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海に月の光が梳ける時  作者: 稜 香音
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あっ!!!

夕刻、やや、薄暗くなってきた頃、彩香は師のお使いで医療棟に薬を届け、倉庫から明日の薬剤を持って仕事場に戻る途中であった。


先日の一件以来、仕事場から出なくなっていたのだが、龍志朗の家に行ってから、また、笑顔が戻ってきたのを見て、雅也は通常通りの仕事に戻し始めていたところだった。




嵩張る薬剤に前が良く見えないため、隙間から覗きながら歩いていると、突然肩を掴まれ引きずられた。


先日の女である。


「貴方のせいよ!」


掴まれた肩を建物の細い隙間の壁に向かって突き放された。


彩香は壁にぶつけられ、その場にしゃがみこんだ。


女は駿河浅葱である、現役の軍人が、華奢な彩香を突き飛ばすくらい簡単だ、突き飛ばされた方の彩香は、壁に当たった肩に激痛が走る。


「痛いっ」


彩香は痛みに耐えかね思わず漏らす。




「何で、貴方なのよ」


「私は・・・」


彩香にしてみれば、どこの誰かもわからないが、二度目の今日は、良く見れば女が着ているのは、魔力軍の制服で、自分の部屋にある龍志朗の制服と似ているので特殊部隊の人かもしれない、と思った。


この前の事があるので、反論出来そうな言葉は思いつかない。


龍志朗に相応しいと思っている訳ではない。


それでも、側に居たいと想ってしまうのは止められない。


あの優しさに、笑顔に触れたら、心を止められなかった。


選ばれなくても、選ばれないと思っていても、側に居たかった。


龍志朗に微笑んでもらえる間は、傍に居ても良いのではないかと思っていた。




「許さない、絶対、何も持っていないお前なんか!」


浅葱は、いつまでたっても龍志朗に近づけなかった。


魔力を持っている家の子女である浅葱は、学生の時から龍志朗の存在を知っていて、恋慕ってきた。


幸い、自分には防御の能力があったので、龍志朗と組む事が出来れば、側に居られるかもしれない、もしかしたら・・・と思って、軍にまで入ったのである。


懸命に実力を磨き、近くまで来たと思ったところで、あの噂である。


「月夜龍志朗が女性を抱き上げて海辺を歩いていた、婚約発表が近いのではないのか?」


浅葱はその噂を聞いた時に、体の中を稲妻が走った。


噂では相手の女性が誰かわからなかったらしいが、浅葱は気が付いた。


「きっと、あの娘だ」


龍志朗が対馬の所に来て、封式をもらっていった日、そのもらう場面を、偶然目にしたので、密かに龍志朗の後を付けたのである。


元々、防御の浅葱は“遠隔”が得意なので、離れた所から確認できた。


「誰?あの女は?」


龍志朗と楽しそうに話している彩香を見たのである。


そもそも、龍志朗が楽しそうである。


あんな顔、浅葱は見た事がない。


自分に向けられた事がない、知らない笑顔を知らない娘に向けている。


それも許せなかった。




白衣を着ているので、軍の医療関係者であると思い、その女が龍志朗と別れた後、そのまま後を付けた。


薬師見習いとして森野の下で働いているらしいと判った。


見習いで働くという事は、働かなければならないからだと思った。


聞いた事が無い名前に家柄は無いと思った。


寮にいるという事は、住むところがないからだと思った。


森野と龍志朗は親戚だが、その下で働いているからと言って縁者ではないらしい。


同じ軍属でも界が違うと、通常接点はない。




なのに龍志朗はあの子に笑顔を向けた。


いつから?


どこで?


何故?


解らない事が多い。


でも、一つだけ確かな想いがあった。


あの娘を許せない。


薬師は魔力とは違い天性のものではない。


そこにいるあの娘は魔力を持っていない。


龍志朗の役に立たない娘が自分よりも龍志朗の側に居るのが許せなかった。


浅葱はそう思い込んでいたので、先日の暴挙になった。


そして、龍志朗に演習で組む事を断られた日に、彩香を見かけてしまったのである。




彩香は見上げた女の顔が、怒りで目を見開き、頬を紅潮させて、今にも何かされそうで、怖くなった。


彩香は、服の上からお守りを強く握りしめて、呟いた。


「助けて、龍志朗様」


すると、彩香の周りに膜が張られた。


ほっと息をついた彩香だが、次の瞬間、目を見張った。


「そんな膜!」


浅葱が叫ぶと、膜に切れ目が入って、そのまま、左手の上に激痛が走った。


だらりと下がった腕の上の白衣は赤く滲み始めた。


痛みと恐怖で、声すら上げられない彩香は、次第に、目の前が暗くなっていくのを感じていた。

大丈夫、だったかな?


少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。

引き続きよろしくお願いします。

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