伝手
「やはり受かったか。」
受かった人達の待合室に入るとタンが見つけてくれた。
「でも予備試験だろ?」
「とはいえそこそこに難しい試験で受かった。しかも次は実践的な技術の確認ということで動物相手の戦闘、狩りだ。」
「確かに出が狩人だが、食いもんに困らないならそんな危ない事はしたくないぞ。」
「でもできるだろう。」
「まあ、な。」
「何か心配か?」
「今回に関しては初めて戦う相手だから普段通り戦えたけど、剣術はさっぱり出来ないからな。」
「そうなのか?それは意外だ。足捌きと狙いが独特だとはいえ、刀の扱いが慣れているからてっきり心得があるのかと。」
「独特なんじゃなくて知らねぇんだ。」
試験を行なっている広場から部屋に試験監督が入って来た。
「明日以降実戦形式の試験を行う。私から札を受け取ったら各自宿に戻って良い。明日もここで集合だ。」
「解散らしいが今晩どうするか決まっているか?」
「何も。例の村長がこの包丁以外一銭もくれなかったからな。」
「それなら同じ宿に来るとちょうど良いだろう。何よりもここから近いから明日楽なはずだ。」
「おう、助かる。でも良いのか?」
「手伝いに来てくれる予定だった人が急に来れなくなって、まだ部屋は予約したままだからそこに入れば良いはずだ。」
「そうか、助かる。」
二人で会場から歩き出した。
「いいさ。これから長い付き合いになるだろうからこの程度どうと言うことは無い。ところでその人は王都のいろんなレストランに行ってみたかった様で、3食のどれもつかないがどうする?」
「タンはどこで食べるんだ?」
「私の分は宿が準備してくれるが…」
「へー、もしかして宿屋がレストランもやっているのか?」
「そうだな。」
庁舎はそこそこ広かったが、普段から鍛えている二人が歩くとすぐに門の外に出た。
「じゃあ俺も一緒に食べるさ。」
「そうか。同じテーブルに着ければ良いな。宿はあの角を曲がってすぐだ。」
一ブロック先の交差点を指した。
「近いな。」
「感謝しろよ。」
「ああ。ありがとう。」
「部屋に入る前に買いたい物はあるか、狩りの専門家。」
「贅沢言えば土地薬セットぐらいかな。お金がないから買えないけど。」
「そうか。じゃあ私は買うことにするよ。店は宿の筋向かいのあそこだ。使った事があるのか?」
「狩りを始めたての頃に失敗して怪我を負ったことがあってな。でも捨てられていたものにまだかろうじて効果が残っていたからで、それ以降新しいのを入手できなかったからそれっきりだ。あと、効果が切れていても種類によっては香りに釣られて動物が集まるから獲物を誘導できるかもしれない。」
「かもしれない?」
「逆に逃げてった時もある。」
「別のものに引き寄せられたのではないのか?」
「向かってきたときは大抵土地薬を舐めてるぞ。」
「出身地の土地薬でない時は治癒効果はなくとも、逃げる様な悪影響も無いはずなんだけどな。 」
「本当に何も起きなかったよ。」
「まさか本当に試したのか。」
「何度目かに怪我した時にはもう俺の地方の薬が切れていて、投げやりになって残っていた物のうちの一つを飲んでみたんだが、本当に何も起こらなかった。」
「拾ったのは土地薬セットだったのか」
「運良くな。」
「あんなのは治療の専門じゃないと意味ないらしいな。獲物の誘導も不確実、どうしようか。」
薬屋の店頭で立ち止まった。
「逃げて行きやすい動物とかはあったよ。」
「ならやっぱり買うか。」
店の中の空気は埃っぽかった。薬瓶が壁を埋め尽くす棚に所狭しと並んでいる。中央にも棚がひとつあり、通路は狭い。店頭で立ち止まると、奥の方に神経を逆撫でする二つの光点が見えた。