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面倒な事はいつも。。。
その頃、取り残された対馬達。
「どうして、そこまで暴走するかね、軍人の君が・・・」
対馬の呆れ顔に浅葱が目を吊り上げ叫んだ。
「対馬さんにはわからないです!」
「はい、わかりません」
わからないから、聞いてみたんだがと、即答を返した対馬だった。
対馬は一先ず、自身の上役の隊長に『封式』を飛ばして、この始末の落とし処を聞いた。
軍の中の事故、周囲に多少、人がいる、しかし、身内だけでもあるので、判断を仰いだのである。
「何故、ここが?」
浅葱は、当然、龍志朗に敵うはずはないので、正面から彩香に攻撃はできない。
だから、偶然とは言え、こんな所で隙を付いたつもりでもあったのだ。
彩香が封式を持っている事は、対馬が龍志朗に渡す所を見ていたし、膜が張られた事でわかったが、同じ防御の膜なので、破ってしまえば問題ないと思っていた。
だから、攻撃できると思っていたのである、それなのに、膜を破って一撃の後、直ぐに、龍志朗に来られてしまった、当然、結果は、浅葱自身が拘束されて、彩香は助けられた。
「甘く見られたら困るね、あの封式は、発動されると術者に発動した事と位置が伝わるように出来ているんだよ、月夜は攻撃だから、瞬時に移動ができる、ま、お陰で私は走らされたけどね、全く人使いが荒い事で」
対馬が両手を上げて応えると、浅葱は遠くから見ていただけなので、そこまで知らなかった自分を悔やんだ。
そもそも、そんな高度な封式があるとは思いもしなかったし、自身では到底、出来ない術式なので、自分の実力の無さも痛感した。
「まさか、一緒にいる時に発動するとは思わなかったけどね」
対馬は、そう言ってから、発動した、少し前の事を思い出す。
龍志朗と対馬は次の演習に向けて、戦術を龍志朗の執務室で相談していた。
「ん、対馬、これあの封式の発動か?」
龍志朗は彩香に渡した封式の術者用の物が振動しているのに気が付き、対馬に見せた。
「え、あ、振動している、そうだね、彼女襲われているね、位置は、近すぎないか?軍の施設内だぞ、医療棟と薬師棟の間だな、飛べるか?」
対馬は見せられた物が示す地図を解読して、龍志朗に詳細な位置を告げた。
「お前も来い」
そう、言い終わらないうちに龍志朗は移動して、姿が見えなくなっていた。
「って、もういないし…」
対馬は龍志朗のような移動が出来る訳ではないので、地道に自分が告げた場所まで、走って向かった。
(いやーびっくり、身近過ぎて…)
この術式の封式が発動するのももちろん初めてであったが、発動させた人間がこんな身近な人間で、軍の中でこんな事が起きるのも初めてだったので、対馬は本当に驚いていた。
対馬のそんな回想が終わる頃、隊長が来て、浅葱の身柄を預かってくれたので、対馬も医療棟に向かった。
処置の間に龍志朗も封式を飛ばして、部下の北に指示を出し、今日は病人の面倒を見るので、戻らない事を伝えた。
そんな状態で、処置室の外で待っていた龍志朗の所に対馬がやってきた。
「隊長に浅葱の身柄を預けたよ」
対馬が静かに龍志朗に声をかける、それでも、静かな廊下で対馬の声は響いた。
「ああ、すまない」
龍志朗も少し落ち着いてきた。
「ま、こんな大事は始めてで、驚いたけどね」
対馬は率直な感想を言った。
「んん、全くわからん」
龍志朗はそれについては、浅葱があそこまで自分を慕っていたとは夢にも思っていなかったので、本当に驚いた。
「ほんとに?あれだけわかりやすくお前に向けられていたけどね」
対馬をはじめ、防御部隊や攻撃部隊では皆、知っている事だったので、気が付いていなかったのならば、それは龍志朗だけだろうと、対馬は思った。
「いや、多少は他の女性と同じ秋波を感じる事はあるけど、その程度かと思ったし、軍人だからな、一応、規律とか理性とか、他よりあるだろう?普通?」
龍志朗も、全く感じなかった訳ではないが、いつもの事だと、思った程度だったので、それを毎回何か対応する事はないのである。
「まぁな、そう思うよね、やっぱり、軍の中で“あれ”起こされるとは思わないよね」
流石に、対馬は学生時代から、龍志朗に寄せられる秋波を見てきているので、あれを一々対応していたら、切りが無いし、必要な無いだろうと思うし、現に必要無かった。
それを、軍に入ってまでとは、龍志朗でなくても思うところである。
そんな話をして、二人でひたすら祈る思いで彩香の手術の終わりを待った。
暫くして手術が無事に終わった。
対馬は彩香の手術が無事に終わったと聞いて、一人で仕事場に戻っていった。
(さて、蜂の巣がひっくり返っている所に戻りますか、私は偉いなぁ)
戻ったら、周囲から事の顛末をあれこれ聞かれて大変になるだろうと予想しながら、対馬はゆっくり歩いていた。
大丈夫、だったかな?
少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。
引き続きよろしくお願いします。




