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8_06_制圧戦①/戦闘配備

『ゴルゴーン部隊、海岸線上に配備完了よ』


 ケヴィンさんとの内緒の無線通信から8日後。

 極秘の打ち合わせを重ねた俺たちは、ついに、ローテアド海軍との交戦のため、偵察部隊の全員とともに西海岸へとやってきた。


 この日は、ローテアドの艦隊が、西海岸の沖合20キロほどの距離までやってきている。

 もしも偵察部隊からの合図があった場合、彼らを回収したり、増援を派遣したり、あるいは、艦隊そのものが陸地に近づいて援護砲撃を行ったりする手筈(てはず)になっているのだ。

 その艦隊を迎え撃つため、俺たちは海岸線に沿って、10両ものゴルゴーン戦車をずらりと配置していた。


「ご苦労さまですシルヴィ。そのまま、定刻まで待機していてください」

「これはまた、圧巻の光景だな」


 等間隔に並んだゴルゴーンには、その全てに、この戦闘のために用意した【連装砲塔(キャノン)コンテナ】という戦術オプション・コンテナが装着されていた。

 横長の直方体形状のそのコンテナには、上部に4門、左右側面に各2門の、計8門の砲身が備わっている。

 俺の知ってる大砲と違って、1門1門がかなり細長い上に、筒も穴も真四角だけど、これらが砲身で間違いないそうだ。


「あれって、要するに砲車(車輪付きの大砲)なんだよな?」

「その認識で問題ございません。火薬ではなく、電磁気力を用いて砲弾を射出する大砲です」


 今の文明の大砲とは、仕組みが大きく違っているとのネオンの弁。

 砲弾ってのも、当然ただの鉛弾(なまりだま)とは違うんだろう。

 なにせ、砲身が角張っているんだし。


「なんていうか、今回の装備は威圧感がとんでもないな」

「これまで搭載してきたコンテナは運搬用や工事用でしたが、こちらは完全に戦闘用ですから」


 8連装の砲身を海に向け、敵の艦隊を泰然(たいぜん)と待ち構えるゴルゴーン10両編成部隊。

 尋常ならざる威容(いよう)に、同行しているケヴィンさんたち偵察部隊の面々も、一様に言葉を失っていた。


『砲塔各部の動作正常。風向、海流、ともに事前のシミュレーション通り。いつでもやれるわ』


 すでに血気盛んなシルヴィ。

 この重武装は、『艦隊相手の示威(じい)活動だし、派手にやってもいいわよね』という彼女の提案に、ネオンが賛意を示したことで実現している。



「確かに今回は、目に見える脅威を与えたほうがよいでしょう。司令官、この作戦のため、シルヴィに連装砲塔(キャノン)コンテナの使用を許可してあげてください」



 こんな会話の流れがあって、俺は彼女らの指示のもと、例によって青い球体に触れて承認手続きを行ったわけである。

 だが。


『今日の戦闘は、ファフリーヤには見せられないわね。腰を抜かすどころじゃ済まないもの』

「後でドローンの空撮映像を、彼女向けに低刺激に編集しておきましょう。遠隔でオペレーターをさせるにせよ、戦場への慣れは必要ですから」


 始まる前から怖ろしいことを言っているAI娘たち。

 何も考えずに承認しちゃったけど、もしかしたら俺は、うっかり地獄への扉を開けてしまったんじゃないだろうか……


 ・

 ・

 ・


「隊長、あと10分で定刻です」

「オーケイ、ロラン。予定通り、時間になったら合図を送れ」

「了解しました」


 てきぱきと準備を整える偵察部隊のみなさん。

 幾度かの秘密裏の打ち合わせを通して、念入りに段取りを調整しきった俺たちは、2日ほど前にケヴィンさんを通して、彼らに今日のことを伝えてもらっていた。

 やっぱり、反対意見もそれなりに出たそうだけど、そこはケヴィンさんが隊長の貫禄で、うまく言い含めてくれたらしい。


「悪いね、色々と仕事させちゃって」

「お前らのためじゃねえ。海軍が勝てば俺らは解放、負けても艦隊は沈まねえ。こいつらには、そう説明してあるからな」

「艦隊は沈みませんが、帝国との戦争は断念していただくことになります」

「当然それも伝えているさ。おたくらが、上層部の意見を変えさせちまうくらいの何かをやらかすつもりだってな」


 何をするかまではわからない。

