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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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守ると言いましたから

 「お前、大変だな」


朝、北との打ち合わせが終わって、直ぐに、次の演習の打ち合わせが対馬と入っていたのだが、妙な流れから、北と対馬に桔梗の話をする羽目になった。


話が終わって開口一番、対馬の感想だ。


「お祓いに行かれますか?なんなら、明日の予定にねじ込みますか?」


北まで、この言いようである。


「いや、私が悪い訳では無いぞ、私が・・・」


言いながら、自信はなくなる龍志朗だった。


「いや、悪いとは思わないけどさ、普通、ここまで“女難の相”が出るか?と、思う訳だよ、普通な、いくらモテても」


対馬は、学生時代に、モテる龍志朗が少し羨ましかったのだが、今、こんなにも苦労するなら、モテなくて良かったと、あの時の自分を「お前はそのままで良い」と励ましたいと心底思った。


「私だって、ここまで、根に持たれているとは思ってなかたんだよ、対馬だって知っているだろう? 秋波は山ほどあったのだから、これに限らず」


龍志朗も、そもそも要らない秋波に寄って、何故これ程、面倒が起きるのかが、下是げせなかった。


「まぁ、確かに、な、でも、この前のも、今回のも、群を抜いて強い秋波だけどな」


さり気なく、冷ややかに対馬が告げる。


「そうなのか?あまり差を感じないけど・・・ま、桔梗は幼馴染だから、その分長いとは思うけど、私だけなのかやはり・・・」


そして、今回も気が付いていなかったのは、やはり自分だけかと、少し滅入る。


龍志朗は一応思い出してみた、やはり、どれも似たり寄ったりとは思うが、確かに繰り返しの度合いは違ったかもしれないと、思い直した。


それが、こんな結果に結びつくなんて、全く予想すら、していなかった、龍志朗だった。


「で、どうすんだよ」


対馬が龍志朗に問いかける。


「何がだよ、お祓いか?」


龍志朗は対馬の意図が解らなかったので聞き返す。


「お祓いは北に言えよ、そうじゃなくて、日向のとこのお嬢様だよ、今日だって本当は家に居た方が良かったんじゃないか? 退院したばかりなのに、こっちに戻って来たってしらないからな」


対馬は別宅に桔梗が行くのをわかっていて、彩香を守らない龍志朗の態度が不思議でならなかった。


浅葱で懲りたと思っていたので、また、彩香が怪我でもしたらどうするのか、いや、怪我で済めば良いが、桔梗は医師であるからもっとひどい結果になるかと、想像するだけで身震いした。




「父上に頭を下げた」


龍志朗が不機嫌そうな低い声で答えた。


「えっ?」


「はい?」


対馬も北も龍志朗が父上と仲が悪いのはよく知っている。


軍の総帥だというのに、仲が悪い。


その人に頭を下げると聞けば、己の耳をまず疑う。


「月夜将校に面会を願い出たのか?」


対馬が北の方を向いて聞いたが、一緒に驚いていたのを思い出し、途中から龍志朗の方へ向いた。


「ああ、今朝、出勤前に時間もらって頼んできた」


少しだけ、得意顔の龍志朗が居た。


「でも、何頼んだんだ?」


対馬が桔梗は軍人でもないから、統制は効かないと思ったからか、不思議そうな顔をしてきた。


「ああ、もしかして、月夜将校から日向家当主に苦情を言ってもらうのですか?」


北が推測してきた。


「そうだ、私が桔梗に何か言っても、曲解するに決まっているのだから、当主から当主へ物申してもらう、至って正攻法だ」


龍志朗が得意気な顔をしているのはもう一つ理由があった。


「それに、今朝、家は別の結界も、彩香に新しい封式も持たせてあるし、本家から庭師の武田を朝から呼び寄せてある、あいつはああ見えて武道家だからな」


意外と朝からかなりの策を張り巡らして出勤していたらしい。


「それはそれで、色々と大変でしたね」


北から憐れみと驚きの混ざった何とも言えない表情で言われてしまった。


「そうだな、色々と大変だな」


対馬は既に呆れた顔であった。


「本当だ、何故、どうでもいい女のせいで、彩香が傷つかなければならないのか、まったくもって、迷惑この上ない」


語気に不満がありありと伝わってくる龍志朗の言葉だが、対馬も北も「そのどうでもいい女」という態度に問題があるのではないかと、内心思っており、口を開いたら溢れそうなので黙っていた。


