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思い込みって、大変。。。
夕方、いつもより早めに上がって龍志朗は彩香の病室に向かった。
昨日の事もあるので、彩香とは少し会いづらい事もあるのだが、先に延ばす気持ちにもなれなかった。
龍志朗は扉を少し開けて、中の彩香に声を掛けた。
「入っても良いか?」
「龍志朗様?お早いですね、どうぞ」
中から明るい彩香の声がして、龍志朗は安堵した。
「昨日はすまなかった、具合は悪くなってないか?」
龍志朗は少し、俯き加減で話始めた。
「龍志朗様、そんなにお気になさらないでください、柊先生は少し大げさにおっしゃっただけですから、私はお会い出来て嬉しかったです」
彩香が頬を桜色に染めながら答える。
そう言われて龍志朗は顔を上げて、少し気を持ち直せた。
龍志朗はそんな彩香の真っ直ぐな瞳を見て、愛しいと想った。
そんな彩香を傍に置きたいと、今の様に明るく笑って居られるようにしたいと想った。
彩香は龍志朗が真っ直ぐに自分を見つめているので、心の音が少しうるさくなってきていた。
ただ、彩香は龍志朗が何か言いたそうな気もしたので、何だろうと小首を傾げて、龍志朗の言葉を待った。
「彩香、私の家に来い」
突然、龍志朗の言い出した事を彩香は理解出来なかった。
「え?…」
驚き過ぎて頭が真っ白になってしまったが取り敢えず、彩香の声が音になった。
その反応を見て、龍志朗は直ぐに返事をしてくれなかった彩香に不安を持った。
「退院したら、あの家で一緒に暮らそう、嫌か?」
龍志朗は彩香の瞳を覗き込んで聞いた。
「いえ、そんな事は・・・」
「では良いな」
龍志朗は一人で納得して笑顔になっていた。
「龍志朗様、あの、それは・・・」
今度は彩香の方が不安そうに龍志朗の瞳を見て、問いかけた。
だが、怖くて最後まで聞けなかった。
(龍志朗様はこんな怪我をした私に同情して、仕事が出来ないと思って、寮を追い出されると思って、言って下さったのかしら?それとも・・・いえ、きっとあの時も憐れんで下さったのかもしれないし・・・)
彩香は段々と俯きがちになっていった。
(あれ?彩香は、本当は嬉しくないのかな?なんかまた沈んでいっている気がする)
そんな彩香の様子に龍志朗は気が付いた。
数瞬の沈黙がお互いの不安を広げた。
「彩香? 私は彩香に妻として、あの家に来て欲しいのだが、彩香は嫌か?」
龍志朗から笑顔が消えて、また、彩香を覗き込むように、尋ねた。
龍志朗は自分の言葉が足りていない事に気が付いていなかったのだが、無意識に妻という言葉が出てきた。
「え?龍志朗様、今、何て?」
彩香は驚いて顔を上げ、目を見開き、食い入るように龍志朗を見た。
「ん?彩香を妻にしたいから、順序は違うが、先に、一緒に暮らし始めたいと思っているのだが・・・駄目か?」
彩香が珍しく、顔を近づけて来たので、その事に龍志朗は驚いた。
龍志朗は眼を丸くしたまま、徐々に言葉を足しながら話していた。
彩香は二度、妻という言葉を聞いて、聞き間違いとか、思い違いではないらしいと思え、素直に嬉しかったのだが、驚きも大きかった。
ただ、急にそんな話をされた事に思い至ると、急に恥ずかしくなり、顔が火照ってきた。
龍志朗が、以前から自分に話している事のように話すのが、少し気になって複雑な想いが心を巡っていた。
「と、とても、うれしいです、ただ、あの、龍志朗様、そういうお話は、今、初めて聞いた思うのですが・・・」
彩香は複雑な心のままを声にして、首を傾げながら、龍志朗に告げた。
「うん、初めて言った、ね、言葉としては、たぶん、きっと・・・」
ここで始めて、龍志朗は彩香の最初の反応が、思っていたのと違っていた理由に気が付いた。
(そうだった、何だか自分の中で完結し過ぎて、彩香に結論だけ言っていたようだ)
龍志朗はようやく彩香が何に不安を持っているのかが見えてきた、だから反応がずれているのだと確信できた。
だからいつもの彩香のように、後ろ向きになって、不安そうになって俯き、言葉が続けられなったと、漸く、気が付いた。
龍志朗は、彩香を真っ直ぐに見つめた。
「彩香、私はお前を愛しいと想っている、だからずっと私の傍に居て欲しい、私の妻として、あの家に来てもらえるだろうか?」
龍志朗は、彩香の小さな手を、そっと自分の手で包んで、告げた。
「はい」
彩香の碧い瞳から雫が溢れてきて、小さな声は涙で震えながらも、はっきりとした答えだった。
龍志朗は彩香の涙を指で拭ってあげ、そっと自分の胸に彩香の頭を抱き寄せた。
腕の中で彩香が泣き止むまで、龍志朗は、彩香の頭を何度も何度も何度も、撫でていた。
大丈夫、だったかな?
少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。
一先ず、ここで一区切りとなっております。
少し間を開けて、続きを載せたいと思っております。
大丈夫です!ほぼ、出来てますから!
お待ち頂ければ幸いです。
引き続きよろしくお願いします。




