表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
31/75

絆編-1

きりが良いので、本日から第2章?絆編としまして、開始します。

ちなみに、1話に「出会い編」付けておきました。

これからもお付き合いの程、よろしくお願いします。

 「大丈夫だ」


自分がこの言葉を繰り返すようになろうとは。


色々と雪乃に言われた通り、すべき事がたくさんあった。


途中で、何度も、何度も龍志朗は彩香をさらって何処かに行こうと思った。


龍志朗は彩香が傍に居れば良いのだ。


他には何もいらない。




そう言って、全部、何処かに捨て置きたい気分だった。


彩香に「龍志朗様、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」と不安そうに見つめられる。


その度に「そんな事はない、彩香は気にしなくて良い」と応えてしまう自分が居るのだ。


そう応えたからには、面倒をなぎ倒していくしか道は残されていなかった。


何よりも大切な彩香の不安を取り除き、その笑顔を守る、それだけのために。




まずは最初の難関、森野家に根回しである。


彩香が退院したら、月夜家当主に挨拶に行かなければならない、そのために先にこちらに根回しをしておこう、という雪乃との作戦なのだが、何故、難関に入るか?


森野家当主、森野雅和は軍法会議で魔界軍人相手に彩香の保護者代理をして、庇ってくれた人である。


そして、いつでも龍志朗の味方になってくれる。


そもそも、彩香と話が出来たのは雅和のお陰と言っても過言ではない。


そう、難敵は森野椿である。


森野家に挨拶に行って、椿が祝辞だけで、今後の協力を約束してくれて、終わりになる事など、あろうはずがない。


「どのくらい、搾り取られるかな、いや、帰って来れるだろうか・・・」


龍志朗はどう考えても無事でいられると思えなかった。




「いらっしゃい、待ってたわよ」


森野家の執事が玄関の扉を開けた瞬間、悪魔の囁きどころか囀さえずりが聞こえてきた。


そこに居たのは満面の笑みの椿だった。


「どうも」


龍志朗は既に体から何かが吸い取られていくような気がした。


雪乃が買ってきてくれた手土産を椿に渡すと、後に続き、客間に通された。


「龍志朗、よく来てくれたね、おめでとう」


まだ、何も言わないうちに雅和はいそいそと龍志朗の手を取り、握りこんだ。


「あら、貴方、まだ早いわよ」


椿が夫の雅和を優しく窘める。


「あ、そうだったね、ごめんごめん、嬉しくて、つい」


雅和はパッと手を離し、頭の後ろをかきながら、笑顔が溢れていた。


「では、あらためまして、私は今度、海波彩香嬢と婚約する事とし、別邸にて同居する事と致しましたので、ご報告にあがりました」


龍志朗が真顔になって、一気に話した。


「おめでとう、良かった良かった、これで紫ゆかりも安心しているよ、おめでとう」


雅和が真っ先に祝辞を述べた。


その瞳は潤んでいるようで、遠くを見ながら、亡き妹である、龍志朗の母の名を口にしていた。


龍志朗も母が生きていたら、何と言ってくれたかのかと、思った。


「おめでとう、こんなに早く決まるとは思わなかったよ、ああ、また助手を探さないと」


雅也は嬉しいの半分、優秀な助手を失くして困るの半分と、少し複雑だった。


「ああ、でも彩香は直ぐには、止めたくないかもしれない」


龍志朗は雅也の落胆に少し後ろめたさを感じた。


「そうか、ま、次が見つかるまででも、そうしてもらうと助かるかな」


雅也もその申し出は有難かったが、継続される訳ではないので、やはり複雑だった。


「おめでとうございます、何だか、妹が増えるような気分です」


牡丹も大きなお腹で笑顔を振りまいていた。


「ありがとうございます、頂いた靴を彩香は嬉しそうに履いていました」


龍志朗は見られた海辺の時を思い出していた。




「おめでとう、で、何て言って口説いたの?」


椿は、皆が言うのを待ってから、身を乗り出して問い始めた。


