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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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今日も何とか辿り着きました。。。

彩香は穏やかな雅和に促されて、会場内の食堂に入った、案内されたのは重鎮のための特別席だった。

(し、視線を感じる)

彩香が食堂に入った瞬間、中に居た人達から一斉に視線を感じ、今も、どことなく見られている感がある。


当然である、雅和は薬師界の重鎮である。

それ故に、隙があれば話しかけたいという研究者や企業人が大勢控えている。

ただ、家族と食事中でなので、控えなければという事で、その場に誰かが駆け寄って来る訳ではないが、何故か違和感のある娘が一人紛れているのである。

出し抜かれたのかと、気が気ではない研究者と、龍志朗の側に若い娘がいるという女性達からの嫉妬が重なり、いつも以上に視線が集まっている。


「さ、お嬢さんは何がお好きかな?何でも好きな物を召し上がれ」

そう、雅和に即されたが、彩香は、お品書きを見ても、わからない単語が並んでいた。

施設で育って、今も寮で慎ましく暮らしている彩香にとって、重鎮に出されるようなお品書きは想像も出来ない、食べた事のないようなものが並んでいた。

(困ったわ、何を頼んで良いかわからない・・・)

「私はやっぱり薬師ご膳かな」

雅和が彩香の眉間の皺をすばやく読み取り、呟いた。

「では、私は三界ご膳にしようかな」

雅也が違うメニューを言った。

(え、どっちが良いんだろう、あ、薬師ご膳の方が安い、でも量が多そう、あ、)


彩香が迷った末に決めたのは、

「あの、私は薬師定食をお願いしてもよろしいでしょうか?」

彩香はおずおずと雅和にお願いした。

「高いの食べといた方が良いぞ、親父の驕りなんだから」

「なんだ、いい年をして、浅ましいなお前は」

すかさず雅也が自分と同じメニューを勧めてきたが、雅和がピシャリと窘めた。

「いや、こういう時でないと、こんな変わった物も食べられないし」

雅也はさも当然の選択の様に誇り顔である。

「ま、それはそうだが、ものの言い方があるだろう、龍志朗はどうする?」

雅和が穏やかに息子を諭しながら、龍志朗に話しかけた。

「量が、な、魔界定食で」

「相変わらず小食だな」

「食べるだけましになったんだ」

「そこ、自慢するところではないぞ」

龍志朗は味よりも量の少なさそうな物を見比べていたようで、森野家の話を聞いていて、自分は魔界定食にしたようだ。

幼少期は余程食べなかったのか、鼻を膨らまして勝ち誇っていたのだが、雅和にあっけなく否定された。

(龍志朗様もあまり召し上がらないんだ)

彩香は自分もあまり食べられないため、親近感がわいてきた。


それでも食べた事ないような豪華な食事に目が奪われた。

場違いにいるような緊張感はあったが、何より雅和の柔和な笑顔とさり気ない気遣いで、美味しく楽しい食事であった。

龍志朗とも、少し話が出来た。

「薬師の仕事は楽しいのか?」

「覚える事が多くて大変なのですが、知らない事がわかるのは楽しいです」

「そうだな、知らない事を知る事は楽しいな」

「指の怪我は治りましたか?」

「あー、手当が良かったのだろう、すぐに治った」

「良かったです、お仕事に響かなくて」

「そうだな、私は攻撃だから、指先は大事だし、何かあれば響くな」

彩香にしては珍しく薬師の仕事の事ではないのだが、すんなりと言葉にできた。

彩香自身も不思議に思ったのだが、何だか、龍志朗の背中の温かさが思い出されたのか、話をしている時に、不思議といつもと違って緊張しなかったのである。

龍志朗にしても、女性と気軽に話せるのは珍しかった。


何のことはない会話で、傍で聞いていると何ともないのだが、森野親子にしてみれば、この二人が普通に会話しているだけで驚きである。

「彩香さんは、何に一番興味があるかな?」

雅和が頃合いを見て話しかける。

「血の巡りのお薬の事を最近知ったので、今はそれについて覚えるようにしています」

彩香は雅和に聞かれたので、当然薬師の仕事の事と思って答えた。

「そうなんだ、それは大事な事だね、良い文献があるから、今度我が家に来ると良い、お前も少し学ぶと、攻撃の幅が広がるのではないかな?」

雅和は彩香を自宅に招くのと合わせて、龍志朗にも自宅へ来るように仕向けた。

「何で、私が薬師の勉強を?」

唐突に自分に声が掛かったので、龍志朗は驚いて聞き返した。

「いや、薬師の勉強ではないよ、血の巡りが集まる所は急所だから、攻撃の最適箇所だろう?知っておいて損はないと思うよ」

雅和がさらりと応える。

「人体解剖はやったから知っている」

龍志朗は何を今更と反論する。

「復習は大事だし、最近の文献は知らないだろう?」

「そうだね(いらない気もするけど・・・)」

論じれば、敵う相手ではない、龍志朗もそれはわかっているので、引き下がる。

(さて、何の文献を用意しよう…)

午後の発表どころではなく、今後の段取りを考えるのに必死になりながら、何処か楽しい雅和だった。

食事が終わり、それぞれの活動へと移っていった。


大丈夫、だったかな?


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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