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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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13

父対息子!男の対決!

「婚儀はどうするんだ?」


龍斗が前のめりで聞いてきた。


その言葉に、頬が桜色に瞬時に変わった彩香は身を竦めた。


「まだ、全く、何も、決まっていません、彩香が別邸の生活に慣れたら、ゆっくり望む形で行いたいと思っております」


龍志朗は、龍斗がこれ程積極的な発言を繰り返す意図が見えず、驚きを飲み込みながら、言葉を繋げる。


「そうか、では、支度にゆっくり時間が掛けられるな、彩香さん、好きなだけ龍志朗に我儘を言うと良い、一度しかないのだから、何でも叶えてもらうと良い、出来ないのであれば、私が叶えてあげよう」


穏やかな眼差しと笑みから、とんでもない言葉が溢れてくる。


「いえいえ、そんなご迷惑はかけらませんし、あの、その、普通に出来れば、それだけでとても嬉しいので、どうぞ、あの、お気遣いありがとうございます」


あまりの申し出に彩香は首を横に振りながら、焦って答えた。


「父上、有難いお申し出ではありますが、彩香の我儘を叶えるくらいの甲斐性は私にもありますから、ご心配には及びません」


龍志朗は、男として譲れないとばかりに、龍斗に言い放つ。


その眼には気が籠っていた。


「そうか、娘はいないからな、こんな可愛いお嬢さんが来てくれるんだから、反抗的な息子より大事にしたいと思ってな」


本心はそこか、と、叫びたくなった龍志朗の眉間に皺がよる。


「大事にして頂けるのは有難いのですが、彩香は私の妻ですから」


「まだ、だろ?」


龍志朗が語気を強めて言えば、即座に龍斗が混ぜ返す。




冷気が漂わないと嬉しく思っていた真田が、熱い戦いが起きた事に慌てる。


「旦那様、坊ちゃま、まずは、彩香様のご希望をお伺いしては如何でしょうか?」


代わりのお茶を入れながら、真田が割って入る。


「そうだな、主役の話が大事だからな」


龍斗が我に返ったように、ティーカップを持ち上げた。


「ですから、退院してきたばかりだと・・・」


龍志朗も落ち着きを取り戻した。


「あの、大変でしたら、特に無くても・・・」


二人の様子から不穏な空気を察したのか、彩香が申し訳なさそうに、隣の龍志朗を見上げた。


「それはよくない」


先に答えたのは龍斗だった。


「彩香はそういう事は気にしなくて良いから、だいたい、ここだけではないだろう、椿おばさんのところだって、行ったら大変だぞ」


龍志朗が、彩香の頭を撫でながら、口角を上げた。


「あっ、そうですよね、きっと、また、椿様、牡丹様と一緒に、盛りがってしまいますよね、きっと」


彩香も思い出したように驚いて口が開いてしまい、慌てて両手で口を塞いだ。


「森野家か・・・」


龍斗も様子が目に浮かんだようだ。


「ですから、父上、ゆっくりと、彩香の体調を見ながら、婚儀は進めていきます、多分、彩香も実態を知れば、それ程、大げさな事はしたくないかもしれませんが、そうもいかないでしょうし、そのくらいの事は弁わきまえております」


龍志朗が龍斗を見据えて答えた。


「そうか、そうだな、それもあるな、でも、出来る事は彩香さんの望む形にしたいと思うんだが・・・紫もあれで、結構、希望があったんだから・・・」


龍斗が妻の話を龍志朗に話したので、龍志朗は目を見開き、息を飲んだ。


「だから、彩香さんも希望があったらね」


彩香を見つめる眼差しは、とても千里先の的を射る氷矢の異名をとる瞳と、同じ人物とは思えなかった。


「はい、ありがとうございます」


嬉しさに弾んだ声で彩香は応えた。


漸く、落ち着いて話が出来た。


中庭で話していた事は、龍斗からは聞けず、母、紫の名前がその後出てくる事は無かったが、彩香の仕事の話や、龍斗の執務室の話など、龍志朗が知らない話を彩香が目の前で、龍斗から聞き出して、和やかに時が過ぎた。


料理人が張り切っていたという、お昼もご馳走になり、小食の二人には当然のように、お土産が付いてきて、彩香はまた、新たな食べ物を食せた。




 「で、父上と何を話したんだ」


帰ってきて、着替えを済ますと、サンルームでのんびり寛ぐという名目で、龍志朗の彩香に対する取り調べが始まった。


「えっ」


龍志朗の勢いに押され気味の彩香は、引き気味だ。


「父上からは体良くはぐらかされたからな」


久しぶりに見る、眼光の鋭い、龍志朗だ。


更に一歩、彩香は下がる。


「あの、たわいもない事かと・・・」


発した言葉尻が消えていく。


「そうではないだろう、彩香が気に入られた理由があるはずだ」


彩香が下がる分だけ、龍志朗が迫って来る。


龍志朗の鋭い目から目を逸らせられないでいると、腕も掴まれていた。


「龍志朗様のお父上様とは存じ上げずに、龍志朗様を自慢してしまいました」


彷徨う目線を下に向けて、彩香が告げた事に、鋭かった目が緩んだ。


驚いた龍志朗は手を放した。


「はっ?自慢?私のか・・・」


それで何故、龍斗が彩香を気に入ったのか、龍志朗は全く繋がらず、混乱するばかりだ。


「何を・・・」


一先ず内容が解らない事にはと、気を取り直した。


「あの、何事でも乗り越えてしまう強くて逞しい立派な方です、とお答えしました」


頬が赤いまま、口元に両手を添えて、恥ずかしそうに告げる。


「何故、そんな事に・・・」


聞いている龍志朗も恥ずかしくなり、頬が朱色になる。




彩香は自分が立ち眩みを起こした時に、偶然通り掛かった龍斗が助けてくれ、休めば大丈夫と言った時に龍志朗と同じように、大丈夫ではないと言われて、思い出し笑いをしてしまい、話を始めた。


とても普段から心配して大事にされているが、自分の事で、面倒を掛けてしまっている事が、とても申し訳ないと思っていると話すと、「その程度で潰れるのか」と言われて、先程の「何事でも乗り越えてしまう強くて逞しい立派な方です」と答えて、自分が大事に想っていて、慕っていると言ってしまったと話した。


「成程、そう言う事か、少し見えてきた」


龍志朗は既に、鋭い眼光が戻ってきて、冷めた顔つきに見えた。


「そうでしょうか?」


話した彩香の方は、それのどの辺が気に入ってもらえたのか、さっぱり解らなかったが、


龍志朗がいつも自分に向けられる優しい顔ではないので、小首を傾げるままだった。


龍志朗はおそらく告げた時に、それまで儚げに見えていた彩香が凛とした佇まいになり、自分の意思を持って答えた事が気に入ったのだろうと思った。


そして、地位やお金が目当てではない、人としての息子を慕っている彩香の本質を見抜いたのだ。


「成程、彩香の事を解ってもらえて良かった」


龍志朗が結論だけ、彩香に告げるが、鋭い眼光は、もう、影を潜めていた。


「良かったのでしょうか?」


そう言われても彩香にはわからなかったので、まだ、不安が残った。


「彩香は自分で、自分の良い所を相手に理解させたのだから、よくできました」


龍志朗が幼子を褒めるように、その頭をポンポンと軽く叩いた。


「ありがとうございます、良かったです」


理解は出来なかったが、良い事をしたようなので、それについて彩香は素直に喜んだ。


ただ、扱いが少し、幼い子供のような気もしたのだが・・・

大丈夫、だったかな?


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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