案ずるより産むが易し
王都の仮設の試験会場に着くと試験官らしき騎士の前で自前の武器を振っている人がいた。タンと一緒に近づくと赤い手袋の騎士は男に何かを言い、その場から離れさせた。
「次の人は来て下さい。」
他にも騎士はたくさんいるが、試験を行っているのは彼だけだった。他の騎士の多くは木陰で遊んでいた。
タンがこちらを見た。
「先行くか?」
「いや、わからないし。」
「じゃあ遠慮なく。」
そう言うとタンはレイピアを構えた。
すると架空の剣をパリィしながら突きを繰り出し始めた。
その動きは優雅で、劣等感さえ感じた。
しばらく突きが続いた後、柄を振り回し始めた。
懐に入られた時の動きだろうか。器用に長い刃を邪魔にならないように扱っている。
先程には無かったような鋭さと緊張感が伝わってきた。
レイピアは重いから大きな動きはできないと言っていたが、
タンのレイピアは古の魔法を使っているのかのごとく素早く動いていた。
「合格です。騎士団本部に向かって下さい。そこで二次試験を行います。」
言われずとも次は自分の番である。何を披露するべきなのだろうか。実のところ、剣術などの類を習った事はない。よって今タンが実演したような優雅な動きは無い。とりあえず鯨包丁を構えるが、そのまま固まってしまった。
「なんでも良いですよ。決まった技でなくても本当に適当に振ってくれれば大体判定できます。」
「そうか…」
そう言われてしまったので本当にただ熊の頭を割るように4,5回振った。
「合格です。先程彼に説明した通りです。]
試験はとても呆気なく終わってしまった。
「他にも騎士がいるみたいだが試験官は一人なのか?」
そう聞いてみるとその騎士はぐっと距離を縮めて、背を他の騎士に向けて小声で話した。
「ここだけの話ですが、彼らのようにはならないで下さい。私は平民の出でしかも入団して日が浅いので仕事を押し付けられます。」
「ああ、色々あるんだな。」
「地位が無いなら敢えて騎士団に入る必要はありません。」
「忠告ありがとう。でもその辺の事よりも安定を優先したいから…」
「そうですか、頑張って下さい。」