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7_05_任務変更、接敵機動

「お父様、荒野の先に誰かいますよ?」


 一番初めに気がついたのは、カメラ画像を操作していたファフリーヤだった。

 いや、レーダー波を放っていた以上、ネオンとシルヴィも同時に気づいてはいたのだろうけど、声にしたのはファフリーヤだ。


 画面の向こう、遥か遠方の荒野を、12人もの人間が歩いている。

 注目すべきは、その全員が、銃器で武装していたこと。

 歩き方も、隊列の組み方も、目線の動かし方に至るまで、明らかに訓練を受けた人間のそれだった。


(あれ? あの軍服は……いや、でも……)


 違和感を覚えたものの、しかし、それが正しく抱いた違和感(・・・・・・・・・)なのか確信を持てなかった俺は、画面を見ながら首を傾げる。


「帝国の軍人ではありませんね。服も装備も異なります」

「ああ。でも、何者なんだ? こっちに向かってるようだけど、まさか、この輸送機に気づいてるのか?」

『さすがに相手からは見えてないはずよ。カメラ・アイの光学ズーム範囲すら超えた距離だから」

「もしや、わたくしたちの町を目指しているのでは?」


 ファフリーヤの不安そうに震えた声が、会話に一瞬の空白をつくった。


「……ネオン、どう思う?」

「町の存在を知られている、ということはないでしょう。ですが、彼らがこのままの進路で歩き続ければ、発見される可能性は高いと言わざるを得ません」


 ネオンの説明に、ファフリーヤは両腕で胸を掻き抱くような仕草で、怯えたように肩を震わせた。

 奴隷として(さら)われてきた彼女にとって、武装集団の襲来は大きなトラウマであるに違いない。

 そして、ファフリーヤでさえこの怯えようなら、町の人たちは……

 決断は、自分でも驚くほどに早かった。


「こいつらを排除しよう」


 全員の視線が、俺に集まった。

 ネオンはいつもの無表情で、ファフリーヤはびっくりした表情で、俺の顔を見つめている。

 人型のボディを持たないシルヴィでさえ、意外そうにこちらを窺っている気配があった。


「彼らが何者であれ、町に近づけさせるわけにはいかない。収拾のつかない事態が起こる前に、全員を捕縛……ないし殺害する」


 冷徹な決断を、しかし、止める者はいなかった。


「賛同いたします、司令官」


 ネオンは静かに、しかし、はっきりと、俺の命令に従うという意志を示した。

 そして、シルヴィも。


『ネオンより先に指示を出すなんて、少しは司令官らしくなったじゃない』


 この評価に、俺は苦笑を漏らすしかなかった。


「こうみえて、軍人志望だったんだよ」

『じゃあ軍人さん、ここからは作戦行動の時間よ』


 コックピット内のモニター表示が切り替わる。

 同時に、場の空気も変わった。

 さっきまで和やかだった雰囲気が、戦闘中のそれに移行したのだ。


「司令官、ゴルゴーンの発進許可を。正体不明の武装勢力を、無傷で捕縛します」


 許可を出すと、シルヴィが空中輸送中のゴルゴーン戦車を降下させる準備に入った。


「でも、無傷でなんて出来るのか? あいつらは、たぶん、特殊な訓練を積んだ兵士だ」


 前に捕らえたイザベラの私兵とは、練度が違う。

 ただ移動しているその所作だけで、実戦経験が豊富であろうことがひしひしと伝わってくる。

 もし、ひとりでも逃げられたら、捕虜奪還のために大人数を率いてくる可能性だってある。

 しかし、ネオンは、


「もちろんです。最高の成果をご覧にいれましょう」


 自信たっぷりに、作戦の成功を保証した。


「ファフリーヤ、標的までの距離は残りどのくらいですか?」

「は、はいっ。えっと、残り30キロメートルを切りました。標的は依然、隊列を組んで徒歩にて行軍しています」

「ではシルヴィ、ゴルゴーンの切り離しを」

『了解よ。減速して高度を下げるわ』


 ヴェストファール輸送機は機体を傾けることなく、水平を維持したままで地面との距離を狭めていく。


「もしかして、飛行したまま地面に下ろすのか?」

『そうよ、効率がいいでしょ』


 あっけらかんと肯定するシルヴィ。


「ゴルゴーンは空挺(くうてい)戦車としても運用可能ですが、今回は空中投下用の装備をつけていませんので」


 ネオンはネオンで、俺の聞いた意味とは別方向の回答をしている気がする。


 そんなことを話している間に、ヴェストファールは下降しながら、ゴルゴーンを吊っているワイヤー・ウインチを伸ばしていき、また、ゴルゴーンはキャタピラーを高速回転させ、走行態勢に入った。

 そうして、キャタピラーと地面の隙間が、10センチにも満たなくなったところで、


切り離し(パージ)!」


 ガゴンと轟音を立てて、ゴルゴーンが地面に着地した。

 同時に、ワイヤーが車体から外れる。

 戦車はそのままキャタピラーで荒野を()いて、飛行の慣性を損なうことなく、ぐいぐいと加速していった。


「あと13分で接敵する見込みです。ヴェストファールは戦場を迂回(うかい)し、離れた位置からモニターします」


 土埃(つちぼこり)を巻き上げ走っていくゴルゴーンを見送りながら、俺たちを乗せたヴェストファールは、右旋回で進路を変える。


『ファフリーヤ。あなたにカメラ・アイの操作を任せるわ。いくつ使ってもいいから、戦況がわかるように設定して』

「りょ、了解です。ええっと、カメラAはゴルゴーンを、カメラBは武装集団をそれぞれ自動追跡。カメラCを両者の接触予定地点に固定して、カメラDはCよりもズーム倍率を引き下げ、周辺の動体検知に用います」


 ……こんな使い方、誰か教えてたっけ?

 俺の疑問を余所に、コックピットにはファフリーヤの設定通りに4つのカメラ映像が浮かび上がった。

 うちひとつに、武装集団の様子も映っている。


「なあ、ネオン。この映像は、もう光学ズームの範囲内なんだよな?」


 そのとおりです、と肯定するネオン。

 つまり、この画面に映っている色合いは、さっきまでの予測合成画像とは違って、実際のものと同じということ。


(だとしたら、やっぱり、あの軍服は……)


 さっきまで持てなかった確証が、これでようやく得られた。


(でも、まだだ。今は、あいつらを全員捕縛することに全力を傾けるべき時。ネオンたちに話すのは、その後のほうがいい)


 俺の知りうる情報は、この戦闘になんらの影響を及ぼさない。

 ネオンは彼らを無傷で捕らえると宣言した。

 ならば、それを信じるのが今の俺の仕事だ。


「武装集団が停止しました、ゴルゴーンの巻き上げた土煙(つちけむり)を視認したものと思われます」


 画面の中の彼らは前進を止め、担いでいた燧石(マスケット)銃を手に取りながら一斉に地面に伏せた。

 やはり、よく訓練された兵士の動きだ。

 そしてすぐ、彼らはばらばらに散開し、同時に、慣れた手つきで短剣を銃の先端に取りつけていく。


『優秀な部隊なのでしょうね。でも、銃剣なんて骨董品、ゴルゴーンには通用しないわよ!』


 猛るシルヴィは、これぞ戦術AIの本懐(ほんかい)とばかり、果敢にゴルゴーンを敵の布陣のど真ん中へと突入させた。

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