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8_08_制圧戦③/開戦、砲撃の応酬

 海岸線上に配備した、10両ものゴルゴーン。

 連装砲塔(キャノン)コンテナを装備した戦車部隊は、開戦の号令を今か今かと待ちわびながら、砲身を海に向かって構えている。


 そして、その臨戦態勢の戦車部隊とはまた別に、1両のゴルゴーンが海岸線を南下していた。

 機体後部に装着しているのは、コンテナではなく、まっ平らなトレーラー・ユニット。

 そのトレーラーに、俺たちは偵察部隊の皆さんと一緒に乗っかって、戦闘予定地域から少しだけ距離を取っている。

 もちろん逃げているのではなく、戦場から人質を遠ざけて、ローテアド海軍が気負いなくゴルゴーン部隊を攻撃できるようにだ。


「この辺りであれば、我々に被害は及ばないでしょう」


 布陣場所から1キロほど離れた位置で停止するゴルゴーン。

 遮蔽物が何もないので、戦場の様子がよくわかる。

 ただしこれは、ローテアドの艦隊からも俺たちの移動が見えていたということでもある。


「布陣したゴルゴーンを無視して、こっちを追いかけてきたりしないかな?」

「それはねえよ。現場の部隊(おれたち)が必要としたのが、救助じゃなくて砲撃支援である以上はな。艦隊を指揮しているモーパッサン提督なら、仮に俺らがあそこに留まろうとも大砲を撃ち込んで、その上で捕虜救出に乗り込んでくるはずだ」


 ケヴィンさんの推測を裏付けるかのように、艦隊は進路を変えずに航行しながら、陣形を縦一列に組み替え始めた。

 旗艦である大型軍艦インゲボルグを先頭に、護衛艦4隻を連なるように配置して、なおもそのまま進攻してくる。


「あれって確か、単縦陣(たんじゅうじん)戦法ってやつだろ」

『進路が少し逸れてるわね。あれだとアタシたちの布陣より、やや北側に向かっちゃうわ』


 目測や操縦を誤っている、ということではないだろう。

 もう敵艦からも海岸のゴルゴーン部隊は目視できているはずだし、何より向こうは海戦のプロだ。


『たぶん、一定の距離になったら面舵旋回、左舷艦体が崖に向くよう弧を描きながら接近して、舷側砲(げんそくほう)を乱れ撃ってくるんでしょうね』


 空撮ドローンが大型艦の側面部分を映し出す。

 巨大な艦体の横っ(つら)には、凄まじい数の大砲の筒がにょきにょきと生えていた。

 発射準備も万端に整っているようだ。


「70門艦です。シルヴィの言うとおり、後続の護衛艦とともに海岸を一斉砲撃するつもりのようです」


 風と海流を完璧に読みきり、卓越した操帆操舵(そうはんそうだ)によって実行される、すれ違い様の砲撃離脱。


『原始的な大砲ね。でも、数だけは揃っているなら、デモンストレーションにちょうどいいわ』


 10台のゴルゴーンは、一斉に連装砲塔(キャノン)コンテナの砲身を動かした。

 四角い砲身が、それぞれ自在に可動して、敵の砲撃を待ち構える(・・・・・・・・・・)


『全砲門にAGNI(アグニ)弾頭徹甲榴弾【AAPHEエー・エー・ピー・エイチ・イー】を装填。敵艦隊の航行パターンをシミュレート完了。旋回後攻撃にあわせて、迎撃射撃を実施するわ』


