13
偶然です。
”13”不吉な。。。
「貴方ね、龍志朗さんの側をウロウロしているのは」
師に頼まれて、倉庫から、午後の調合用の薬を運んでいる途中に、いきなり肩を掴まれて人気の無い建物の隙間の壁際に押し付けられた。
「ど、どなたですか?」
見知らぬ女の人に凄まれて、驚きながらも彩香は問い返した。
「泥棒猫に関係ないでしょ!」
「えっ」
摑まれている肩に痛みを感じながらも、身に覚えの無い事を言われ、驚き目を見開いた。
「どうやって取りったのよ、家柄も魔力も何も無い癖に!」
「あ・・・」
見知らぬ女の鋭い眼光と、事実とは言え、龍志朗様の様な立派な方の側に居られるような身分で無い事は、自身が一番身に沁みていただけに、言葉が矢のように刺さる。
何も言い返せぬまま、俯いていくしかない彩香だった。
「迷惑だと思わないの?貴方みたいのが龍志朗さんの様に家柄も地位もある人の側にいるなんて?」
「それは・・・」
畳み掛けるような女の言葉に、応える術を持たない彩香である。
「同情でも良いから気を引いたつもりなの?」
彩香は「同情」と言う言葉に肩を僅かに跳ね、顔を上げ、潤ませた目を女に向けた。
そんなつもりは無かったと言いたかったが、声にならなかった。
「貴方みたいなのが龍志朗さんの何の役に立つのよ」
迷惑を掛けた事が確かにある上、役に立ちそうな事等、想像もつかない彩香は唇を噛んでまた俯く。
「貴方みたいのが私の龍志朗さんの側にいたら目障りなのよ」
「えっ、わた・・・」
彩香は「私の龍志朗」と言う言葉に足が震え、身体から力が抜けていくようだった。
「役に立たない者は側に要らないのよ、貴方みたいな役に立たない」
言われれば、言われるだけ、言葉が刺さり、身動きもできず、反論する言葉も見つけられない。
「強い龍志朗さんが弱い貴方に気まぐれ起こしただけなんだから、目障りな事に気が付きなさいよ!」
自分は危ない所を助けてもらった程、弱かった、その通りなのかもしれないという思いが湧いてくる。
「二度と私の龍志朗さんに近づかないで!」
掴まれた肩を思いっきり突き飛ばされて、女は去っていった。
その場に叩きつけられた彩香は、体に痺れが走った。
痛めた足よりも、心が痛かった。
突然過ぎて、自分の身に起きた事が理解できず、何も考えられないまま、薬を抱え、師の元へ戻った。
足を引きずりながら、薬を持って帰ってきた、彩香の真っ白な顔を見て、雅也は驚いて声を掛けた。
「どうした、何があった」
「何でもありません、大丈夫です」
彩香は条件反射のように力なく答えた。
実際、考えて答えた訳ではなかった、それ程、衝撃が大き過ぎて頭は顔より真っ白だったのだ。
「いや、大丈夫ではないだろう、足を引きずって、顔色が悪過ぎる、休みなさい、さぁ、座って、足を見せてごらん」
流石にこの状態をいつもの事と流すわけには行かず、雅也も彩香を椅子に座らせて、他の助手に薬を持ってこさせ、その場で手当てを始めた。
彩香は心に受けた傷が大きすぎて、されるままの状態で、手当を受けていた。
その間、瞳は焦点が合っていないように、空くうを見ているようだった。
その日は、後の仕事をせず、雅也に言われるまま、帰宅する事になった。
一人で返すのが不安だった雅也が助手の一人に送らせた程だった。
家に着いても、彩香は「私の龍志朗」「近づくな」と女の言葉が、頭の中をいつまでも巡っていた。
龍志朗からもらったお守りを握りしめ、返し損なっていた上着で顔を覆い、そのまま蹲っていた。
翌日、足を引きずりながら仕事に来た彩香は、声をかけるのもためらわれ程、白く無表情だった。
雅也は、これは前より酷いと思った。
漸く、笑顔を見せ、話かけやすくなって喜んでいたのに、自分について仕事を始めた頃より、更に、頑なに心を閉ざした少女に戻ってしまったと、嘆いた。
それでも、引きずっていた足は少しずつ良くなってきた。
毎日、仕事には来ているが、心の傷は一向に治る気配が無かった。
俯き、無表情のまま、淡々と、黙々と、その日の仕事をするだけであった。
会話らしい会話は無い。
雅也が配慮して、倉庫には別の助手を行かせるようにしていたため、彩香は仕事中もその場から出る事はなく、昼休みも部屋の片隅に居るようになったので、その姿は蜻蛉の様に儚く見える。
大丈夫、だったかな?
少しでも皆様の気晴らしになったら良かったです。
引き続きよろしくお願いします。