糠に釘
人生で初めて緊張というものを味わっている。
並ぶように言われた各列の前に試験官が立っている。元々セルムは大柄で、自身でもそう思っていた。しかし、これまで騎士団本部内の色んな場所で見かける位の高そうな人は皆セルムよりも背が高く、同等の筋肉量がある様に見えた。そんな彼らが試験官なのだ。彼らが発する圧は凄まじく、言われるまでも無く受験者は黙っていた。試験官には鎧をつけている者とそうでない人がいた。各列の正面にいる試験官は鎧をつけ、その後方に控えている試験官は何やら煌びやかな服装をしていた。
しばらくすると、それぞれ列の先頭が騒がしくなった。するとすぐに金属同士がぶつかり合う音が広場に鳴り始めた。
試験が始まった。
列の先頭になった人は次々と目の前の騎士に立ち向かって行き、受かったものは奥へ、落ちた者は建物外へと歩いていった。先頭の試験が終わり、今のところは騎士に勝った人はいない様だが、その中で善戦した者が選ばれて奥に連れられているようだ。
「やり直しだ!卑怯な手は認めんぞ!」
左隣の列の先頭にいたあのうるさい貴族が何か騒いでいる。まず、列に並ぶ時点で先頭争いをしていたが、今また試験絡みで争っている様だ。
「何も落ちたとは言っていませんから。」
「そんな事はどうでも良い。私は勝って受かるのだ。」
奥から位の高そうな騎士が出てきた。
「オーム様の合格は揺るぎありませんからどうか付いて来て下さいませんか。」
「そこまで言うのなら良かろう。」
「そこまで!そこまで!」
ふと声がした方を向くと鎧を着た男が転がり、レイピアを首元に当てられていた。
タンだった。
転がされた騎士は何が起きたのかあまりよくわかっていない様子で、連勝していた時の自信は失っていた。
「おい、お前。番だぞ。先手は慣例に沿って譲る。」
いつの間にか前の人の試験が終わっていたようで、試験官に呼ばれた。
「いや、その必要は有りません。」
そう言ってセルムは鯨包丁を構えた。
「そうか。その侮りを後悔させてやる。」
試験官は打ってきた。
試験官の騎士の剣に鯨包丁を当てると、面白いように相手の剣は跳ね返った。
「なっ!!!」
その勢いのまま騎士の懐まで押し切って、鎧に包丁を当てて見せた。
「降参だ。」
「奥の部屋に行けば良いんだな?」
「そうだ。さっさと行け。」