秘してもらえれば良い、白神の所は内密にさせれば問題ないだろう」


龍斗は一瞬、躊躇ったが、そこまで、人を割ける訳では無い、そもそも、白神の所はそういう事に対応出来る所だ。


だから、彩香が預けられたというのもある。


「了解しました」


播磨が敬礼する。


「将校の別邸のある浜からの捜索が第一でしょうか?現在その沖に警備している艇が一隻あるので、そこからと浜からと両方向から捜索します、琵琶、諏訪、丹沢、浜名を当たらせます」


田沢が上げたのは潜水士も兼ねている兵の名である。


「そうだな、あの屋敷に住んでいた、だから、海へであればあの浜からだと思われる、潮流も鑑みてくれ」


龍斗は考えたくない選択肢であっても、手を込まねく事は無い。


「了解しました」


田沢が応えると、播磨と揃って部屋を出る。




「日向に向かう」


龍斗の殺気が漲っていた。


戦場であれば頼もしく、崇高な気持ちさえ持つが、執務室でのそれは、星北と言えども、抑えに掛かるべきものであった。


「まず、所在を確認させる、病院長の所に行くが、その前に付いて行くか?一旦、その殺気を仕舞え、他の者には恐怖心を与えるどころではないぞ」


自身も遣る瀬無い気持ちと共に吐き出すように、言葉を掛ける。


「無理だ」


「一人で行くな、今、確認する」


短く応えた龍斗に対して、星北も短く応えて御する。


日向が会議中なので、その隙に星北は病院長に話をつけに行き、滞りなく済ませる。


力では龍斗が断然上だが、交渉力は中々侮れない、日頃からの事もあった。


龍斗にしても、通常の職務が無い訳では無い。


殺気と冷気を抱えながら職務を遂行していた。


この日の職務室近辺は冬仕様で、医務室と往復している者が多かった。




「どうゆう事だ、きっちり抑えたのでは無かったのか?」


日向の研究室に入るなり、怒声が響き渡る。


「否、あの後、二度と月夜家には近づかないと言わせたし、事実行っていない、桔梗は昨夜、救急に呼ばれて家を出てからまだ戻っていないし、会っていない、今しがた秘書が噂を聞いてきて、驚いていたところだから、申し訳ないが、実際、何が起きているのかわからない状況だ」


平身低頭、困惑懇願、日向ひなた諸行もろゆきは、唯、床に伏していた。


(付いて来て良かった)


一人安堵した星北は柊医師から聞いた話をそのまま、話した。


ただ、あまりの言葉だったからだろうが、貴殿のお嬢が発した言葉をこちらは聞いていないので、後程、現場にいた看護師に直接聞きに行くつもりだと、現在、軍を上げて彩香嬢を捜索している事を、添えた。




「何かあれば、同じ想いをしてもらう」


龍斗が捨てるように言葉を叩きつけ、部屋を出た。


諸行は、黙って唇を嚙みしめて床に伏したままだった。


流石にその日のうちに、都の中に隠れている様な事は無く、事故・事件に巻き込まれた様子も無く、また、森野邸にも白神の所にも、軍の施設内にもその姿は見えない事が判明した。


当然、沿岸警備隊に視線が向けられていた。

父上様怒っています。

ま、他の方も怒っているのですが。。。


ここぞとばかりに権力使っています!

良いんです!

だって、彩香大事だから!!

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