 聞きなれない用語群に、ケヴィンさんが首をひねっていた。


「おい、今のは何を言ってたんだ?」

「たぶん、艦隊からの砲撃に対して特殊な砲弾を撃ち返す、ってことじゃないかな」

「また『たぶん』なのかよ」


 じとりと俺を睨んでくるケヴィンさん。

 そんな怖い顔をされたって、わからないものはわからない。

 というわけで、ネオン先生、お願いします。


爆轟性(ばくごうせい)の砲弾を連装砲塔(キャノン)コンテナの砲身から撃ち出します。使用弾頭はIDADアイ・ディー・エー・ディーの中身と同じものです」


 IDADってのは、サテライト・ベースの壁に穴を開けた強力な爆破兵器の名前だったはず。

 AGNI(アグニ)とかいう熱エネルギーを生む、小型の反応炉心(リアクター・コア)が入っている……とかって説明を、受けたような受けなかったような。


 ……などと考えていた、そのときだった。


『敵艦隊が旋回開始! 砲撃、来るわよ!』


 シルヴィの猛々しい声が場に響く。

 瞬間、激しい轟音とともに、艦隊の舷側砲(げんそくほう)が火を吹いた。

 それも、1発や2発じゃない。

 鳴り止まない砲撃音とともに、何十発もの鉛の砲弾が雨あられとなって、海岸線へと飛来する。


『迎撃!』


 その雨あられの砲弾が、海の上で爆発(・・)した。

 凄まじい炸裂音、そして熱を帯びた風が、距離をとった俺たちのところまで届いてくる。


「す、凄いな、まるで火山の噴火だ」


 俺のつぶやきも、いまだ続いている爆音によってかき消される。

 無論、鉛の弾に爆発する性質などはない。

 あの爆発は、シルヴィが敵の砲弾を本当に(・・・)迎撃しているために起こっている。

 敵が発砲した直後、ゴルゴーンも連装砲塔(キャノン)コンテナから砲弾を連続射出。

 飛来する数多(あまた)の鉛の弾に一瞬で狙いを定め、あろうことか、その全弾を撃ち落としてしまったのだ。


『敵砲弾にAGNI弾頭徹甲榴弾(AAPHE)全弾命中。我が軍への被害なし。海岸線への影響も軽微よ』

「馬鹿な……砲弾を砲弾で狙い撃った、だと……」


 愕然としているケヴィンさん。

 他の偵察部隊の面々も、あまりの非常識な光景を前に、声を出せずに立ち尽くしていた。


「当然の結果です。炸薬式(さくやくしき)ですらない、運動エネルギーのみに頼った原始的な金属弾など、射線と未来位置を予測してくださいと言っているようなもの。撃ち落とせない道理がございません」

『敵の再装填も遅いしね。これじゃ、肩慣らしにもならないわ』


 攻撃が全く通じなかったローテアドの艦隊は、戦列を組んだまま、一旦海岸から離れていく。


「お聞きします、ランソン隊長。艦隊を指揮する提督は、一度の攻撃失敗で撤退するような人物ですか?」

「……いや、モーパッサン提督は、やられっぱなしで黙っていられる(たち)じゃねえ。無謀な戦術を取ったりはしねえが、艦に被害が出てねえ以上、もう一度攻撃を仕掛けるはずだ」

「そうですか。それは安心しました」


 ケヴィンさんの言葉の通り、艦隊は再び艦首をこちらに向けて、同じ進路、同じ角度で海岸線へと進攻してきた。

 全砲門に鉛の弾を篭めなおし終えたのだろう。

 しかし、今度は若干スピードが鈍っている。


()えて航行速度を落としてきたわね。艦に被弾するリスクを承知で、ゴルゴーン1台ずつに集中砲火、着実に戦力を削るつもりよ』


 シルヴィの予測に、偵察部隊員たちがざわめいた。


「隊長、この戦術は……」

「敵が迎撃だけで手一杯だと見たか、あるいは、数発ならば艦も耐えられると踏んだか……いずれにせよ、こいつは賭けだぞ」


 確かに甲板上の兵士たちの表情からも、鬼気迫る雰囲気が見て取れる。

 だが。


「リターンのないハイリスクなだけのギャンブルです。今はAGNI弾頭徹甲榴弾(AAPHE)を着弾と同時に起爆していますが、爆発のタイミングは遅延させることも可能です」


 無情なネオンの説明に、ケヴィンさんの眼の色が変わった。


「遅延だと……おい、まさか――」

「砲弾を敵艦内部に貫徹(かんてつ)させ、そこで爆破もできるということです」

「うわあ、えげつな……」


 思わず俺の心の声が漏れた。

 ケヴィンさんたちなんて、顔面を蒼白にしてハラハラしている。


 数分の後、艦隊が再び旋回を始め、海岸線への一斉砲撃を再開した。

 シルヴィの予想通り、ゴルゴーン1台ずつに火力を集中させる戦術をとっている。

 しかし、海から注いだ砲弾の雨は、またしても陸に届く前に狙い打たれ、爆散しながら波に飲まれて沈んでいく。


「頼むから、艦には当ててくれるなよ……」


 ほとんど(すが)るような声を出しているケヴィンさん。

 祈るようなその顔に、熱い爆風の余波が容赦なく当たっていく。

 俺も、額に浮かんだ汗を腕で(ぬぐ)った。

 熱気が肌をピリピリと焦がして、おまけに、轟音が堅い地盤をも揺るがして、離れているのに戦火の只中にいるような気分だ。


「……ほんと、ファフリーヤを連れてこなくてよかったな」


 歴戦の偵察部隊の皆さんでさえ腰が引けてしまうような爆音が、鳴り止むことなく続いている。

 あんな破壊力の砲弾を内側から炸裂させるだなんて、当たりどころが悪かったら、大型艦でも1発で轟沈してしまうだろう。


「いえ、貫徹させた場合には、あの程度の爆発では済ませません。今は海岸線に被害を与えないよう、AGNI(アグニ)炉心の反応制御で威力を調整していますから」


 これには隊長のケヴィンさんでさえ、開いた口が塞がらなくなってしまった。


「てことは何だ? 本来の爆発の規模はもっとデカいってのか?」

『あら、知りたいの? じゃあ、もう少し出力を上げるわね』


 飛来する全弾を撃ち落としたシルヴィは、今度はこちらの番だとばかり、崖から離れていく艦隊に追い討ちを開始した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「連隊」は車両の場合60〜90両の集団(厳密には3~6個中隊(もしくは大隊)を表す言葉ですが作者様が誤解されているのか「10両の戦車連隊」という様な数の食い違いが発生しています。 […
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