「え、いや、別に、それ程の、事は、して、ない、かなぁ・・・」


龍志朗はやはり、来たかと、ソファに座っているので、それ以上後ろに下がれないのが、本当に残念でならないと思い、気持ちだけでも後退りしていた。


「そんな事は無いでしょう?だって、ここで最初の料理作りでご飯食べてから、その後、こちらに来なくても、海辺で抱いていた噂がとても広まってたり、彩香ちゃんがとっても落ち込んでいた時期があったり、例の件だってあったし、幸則さんだって連れてきた時は大変だったって言ってたし、入院している今だって、毎日、お見舞いに行っているんだから、いつ、どこで、どうなったら、こうなるのよ」




どこから調べてきたのか、椿の経過観察日記のような問いに、龍志朗は血の気が引いていった。


「いや、それだけ、色々と知っているなら、今更、必要ないのではないかと思われるのですが・・・」


龍志朗が一応、椿に返してみた。


「え?こんな事誰でも知っているのではないの?」


椿が何を今更とわざと驚いたふりをして見せた。


そんなはずは無いと、心の中で叫んで、顔が引きつる龍志朗であった。




「雅和おじさん、彩香のために軍法会議に出て頂いてありがとうございました」


龍志朗は、これはあらためてお礼を言っておきたいと思っていたので、失いかけていた気を取り戻し、急に姿勢を正した。


「いやいや、私は軍人ではないから、と思ったんだけど、彩香ちゃんの事だからね、色々と話が聞こえてきたのでね、珍しく、立場を利用してみただけなんだよ、いや、彩香ちゃんのためになっているなら良いのだが、事が大きくなってしまったかなとも思ってね」


そういうと雅和はまた、頭の後ろをかいた。


「いえ、やっぱり、彩香の立場が弱いからと言って無し崩しにされたら、彩香はまた辛い思いをする事になるので、良かったと思います、確かに、何でこんなに公なんだろうと思う事もあるんですけどね」


龍志朗は北との会話を思い出して、笑っていた。




「で、龍志朗さん」


椿がまた頃合いを見て顔を寄せてくる。


「え、ええ」


龍志朗の気持ちが引きさがる。


「じゃ、海辺で抱いた話」


椿がまた顔を寄せてきた。


ここにいる全員が聞きたいことなので、この時ばかりは、誰も止めなかった。


急に氷原に放り出された様に、心もとない龍志朗である。


「ええっと、少しその表現は正しくないと・・・岩場が危ないのと彩香が登れなかったので、抱き上げて、移動していただけなので、そもそも、別邸に来たのは、彩香が結界を超えて偶然来ただけなので、私の邸とは知らずに来たわけだから・・・」


龍志朗はあらすじを語った。


「結界を超えて?」


雅和は、彩香に結界を破るような魔術はないだろうし、龍志朗がこう言うのなら、当日の結界にも問題はなかったのだろうから、何が起きたのだろうかと、疑問に思うのは当然である。


「そうなんですよ、本人に結界を破った意識はなく、見に行っても、結界に問題は無かったのです、それで、あらためて本人に、行き来させてみたのですが、何事も無いように結界を超えてしまって、本人の感覚では少し皮膚に痛みがあったり無かったりの変化くらいらしいので、それを確かめて屋敷に戻る時に彩香が転びそうになって、危ないから、抱き上げて連れて帰ったら、見られていたらしいです・・・」


龍志朗は雅和の問いに答えながら、その噂が出た時に対馬に怒られたのを思い出して、ため息をついた。




「災難だったね」


「本当に、厄難だったね」


雅和と雅也が同情していた。


「あら、そんな素敵な偶然だったの?やっぱり運命の人だったのね」


「ロマンチックですね、迷ったら王子様のところに辿り着くなんて」


椿と牡丹は同じ話を聞いて、夢見る乙女の様ように、二人で、視線が遥か斜め上に向かっていた。


(ここは何も言うまい)龍志朗は、嵐が去るのを待つ小舟のような気分だった。

大丈夫、だったかな?

続きっぽさを感じてもらえると思いますが、でれでれもしてもらいたいです。


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