7_04_通信兵器回収任務
「すごいです、お父様! この船、お空を飛んでいます!」
輸送機ヴェストファールのコックピット内。
座席に座ったファフリーヤが、目をキラキラさせながら、流れていく外の景色を眺めていた。
『この子、何にでも順応しちゃうわね』
シルヴィの声色に、苦笑のような、なかば呆れたような響きが混じる。
ファフリーヤは、初めて乗った航空機に、微塵の恐怖も抱かなかった。
俺やイザベラなんて、落っこちないかとガタガタブルブルしてたのに、この差はいったいなんだというのか。
「気に入ったようで何よりです、ファフリーヤ。ところで、今回の任務の目的を復唱できますか?」
「はい、ネオン様。サテライト・ベース内の残存兵器を確認し、使えそうなもの、特に通信中継装置となりうる兵器を一部回収する。同時に、511年前を最後に海岸線が未調査であることから、ゴルゴーンを空輸して、一度周囲を綿密に再調査します」
そう。
俺たちは今、サテライト・ベースの墜落地点に空から向かっている。
本格的な大規模調査はまだできないけど、さっきのネオンとの会話で、通信装置くらいは事前に確保しておこうということになったのだ。
探索用のアミュレット兵やドローンを積み込み、また、ワイヤーでゴルゴーン戦車を吊り上げて、ヴェストファールは悠然と、荒野の空を飛翔している。
そして今回も、ネオンはファフリーヤを同行させると言ってきた。
ゴルゴーンに続き、ヴェストファールの計器類も触らせて、最終的には、本当にセカンダリ・ベースのオペレーター人員に育てるつもりであるらしい。
「よくできましたファフリーヤ。司令官、ファフリーヤの頭を撫でてあげてください」
俺の役目は、彼女へのご褒美係である。
お飾り司令官、ここに極まれりだ。
いい子いい子とやってあげると、ファフリーヤは嬉しそうに顔を蕩かせた。
「ところでネオン。サテライト・ベースの兵器って、こっちの基地でも動かせるのか?」
今回の任務内容に、サテライト・ベースのシステム復旧は含まれていない。
それをするには、まずは基地本体の修復と、それに、もう少しエネルギーの蓄えがないといけないそうだ。
しかし、そうなると問題は命令系統である。
システムを復旧させなければ、新たに司令官登録することができず、俺がサテライト・ベースの司令官を兼任することもできない。
所属が違う兵器(俺の文明で言えば兵士にあたるだろう)を回収したとして、別基地の司令官が直接命令してもよいものなのか。
というか、そもそも命令できるのか?
「どの基地の兵器に対しても、エネルギーの供給ラインを通すことは可能です」
『でも、起動させるにはIDを書き換えないといけないから、一度セカンダリ・ベースに持ち帰らないといけないけどね』
兵器の所属替えの手続きをすれば大丈夫、ってことなんだろうな、たぶん。
「あ、見てくださいお父様。鳥さんが、この機の下を飛んでいます」
座席から身を乗り出すファフリーヤ。
見ると、地面とヴェストファールのちょうど中間くらいの位置で、大きな羽を広げた隼が、弧を描くように、ゆっくりと旋回していた。
「餌でも探しているのでしょうか……あっ、降下しました!」
獲物を見つけたのだろう。
隼は、地面目指して勢い良く垂直に降りていき、地表で何かを掴みあげた。
空飛ぶ鳥を高くから見下ろす珍しい機会に、ファフリーヤは再び目を輝かせ、熱い視線を送っている。
対照に、あまり下を見たくない俺は、ちらりと流し見ただけで、再び座席に背をもたせかけた。
『どうせなら、もっと遠くを見てみる?』
好奇心全開のファフリーヤの眼前に、シルヴィが立体映像を立ち上げた。
横長の平面画像で、コックピットから見えているのと同じ景色が映っている。
画面の端には、何か操作するのに使うらしいボタンやら図形やらも表示されていた。
『ヴェストファールのカメラ・アイ。ものすっごく性能のいい望遠鏡よ。ズーム機能、つまり、遠くの景色を拡大して表示できるの』
教わりながら、投影された映像を指でいじくるファフリーヤ。
とは言っても、実体のない立体映像なので、本当に触っているわけではない。
モーション・センサーとやらで、画面を触ろうとする動作がそのまま操作に反映されているのだそうだ。
「わあ、大きくなりました。あんなに遠くの地面が、まるで目の前にあるみたいです」
画面上で、どんどん拡大されていく風景は、遥か彼方の大地の、肉眼では地平線にしか見えない場所の小さな石ころを、その表面についた砂の粒さえ判別できるほどにはっきりと映した。
『もっといけるわよ。光学ズームはここで限界だけど、レーダーと組み合わせることで……』
映像は、さっきの小石を通り越し、荒野の更にずっと先を映しだした。
その空には、今度は2羽の鷹がいる。
「あ、また鳥さんがいます。ふたりでケンカしてますね」
餌の奪い合いだろうか。
2羽の鷹は、空中で錐揉みするように、螺旋の動きで上昇下降を繰り返しながら、時折体をぶつけあっている。
その様子を、カメラ映像は鮮明に映し出した。
「すごいな。これって、望遠鏡の性能を超えて拡大してるんだろ?」
さっきのシルヴィの説明は、たぶんそういう意味だったはずだ。
なのに、画像はぼやけることもなく、舞い散る羽毛まで克明に描写している。
『一部はシミュレート、つまり、高精度の予想なんだけどね』
詳細な説明は、ネオンが引き継いだ。
「BF波レーダーを連続照射し、正確な形状をモデリングして、デジタルズームした映像に合成補完処理を施しています。色合いに関しては、その場で取得できた色情報を分析するほか、データベースと照合し、該当する生物や風景を割り出したうえ、季節や日の傾きなども考慮した上で配色しています」
『かなり正確だけど、あくまで予想した色を割り当ててるだけだから、軍事作戦の資料にするときには注意が必要よ』
望遠鏡ひとつとっても、安定の超高性能である。
そして、高性能の望遠鏡を操作していたファフリーヤが、真っ先にその一団を発見した。
「お父様、荒野の先に誰かいますよ?」




