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モデルさんに会うとこんな感じかな?
「さて、少し腹が減ってきたのではないか?」
「そうですね、そんなに動いていないのですが、そんな気も・・・?」
龍志朗の問い掛けに彩香も考えながら応える。
はんなり屋を出て、近くの公園まで車で移動し、園内を散歩していた。
軍にある公園とは趣の違う、砂と石と緑で景色を表している。
龍志朗に説明されながら、彩香は興味津々で、初めて見る“作り物の景色に”想像の楽しさを覚えた。
「昼ご飯は彩香の料理の見本になるような所に行こうな」
龍志朗が何か含みを持っているような笑顔を見せる。
「え?お見本ですか?何でしょうか??」
彩香はぱちりと瞳を見開き一点で止まってしまった。
外で龍志朗が食べるような立派な料理は出来ないが、見本と言われたら、次は自分が作るのだろうか?それとも、作れるように、ならなければいけないのか?そんな事を考えながら、手を引かれ、車に乗り込み移動した。
気が付けば眉間に皺が寄っていた。
隣の龍志朗はそれを見て、口角を上げながら眉尻は下がっていた。
「ここだ」
“レンガ亭“洋食屋であった。
「彩香が作ったクロケットの元はここだよ」
龍志朗が悪代官の様に見えた彩香だった。
「あわっ、あわっ」
耳まで染めて口をパクパクさせて、龍志朗の手を握っている彩香はそのまま、その背に隠れる様に看板から身を隠した。
看板は嘲笑ったりしない。
「ま、本物を食べとけば、良い見本になるだろう」
背後にずれ込んで行く彩香の腰を引き寄せて、店の入り口へと進んでいく。
入口の扉の前に立ちかけると、中から扉が開き、愛想のよい店員に迎えられた。
「お待ちしておりました月夜様、どうぞこちらへ」
案内されながら2階へと進んでいく。
眺めの良い窓側の席に蓮向かいに座る。
「彩香は何が食べたい?クロケットも、ハンバーグもあるぞ」
龍志朗は、先日、森谷家で彩香が作っていたメニューをさらりと口にする。
「え?あの、そっ、それは、えっと食べた方が良いですか?」
彩香は龍志朗の意図が今一つ、つかめず、瞳が散歩したままであった。
「うん、食べて見たければ食べてみれば良いし、そうでなければ他の物でも良い」
龍志朗はさらりとメニューの先に彩香を見据えて告げる。
「はい、う・・・ん・・・と・・・」
龍志朗と同じようにメニューを広げて見たが、何をどう頼んで良いのかわからなかった。
直ぐに顔を上げ、龍志朗に目で縋った。
「ん?彩香はたくさん食べられないから、コースでも少なめにしておこうか?」
視線に気が付いて向けられた温かな眼差しに、強張った手が感覚を戻す。
「同じものにするか」
「はい」
眉間の皺が吹き飛んで綻んだ笑みが、龍志朗の眼差しをより温かなものに変えていく。
「スープは枝豆の冷製、サラダと、クロケット2種と木の実のパテ添え、氷菓子で、
彼女のクロケットは1個ずつで」
龍志朗が注文をすると、グラスに水が注がれ、給仕者は立ち去った。
「彩香は食べた事が無い物もあるかもしれないから、無理はしないようにな、少し口に含んで味を確認してみると良い」
龍志朗が心配そうに細やかに口にした。
「ここからの眺めも中々楽しいよ、人通りが多いから見ていて飽きない」
龍志朗が窓の向こうに視線を移して、彩香に促す。
「ああ、たくさんの人が行き交うのですね、洋装の方もお着物の方も色々いらっしゃいますね」
軍の仕事場と寮を往復していただけで、あまり世間慣れしていない彩香には、行き交う人にも興味が注がれる。
「この通りは向こう側に進めば役所関係があるし、こちら側に進めば更に商店が多くなるから、自然と人が集まる通りなんだよ」
龍志朗が楽しそうに通りを眺めている彩香に教示する。
「だからでしょうか、大きな鞄を持って急いでいる方もいらっしゃいます」
彩香は目の前の通りを体格の良い紳士が走っているのを見て、納得していた。
「ああ、あれはきっと役所から呼び出された者だな」
龍志朗も通りに目を向け、彩香の視線の先を見た。
スープやパン、サラダなど目にも鮮やかな彩がテーブルを飾り、初めての味もどれも美味しく頂いていた。
「生で頂けるお野菜って、こんなにたくさんの種類があったのですね」
彩香は森野邸でも頂いた事のない初めての野菜に驚いていた。
「ああ、あれは旬が短い・・・、確かにあまり見かけない野菜だったかな・・・」
龍志朗も普段食べる物に気を遣わないので、うろ覚えで応えていた。
メインのクロケットが運ばれてきた。
彩香は龍志朗の半分の量である。
「すごいです、2個とも同じ形してます!」
皿が目の前に置かれた時に既にその瞳はキラキラとまあるく見開いており、給仕が下がった途端に彩香が声を上げた。
「それは、そうだろう」
肩が若干震えながらも、笑い声は抑えて、龍志朗が応える。
「龍志朗様の方は4個とも同じ形しています!」
龍志朗の皿に乗る方にも目がいき、同じように驚きの声を弾ませる。
「クロケットの完成版が見られて良かったな、さ、食べるぞ」
少女の様なあどけなさが、愛らしく今すぐ頭を撫でたくなった龍志朗がフォークを持って食べ始めた。
「いただきます」
龍志朗の手元を見ながら彩香も食べ始めた。
つぶつぶの食感が楽しいとうもろこしのクロケットと、舌の上をトロリと落ちるクリーミーなクロケットを目と舌で味わいながら楽しく頂いた。
氷菓子の白桃は逃げないように密かに苦戦していた彩香であった。
大丈夫、だったかな?
少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。
引き続きよろしくお願いします。




