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10_01_勝利者の条件

 サテライト・ベースでブラックボックスと通信中継衛星を確保した俺たちは、探索を打ち切って、自分たちの町へと戻ってきた。


 郊外の少し離れたところにヴェストファールを降下させ、ゴルゴーンに乗り換えてから町に入ったところ、居住区の辺りに何やら人だかりができている。

 何をしているのかと思ったら、ケヴィンさんたちローテアド王国の軍人さん方が、長い棒を使って、西大陸の民の男衆に剣や槍の稽古をつけている真っ最中だった。


「ん? なんだ、帰ってきたのか」


 手拭いで汗をふきながら、ふてぶてしい態度で俺たちを出迎えるケヴィンさん。

 対照に、アンリエッタや西大陸の民たちは一斉に膝を地につけて、帰着した亡国の王女(ファフリーヤ)に対して頭を垂れた。


「ただいま戻りました。サディード、こちらで何を?」

「はっ、異国の戦士の修練に加えていただき、彼らの戦技を学んでおりました」


 王女からの問いかけに、サディードと呼ばれた筋骨隆々の大男が畏まって答えた。

 西大陸の言語で話しているけれど、ヘッドセットの翻訳機能のおかげで内容は俺にも伝わってくる。

 でも、どうしてケヴィンさんは、任務中に他国の人間と訓練なんてしていたのか。


「別に深い意味はねえよ。監視の鉄の兵隊(アミュレット)だって許可してくれたんだぜ」

『アミュレットっていうか、アタシが許可したんだけどね』


 横に浮かんだドローンからシルヴィの声。

 彼女は他の任務と平行しながらも、町を警備するアミュレットやドローンたちを常に統括しているのである。


「ああ、そういうことになんのか。いやな、諜報活動中とはいえ、身体をなまらす訳にもいかねえからと、最初は俺たちだけで銃剣術の訓練をしてたんだがよ」


 自分たちの兵舎の前で素振りや模擬戦などを行っていたところ、その様子を見ていた西大陸の民たちが、仕事の合間に自分たちも訓練に加えてほしいと頼んできたそうである。

 言葉はアンリエッタが通訳したそうだ。


「あの筋肉モリモリのおっさん、もとは王家に仕える高名な戦士だったらしいな。言葉はわかんねえが、立ち居振る舞いが馬鹿丁寧だし、何より強えのなんのって」


 ガッチリとした体格通りのパワフルさに加え、対人戦闘の技術も相当に高かったと、ケヴィンさんは感服したように語った。


「一対一の近接戦闘じゃ、まず俺らには勝ち目がねえな。曲剣を主体に戦うスタイルらしいんだが、一撃一撃が重いだけじゃなく、そいつを流れるように連撃してくる。木剣じゃなかったら……というか、手加減してもらってなかったら、ロランの首から上は遠くまでちぎれ飛んでただろうよ」


 模擬戦で敗れた部下の名前を上げる声には、怨嗟(えんさ)の念など微塵も含まれない。

 歴戦の部隊長をもって感嘆を禁じ得ないほどの卓越した技能を、あのサディードさんは有していたということだろう。


「なんつうか、一兵士としちゃあ割り切れなさに()えねえな。あんなに屈強な戦士が、奴隷として捕まっちまうなんてよ」

「今更な感想だけど、鉄砲ってかなりの反則技術なんだな」


 火薬を持たない西大陸の国々は、大量の銃器を携えてきた異国の軍隊に為す術もなく屈服させられ、植民地支配を受けたり、国民を奴隷として連れて行かれることとなった。

 日々営々と発展していく人の世において、その最先端にいられない者は、時代の流れに取り残されてしまう。

 たとえどんなに優れた戦士であろうとも、常に最新の武器を手に取って、最新の戦略戦術を研究しつづけない限り、勝者であり続けることはできないのだ。


「ああ、俺も気持ちが痛いほどわかるぜ。ゴルゴーンとかいう反則兵器を持ちだされた身としてはな」


 そしてやっぱり、俺たちへの当て付けを忘れないのがこの人だ。



「そんで? お出かけの成果は何かあったのか、司令官殿」


 あーあ、やっぱり聞いちゃった。


「うん、探りを入れてきちゃうとは思ったよ」

「あん?」


 怪訝な顔になるケヴィンさん。

 どういう意味だと言わんばかりに、俺に詰め寄る素振りを見せる。

 しかし、その前にネオンの口が動いていた。


「はい、とても重大な発見がありました。ローテアド王国が抱える諸問題の解決に、大いに役立つことでしょう」


 もったいぶった言い回しだけど、発見ってのは要するに通信中継衛星のことである。

 ここぞとばかりに衛星の機能を売り込んで、話の流れをローテアドに入国する方向に持っていこうとしているのだ。

 でも、売り込みがあまりに露骨で、逆に怪しさ満点になってるけど。


「……なあ、やっぱり聞かなかったことにしていいか。嫌な予感がするんだが」

「別に、悪い知らせじゃないって」


 案の定、ケヴィンさんもすぐ勘づいた。

 実際、彼には旨味がこれっぽっちもない気がするなあ。

 でも、任務の都合とはいえ、聞いてきたのはそっちなんだから、諦めて、ネオンたちの圧力の餌食になってもらおう。


 ・

 ・

 ・


「通信機の能力を補強する兵器、ねえ」


 思っていた通りというか、ケヴィンさんの反応はあまり(かんば)しくなかった。


「別に、そんなもんがなくても困らねえっちゃあ、困らねえしな」


 彼の言い分は、こうである。


「もともと、おたくらから通信機なんざ貰う予定じゃなかったんだ。モーパッサン提督にしたって、俺ら諜報部隊からの情報は何日も後になるのを覚悟のうえで、本国のお偉いさんを説得する気でいたことだろう。そりゃあ、情報がすぐに伝達できるに越したことはねえだろうが、届かないなら届かないなりに交渉できるぜ、あの老獪(ろうかい)な狸爺は」

「だよねえ」


 うっかり同意してしまった俺は、シルヴィの駆るドローンによって、後頭部をコツンとこづかれた。


「あてて」

『アンタねえ、賛意を示してどうするのよ』


 頭を押さえる俺と、そのまわりを威嚇する蜂のように旋回するシルヴィのドローン。

 このマヌケなやりとりを見て、ケヴィンさんもネオンやシルヴィの意図するところに気づいたらしい。


「なんだお前ら、もしや、今のをネタにローテアドに入り込もうとしてたのか?」

「入国するのはもう確定事項っぽい。あとは穏便に済むか、強行するのかの違いだけだと思う」


 彼の置かれている状況を教えてあげつつ、ちらりとネオンの様子を確認。

 ネオンは涼しい表情で、こんな言葉をさらりと告げた。


「賢明なローテアド海軍上層部なら、適切な判断を選択されることでしょう」

「いちいち圧をかけんじゃねえよ」


 こちとら現場の下っ端だぞ、と、ケヴィンさんは呆れたように目を細める。


「……まあ、でもよ。おたくらの入国に関してだったら、提督がどうにかしてくれそうなことを言ってはいたぜ」


 ん?

 どういうことだろうか。

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