第14話 団体戦の行方
うずくまっていた姿勢を立て直し、改めて観客席のちょうど前のスペースで試合を行っているそらを探す。展開が思ったより早いのか、私が思ったより泣いていたのか、既に第2試合まで終わっていた。試合結果は0対0、2試合とも引き分けとなったのだろう。両校とも一歩も譲らない試合が続き、観客席にも選手たちの緊張感が伝わってくる。
続く第3試合。主審が合図をすると互いの高校から中堅が試合場の中央に向かって歩き出し蹲踞した。主審が掛け声をあげながらもう一度合図をすると、剣道着を身に纏った二人の高校生がぶつかり合う。牽制し合いながら相手の出の内を探り、ここぞと思った瞬間に竹刀を繰り出す。試合は、両者とも1本も取れないまま時間切れとなった。試合結果は変わらず0対0。次の副将戦で打ち取れれば、多少の気持ちの余裕ができる。そらの大将戦を待たずに試合が終わってくれたら一番よかったのだが……事はそう上手く運ばない。
第4試合が始まる。副将戦はそらの高校からは随分とガタイのいい女子が現れた。倉橋先輩ですら吹き飛ばされそうな程に身長は大きく、なにより威圧感がある。対する相手校は、対照的に華奢な女子が姿を見せる。今度は倉橋先輩でもなんとか殴られても耐えられそうな一般的な身長の高校生だ。主審の合図で試合が始まった。
始まってすぐに鍔迫り合いを見せる二人だったが、相手校の華奢な選手が距離を取る。流石に場外に押し出せないと判断した末の行動だろう。すると、ガタイのいいほうは距離を取ろうとする相手に追い討ちをかけるように面を仕掛けた。
だが、思って見なかったことに華奢なほうは面を立ち止まって受け止めると、そのまま場外に流すように力を受け流した。ガタイのいいほうは自身の力を律することができずに、相手の思うように場外に足を踏み外した。剣道の試合では場外に足が出ると反則を取られる。たとえ、あからさまに場外に押し出された場合でもそれは変わらない。出たほうが悪いのだ。この反則が2回主審から言い渡されると一本取られたのと同様の効果がある。野球でいうところのフォアボールのようなものだ。
試合の流れはそこから大きく変わってしまった。相手の女子は試合場の枠の限界近くまで誘き出すように試合を進めると、ガタイのいい女子は反則を恐れてか、1本を狙うことが躊躇われている気がした。
試合終了10秒前、試合は急展開を見せる。相手の女子は華奢な体を生かして素早く立ち回ると、枠線ぎりぎりの位置から一歩二歩踏み出して怒涛のラッシュで攻め立てる。
試合終了3秒前、消耗戦の末、ついに小手が有効打突として相手選手に決め手として入ってしまう。
短くホイッスルが鳴らされ、副将戦は負けてしまった。試合結果は1対0に上書きされてしまった。
この試合に勝利するためには、大将戦でそらが相手選手を徹底的に打ち負かすしか残す術はもう残っていなかった。