 しかし、どうせ止められないのなら、その結果を全員で見届けたいという統一見解に至ったそうである。


「しっかしなあ。捕まってる俺が聞くのも変なんだが、手枷(てかせ)くらい()めとかなくていいのか?」

「不要でしょう。逃げ場もなく、抵抗する手段もないあなた方には」

「あんたたちは今更逃げたりしないだろ。それにさ、俺、枷って嫌いなんだよ」


 枷と聞くと、否応なくあの日のことを思い出す。

 両の手足を封じられ、遺跡に真っ逆さまに突き落とされた時の恐怖は、トラウマなんてものじゃない。


「両手を背中に回して、縛られてる振りをしててくれれば、それでいいから」

「……まあ、全員に言っとくぜ」


 ケヴィンさんは、含みのある目で俺を見てから、仲間の元へと向かっていく。

 彼が離れたのを見計らい、俺はネオンに、気になっていたことを尋ねてみた。


「でもさ、ネオン。そもそもだけど、別に軍事同盟くらいは認めても良かったんじゃないか?」


 戦力には計上しないにせよ、他国と友好関係を築いておくのは悪いことではないはずだ。


「特にさ、ローテアド王国の領土内には、スリープ・モード中のセカンダリ・ベースがあるんだろ?」


 この大陸には、4基のセカンダリ・ベースが存在する。

 うちのひとつが、俺たちの拠点でもある第17セカンダリ・ベースだ。

 そして、残りの3基のひとつ、いまだ眠りについている友軍の基地のひとつが、ケヴィンさんたちの国、ローテアド王国にあるのだと、少し前にネオンは俺に明かしていた。


「その通りです。ローテアド王国が位置する半島には、海洋戦力を有する軍港型のセカンダリ・ベースが存在します」


 つまり、ローテアド王国は、俺たちがいずれは行かねばならない土地なのである。

 だったら、今のうちに彼らと同盟を結んでおいたほうが、後のトラブルを避けられそうなものだけど。


「いいえ、司令官。ローテアドとの将来的な関係性を(かんが)みるならば、ここで同盟を結ぶのは悪手です」


 ネオンは、今後の帝国との戦争にローテアド王国が参入することは、俺たちにとってデメリットでしかないと語った。

 ローテアド軍が俺たちのことをどう認識したとしても、ろくな結果にならないと言うのだ。


「我が軍について、国の規模だけを見て力量を推し測ったならば、ローテアド軍は帝国を攻め落とした後で我々の町に攻め入るでしょう。逆に、こちらの軍事力を正しく認識していた場合、ローテアド軍は帝国攻略戦の途中で裏切り、我々の留守をついて町を占拠、多くの人質を確保するでしょう」


 安易に同盟を結べば、彼らはどこかしらのタイミングで敵に回る。

 そう確信しているネオンは、彼らをあらかじめ軍事力で屈服させ、戦争に介入させない道を選んだのだ。


「そんなこと……ないとは言えないか」

「我が軍の戦闘能力は、この文明のどの国家から見ても異質なのです。一時的な協力は見込めても、最終的には敵と見做(みな)され、戦わざるを得なくなるでしょう。これは、相手が浅はかなのではなく、生存本能が正しく作用した結果と言って差し支えないことなのです」


 脅威は脅威となる前に、効率的に排除する。

 それが仲間であるならば、裏切って他国の軍と挟撃(きょうげき)するという戦法が、最も効果を発揮する。

 帝国という強大な敵を利用して、俺たちという更に強大な敵を仕留めることは、卑怯者の(そし)りを受けてでも成功させる価値がある。


「ランソン隊長も交渉中、我々のことを、いずれ倒さねばならない敵という認識を常に頭の片隅に置いていました」

『別に、裏切るのなら裏切らせておけばいいじゃない。ローテアドの軍勢ごとき、町に入られる前に掃滅(そうめつ)できるわ』


 楽観的に会話に混じってきたシルヴィに、ネオンは「危機感が足りません」と釘を刺す。


「毒入りとわかっている果実を口にする愚か者はいません。たとえ1滴だけの弱毒だとしても、蓄積すれば死に至ります」

『はいはい、わかったわかった。リスク管理はネオンにおまかせするわ』


 シルヴィは、そんなネオンを軽やかにいなしながら、(たか)ぶる激情を(うた)いあげた。


『アタシの役目は、ただひとつ。眼前の敵を叩き潰すことだけよ』

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