目覚め
私「ふわぁ〜っ、よく寝たー、お昼寝サイコー!」
ガバッ!
布団を勢い良く跳ね飛ばし
ガラガラガラッ
外に出た私が見たものは
私「…なんじゃこりゃー!?」
オンボロの白山比咩神社だった。
私「えぇーっ!?
なんでー!?
なんでぇーっ!?」
白山比咩神社は、狭い敷地内に、
こじんまりとした本殿と拝殿と、手水舎の代わりの水道と、狛犬と鳥居があるだけの、
地元の人達が利用する小さな神社。
私が眠る前は、そんないつもの、普通の白山比咩神社だったのに、
今や、本殿も拝殿もあちこちの柱や壁が傷んで、傾きかけていて、
手水舎代わりの水道は、長年使われた形跡がなく土埃を被っていて、
鳥居も朱色がくすんで、苔だらけ。
???「どんだけ寝たと思ってんだよ!」
私「ポチ!」
背後から放たれた懐かしい罵声に、私はすぐさま振り返った。
そこには、苔だらけで顔つきがよく分からなくなっている、狛犬のポチがいた。
私「え?どんだけって、…ただのお昼寝だよね?
…といっても寝坊して、数日くらい寝てたのかな?あはは。冷や汗」
ポチ「60年!」
私「ほへ!?」
ポチ「あんた60年眠ってたんだよ!」
私「ええっ!?
嘘でしょー!」
ポチ「こっちが嘘でしょー!だよ!
俺も珠江も神殿には入れねーから、
起こそうと、神殿の外から必死に喚き続けたけど、全っ然起きなかったんだよ、テメーはよ!」
私「えぇっー、もぉー、それは本当にゴメン!
てか、たま、珠江は?」
ポチの対となる狛犬(獅子)、たまの方に振り向いた。
珠江「。。。」
たまは、うんともすんとも言わない。
ポチ「珠江は、力尽きたよ。」
私「…!?」
ポチの言葉に、全身から血の気が引いた。
ポチ「分かるだろ?
主が不在で、ご利益の無い神社の末路なんて。
アンタが眠りについてから、ここはどんどん参拝客がいなくなり、廃れていった。
俺達は、『人間の、神社を崇める心』で生きている。
俺だって、もう、エネルギーカスカスで、ギリ生きてる状態だ。」
確かに、今日のポチの罵声には、覇気がないと思ってた。
私「そんな…、ポチ…!
たま…、ゴメン…ゴメンね…!」
二匹の狛犬の名前は、ポチと珠江。
命名は私。
ポチは、口は悪いけどしっかり者のお兄ちゃん。
珠江(通称、たま)は、大人しくて優しい妹。
仲の良い兄妹だった。
私「…必ず私が、ここを再興させてみせる!」
ポチ「再興したって、珠江はもう、戻って来ない。」
私「でも、たまはきっと望んでる!
ここがまた、地元の人達に愛される神社になることを!」
ポチ「…!」
私「そうでしょう!?
ポチ!」
ポチ「…そりゃ、アイツはそうに違いないだろうよ。
だって、生まれ育った此処が大好きだったんだ。
この、小さいけど、人間の愛で溢れてる白山比咩神社が…。」
私「うん…!
ゴメンね、ポチ。
たまのために、今、私が出来ることは、この神社の再興。
そして、再興を成し遂げるには、貴方が必要なの!
本当に辛いだろうけど、お願いだから、私と一緒にこの神社を再興して欲しい!」
ポチ「…俺は、この神社の為に据えられた狛犬。
好きだろうと嫌だろうと何だろうと、生きてる間は何処にも行けやしないんだ。
此処の主の神様がする事に、従うまでさ。」
私「有り難う、ポチ!
私頑張る!
絶対、此処を再興してみせる!
なんてったって私は、
五穀豊穣、安産、家内安全、厄除け、交通安全、学業成就、を司る、
何でもござれの、此の神社に奉られている神、
白山比咩神こと、
菊理姫なんだから!」