早速、北は明日の予定に、時間を捻り出して、「お祓いのお参り」を入れ込んだ。




 「あいつはあいつで懸命なのだな」


一人、執務室で呟く龍斗である。


今朝早く、龍志朗の封式が本邸に届いた。


「大事な話があるので、朝お時間を頂きたい」


今、龍斗と龍志朗の間で“大事な話”など彩香の事以外無い。


今度は何事が起きたかと思って、いつもより早く家を出た。


わざわざ、封式を飛ばし、朝、時間が欲しい等と言われたら、良い話で無い事は確かだ。


しかも、真田の話では今朝早く、庭師の武田も駆り出されていると聞いていた。


“庭師”として貸出すのなら、気に留めないが、武田は“武道家”としての面も持っているので、龍志朗が居なくなると、雪乃と彩香の女性だけである別邸では、そちらで呼ばれた可能性もある。


「頭の痛い事だ」


それでも、先の件も龍志朗に非はないので、どの方面からも“同情”しか見えてこない。


「今度もその程度なら良いのだが」


そう思って、龍志朗が来るのを待っていたら、予想通りというべきか、予想以上というべきかの話だった。




 「日向桔梗の事ですが、彩香に害を成しました、寄って、月夜家当主として、日向家当主に苦情を申し入れてください」


龍志朗が入ってくるなり、挨拶もせず、一気に述べて、机を拳で叩いた。


「おはよう、龍志朗、そこへ座れ」


龍斗は半ば呆れて、横のソファを勧めた。


「あ、おはようございます、ありがとうございます」


そう言って龍志朗は我に返り、ソファに腰掛けた。


「で、日向家のご令嬢が何をしたと、月夜家の婚約者に」


向かいに座った龍斗が、片眉の上がり始めた顔を龍志朗に向けた。


「昨日、私の留守に桔梗が別邸を訪れて、彩香を人殺しの娘と罵っていったようです」


龍志朗は昨日、雪乃から聞いた話を龍斗にした。


この件は森野家から聞いていたので、おそらく龍斗も知っているだろうと思っていた。


話を始めても龍斗は驚かなかった。


やはり知っていたようだ。


そして、龍志朗と同じような想いを持っていた。


「日向の力なら、この程度の調査は可能だろうが、余計な事をしてくれたものだ、だが、桔梗がお前の嫁になる気でいたのは知っていただろう? 何故、釘を刺さなかった、もしくは結界を張っておかなかった?」


龍斗は龍志朗が話を終えるのを待って、問いかけた。


「え、嫁って、私は一言もそんな約束はしていませんよ、何故、そんな予想が出来るのですか?」


龍志朗は龍斗が当然のように語る“嫁”に大きく違和感を覚えた。


「・・・おそらく、気が付いてないのはお前だけだ」


龍斗が深いため息と共に言葉を吐き出した。


「雪乃も同じような事を言ってました、私としては、勝手に想われても、としか言いようが無いのですが・・・」


龍斗すら気が付いていた事に驚きを感じるのと、自分の無自覚さに目を覆うばかりだ。


とてもじゃないが、あんな気の強い桔梗を嫁など考えられはずが無い。


「まあ、それはそれで仕方のない事ととして、日向家当主には言っておこう」


龍斗も龍志朗のあまりの鈍さに呆れながら答えた。


「お手数お掛けして申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」


起立して深々と頭を下げる龍志朗が居た。




「ところで、いつ、連れてくるんだ?」


龍斗が尋ねる。


「ああ、こんな事が無ければ、彼女の仕事復帰前にと思っていたのですが・・・」


龍志朗は別邸での彩香の様子を見て、それほど疲れていないようなので、顔見世は早い方が良いと思ってはいた。


「構わんだろう、今週末にでも連れて来い」


龍斗が決めた。


「よろしいのですか? 連れて行っても? 真田はご予定があったようなお話をしておりましたが・・・」


随分、急ぎの様に思えて龍志朗は戸惑った。


「ああ、何とでもなるだろう、真田に言っておく」


龍斗はあっさりと答えた。


「ありがとうございます、彩香もきっと喜びます」


龍斗の前だと言うのに、頬が少し緩んだ龍志朗だった。


「では、失礼致します」


起立し、敬礼して、龍斗の執務室を後にした龍志朗であった。

大丈夫、だったかな?


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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