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あらあら・・・
何処で誰に見られているか、わからないものである。
龍志朗が海辺の岩場で女性を抱き上げていたと、噂が立っていた。
だが、その相手が誰なのかはわかっていなかった。
元々、月夜家の次期当主なのだから、許嫁がいるのではないかとか、婚約者が出来たのではないか、等と、尾ひれが付き、噂が広がっていった。
そんな噂が立ち始めた頃に、相方の対馬の所に、別の部隊の同期がやってきて、そっと声をかけた。
「対馬、お前知っているか?月夜に婚約者がいる事を?」
辺りを見渡して、人気が無い事を確認してから、対馬に話しかける。
「何の話だよ」
彼がやって来ていたのは視界に入っていたものの、突然の話題に対馬は驚いた。
「広報の女性が見たらしいんだけどさ、この前の休みに、海辺で月夜が女性を抱き上げて歩いていたって、すごい噂になっているんだよ」
対馬が知らないようなので、少し得意気に続きを語り始める。
「どんな女性なんだよ」
対馬は以前、封式を渡した女性だろうとは思ったが、噂がどの程度広まって、突き止められているのか知っておきたいと思って、探りを入れた。
「遠くてよくわからなかったらしいんだけど、桃色のスカートが見えたんだって、でも、顔は全く見えなかったから、背の低い女性だろうって話だよ」
彼は両手を肘からまげて胸の前に差し出して、抱き上げる真似をして見せた。
「何で背が低いんだよ?」
彼の空中の手が見た様子を示しているのは解ったが、対馬はそれと背の低い事は結び付けられなかった。
「抱き抱えていて、足先は見えるけど、顔が見えないって事は、女性の背が低いから、細い月夜の体に隠れたって事だろうって、言ってたよ」
言いながら、彼の片手は、自分の胸に手のひらを向けて、見えない頭を抱えているように見せた
「成程、中々な推論だな」
対馬は彼の仕草から、容易に想像出来るようになった。
「で、誰だか知っているのか?」
そう、対馬は確認しておかなければならない事を問いただした。
「他にわかっている事はないのか?」
対馬は続けて、他に流布されている事がないか、確認した。
「え、ええと、誰かは誰も知らないみたいなんだが、軽々抱き上げていたらしい、くらいかな」
彼は何故だか急に、自分が言わなければならないような立場に、追い込まれた気がしながら、必死に考えて答えた。
「背が低くて細いって事か?」
対馬は話をまとめて、彼女とされている女性像をまとめた。
「その広報の子が見ただけで、他に目撃証言ないんだよな」
彼は思い出そうと懸命になったが、他からは出ていないと告げた。
「その広報の子は誰と見たんだよ」
対馬が新たな問いをする。
「いや、誰だろう?それは聞いてないな」
彼は知らなくて当然の事のように答えた。
「案外、その広報の子なんじゃないか?抱き上げられていたの?出なければ、自分が他の男と居たからそれを隠すために違う話を流したんじゃないか?」
対馬はまったく違う話を仕掛けた。
「えっ?いやだって彼女を狙っているのは結構いるぞ」
彼は全く自分が想像すらしていなかった話に驚き、戸惑いを隠せなかった。
「だろ?だから違う話で、自分に降りかからないようにしているんじゃないか?」
対馬は口の端を少し上げ、彼が思っている事はとても正しいというように、肩に手を置き促した。
「ああ、聞いてこよ」
彼は慌てて立ち去っていった。
「いってらっしゃい・・・」
対馬は爽やかに見送った。
(あらら、単純な事で、助かったね、まったく)
対馬は立ち去る彼を見送りながら、思った。
「さて、っと」
おもむろに立ち上がった。
大丈夫、だったかな?
少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。
引き続きよろしくお願いします。




