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第18話 折れた翼

~Side そら~


 目が覚めると視界は異様な光景だった。右目を閉じるとモノトーンのような白黒の天井、左目を閉じると白く眩しい世界が広がっていた。


 首を動かすことでさえ億劫おっくうに感じる。辺りを見渡すとぼんやりとはしているものの、心配そうに見つめる姉、見たことのない大学生くらいの男、白衣を着た先生、そして、浩一先輩がそこに立っていた。そこでやっと気付いた、私は病院のベッドの上に横たわっているのだと。


「目が覚めたか、そら」


 優しく語りかけるように、浩一先輩は椅子を持ってきてベッドのすぐ横に腰を下ろした。私は虚ろながら、先輩に向かって小さく頷く。


「よかった、本当によかった」


 その言葉を聞いて僅かに泣きそうになる。頭を軽く撫でられると、今度は左側から姉が姿を現した。横になっていた体を少し起こす。姉はなんだか複雑そうな顔をしていた。


「そら、左眼の調子はどう」


「どうって……」


 右目を閉じて、左目だけでもう一度見てみる。やはり色が感じられない。感じたことのない景色に吐き気をもよおした。


「──ああ、そっか」


 ついにこのときが来てしまったんだなと、私は両目をしっかりと閉じた。高校生になっても発症しなかったから、私には一生縁のないものだと心のなかで安堵しきっていた。毎年検診を受けても、どうせ引っかからないだろうと高を括っていたのだ。


 それが突然、こんな形で訪れるなんて思いもせずに。


 高校生活最後の試合となってしまった大会はこんな形で幕を下ろしてしまった。

 お姉ちゃんや先生、みんなの期待を裏切るような結果に終わってしまった。

 浩一先輩に良いところも見せられなかった。


 ……こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった!


 そう思った途端、どこにぶつけていいかわからない不安や悲しみ、怒りがフツフツと心にこみ上げてきた。


「試合は残念だったけど、まだ部活は引退じゃないぞ。最後まで──」


「最後まで、なんなの」


 浩一先輩の話を遮るように口を挟む。ベッドのシーツを強く握りしめ体に引き寄せる。手の甲に涙の粒が滴り落ちた。


「私にはこれしかないの! 剣道しかないの!」


 そこから先はもう止まらなかった。私は思いの丈を吐き出した。


「いままで竹刀一本で勝ち残ってきた。個人でも、団体でも、向かってくる敵は全員倒してきた。それはこれからも、ずっと続くはずだったんだよ!」


 ずっと続くはずだったのに……なのに……どうして……。

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