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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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何気ない日常のたわいもない変化

さて、次なる難関、別邸の改装と彩香の別邸での暮らしの準備


これは、雪乃と真田が余す事無く、力を発揮した。


聊か、龍志朗は蚊帳の外、のような気もした。


いや、彩香が住みやすいようにするためなので、彩香の意見が通れば良いのだ。


良いのだけれども、疎外感は、少々、気になる、いや、はっきり言えば気に入らない。


いや、自身の手を煩わせる事無く難関が突破出来れば、良い事であるのだ。


あるのだけれども、彩香に対して何かした、という事実もとても大事なのだ。


それが無いと、何となく彩香に対して手を抜いているような気がする。


いや、当然、彩香はそんな事は気にしない。


直接、龍志朗が何かしていなくても、この準備は龍志朗のお陰と、感謝を忘れない。


事実、病室に龍志朗が行けば、あれをしてもらった、これを買ってもらったらしいと、いつも感謝されている。




しかし、龍志朗が関わる事なく進んでいる事に、多少不安も感じる。


自分が居なくても、彩香が困らないのでは・・・


「坊ちゃま、何をおっしゃっているのですか」


雪乃が呆れた顔を龍志朗に向けた。


「いや、別に、進んでいて良かったなって・・・」


全て言葉にしていた訳ではないが、その顔から駄々漏れていたのであろう、幼少の頃からみている雪乃に隠し立てが出来る事も無く、龍志朗は口を尖がらせて言い訳している。


「彩香様が絡むと、全く、子供じみて・・・」


雪乃は開いた口が塞がらない状態であった。




いやいや、今までの坊ちゃまだったら、このような事は言わなかったろうし、こんな顔もされなかったろうと、微笑ましく思うのだが、反面、今後に心配も募る。


「彩香様が退院なさるまでに、全て整えて欲しいと、おっしゃっていたのは坊ちゃまですよ、病室で彩香様に相談して進めて、何とか目途が立っているのに、何とも不甲斐ないお言葉で」


雪乃は、病室であれこれ選びながらも、「龍志朗様は、お気に召してくださるかしら?」と絶えず、龍志朗の意向を気にしている、そんな彩香が意地らしくも愛おしく思っていた。


それに引き換え、坊ちゃまは拗ねている。


それだけ、坊ちゃまに感情が戻ってきた事でもあるので、良かったとも思う。


しかし、これから大黒柱となり、行く行くは当主になるのだから、とも思う。


まだまだ、龍斗様には足元にも及びませんね、と心の中で呟いていたのは内緒である。




「という事で、坊ちゃま、現状のご説明ですが」


雪乃が机の上に図面と仕様書を広げて、説明し始めた。


所々に真田の注意書きも添えられている。


龍志朗が現在使用している主寝室の隣の客間を彩香様のお部屋に改装致します。


壁紙は彩香様がお選びになりました、白い壁紙に蔦模様を浮かして、腰高の位置に勿忘草色わすれなぐさいろと水色の2色の蔦模様を入れます。天井は白で壁と同じ蔦模様を入れて広く感じるように仕上げてもらいます。


彩香らしい色合いだと龍志朗は思った。


箪笥はお着物用箪笥と洋装用箪笥の2棹を、彩香様はお召し物が多くないからとご遠慮されておりましたが、これから増えるでしょうから、とお話しまして、幾つか挿絵をお持ちしまして、取っ手や飾り彫りを選んで頂きました。


彩香が遠慮したままでなくて良かった龍志朗は思った。


鏡台はお持ちでなかったので、先日、限定販売をしていた工房で、お好みを反映した物を誂えてもらっております。


椿や牡丹の想像を超えた雪乃の行動力に、内心、顔が引きつっていた龍志朗だった。


鏡台は使い慣れていないと、扱いにくいですし、最近は、洋装もされるお嬢様が多いとかで、その形態も変わってきているらしいので、最新の物にしました。


ベッドは、大きくない物を真田に手配してもらっています。


これは、彩香様もあまり大きいのはお好みで無いとの事と、行く行くは坊ちゃまのベッドを替えますので、あまり拘らなくても良いかと、真田と結論づけました。


心なしか赤い顔を俯かせ始めた龍志朗だった。


後はお仕事もお続けになりますので、物書き用の机と椅子をご用意致します。


彩香様のお部屋は、一通り、これでいつ、いらっしゃってもご不自由無く過ごして頂けるかと存じます。


一応、彩香様のお部屋と坊ちゃまのお部屋の内扉の設置を予定しております。


最後の一言に耳まで赤くなった龍志朗は黙って俯いた。


対面には、口角を上げて、満面の笑みの雪乃が、君臨していた。




 お台所に付きましては、もう少し後で、彩香様が慣れてからの改装でもよろしいかと思います。


彩香様ともご相談したのですが、お手を怪我されていますから、こちらにおいでになっても直ぐに家事は出来ませんでしょうし、まずはお仕事にご復帰なさりたいご様子でした。


で、あれば、改めて設備を変更なさる方がよろしいのではないかと、ご提案させて頂いたら、ご賛同頂きました。


ご自分が家の事何もしないのは申し訳ないと申されましたが、そのために私がおりますから、私のお仕事ですと申し上げましたら、ご納得頂けました。


もちろん、お手伝いはさせて下さいと、有難いお言葉も頂いておりますので、出来る範囲で、月夜家に慣れて頂くつもりでおります。


真田にも後々に、台所の改装をしたいので、その際は坊ちゃま達に、本邸での仮住まいが必要になるかもしれないと伝えており、了承されております。


この辺は雪乃に配慮してもらわないと困るところだが、安心している龍志朗だった。


台所の事は彩香と雪乃で折り合いをつけてもらえれば助かる。


自分には何もわからないから。


ただ、本邸の仮住まいが引っかかったが、今はその考えも無駄かと思った。


先日の父上の態度もあるので、何だか以前のように尖った気持ちにならなかった。




 「そう言えば、椿様から彩香様へお洋服が届けられました」


雪乃が思い出したように告げる。


「え?なんで?」


龍志朗も唐突な話に驚いた。


「何でも、以前、お譲りするとお約束していた服をまだ渡していなかったから、着るのはこちらにいらしてからになるだろうからと、送られてきたようです」


雪乃も経緯を知らないので、伝えられたとおりに話す。


「ああ、そう」


送られてきた数を聞いて、その多さに驚いた龍志朗だった。


「まぁ、椿様も坊ちゃまの手前、お送りするのもどうかと思ったそうですが、いきなり坊ちゃまが沢山買い揃えるのは難しいでしょうし、彩香様がご遠慮なさるでしょうからと、繋ぎにお使いくださいとの事でした」


雪乃が思い出したように苦笑していた。


「ああ、まぁ、確かに、そうかもしれない」


龍志朗も遠慮の塊の彩香を簡単に想像できた。


ともすれば、椿の気持ちもありがたい。


「お怪我が治られて、自由にお出かけになられるようになったら、どこへでも、お好きなだけ、お買い物に行かれますからね」


しみじみと雪乃が告げる。


「そうだな、ずっと側に居るのだから、焦る事は無い」


龍志朗も雪乃の言葉に自身の想いを重ねた。


ずっと、こんな穏やかな日々が続くと、この時は思っていた。

大丈夫、だったかな?


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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