第13話 絶句
──私は絶句した。
私は途端になんと声をかけていいのかわからなくなってしまった。
恐れていたことが、まさかこんな大切な場面で起きてしまうなんて思ってもみなかったのだ。
そらは永遠に、私と同じ目の病気には罹らないんだって。失明なんかしないんだって。特別なんだって。自分のなかで言い聞かせて信じていた分、その反動で私の頭は整理が追いつかなくなった。
「あっ、ごめんねお姉ちゃん。もう時間ないみたいだから、試合終わった後で話聞いてね」
颯爽と場内に戻るそらの後ろ姿を、ただ私は呆然と眺めるしかできなかった。
「ちゃんと妹さんを元気づけることできたか」
「…………」
私は倉橋先輩の座っていた観客席の隣に腰を下ろすと、押し殺していた嗚咽が出てきた。静かに涙が目から流れ出す。膝の上に握った拳の甲に涙がぽつり、ぽつりと水滴のように溢れた。
倉橋先輩はきっと、いきなり泣いてしまった私にかける言葉を探しているのだろう。「えっと」と小さく戸惑いの声をあげながら、右往左往している。
溢れ出る涙が止まらなかった。こうなることを私は予知することができなかった。毎日顔を合わせているのに、気付いてあげることができなかった。もっと早く気付いてあげていれば、試合にも万全な状態で臨めたはずなのに。
両耳のあたりに温かい腕が伸びる。伸びた腕はそのまま私を抱きとめるように背中に手をまわすと、もう片方の腕も背中にまわるのがわかった。その腕が倉橋先輩のものだとわかると頬が蒸気してしまいそうになったが、マザーが抱きしめてくれたときと同じように体の芯まで温かくなる感触に襲われる。私の目から涙は自然と止まっていた。
「妹さんが頑張るんだから、姉ちゃんが頑張らなくてどうすんだよ」
「……そう、だね。うん、そうだ」
私の体を包んでいた倉橋先輩の腕が離れても、私の体は温かいままだった。
「最後まで見てあげなくちゃ、そらのこと。私お姉ちゃんだもん」