6_03_エネルギーの生み出し方
イザベラが農作物の種を調達してくるまでの間、俺たちはラスカー山地の資源採掘プラントにやってきていた。
「また、ホントに一晩で作っちゃったんだな」
昨日も訪れた山間のその場所は、斜面が削られ、地肌が舗装され、いくつかの建屋が並んでいた。
離着陸場にヴェストファールを垂直着陸させて外に出ると、地面から足に微弱な振動が伝わってくる。
この地下ではアミュレットたちが、重機で岩盤を削っているのだろう。
「これらはあくまで簡易プラントです。今はまだ、埋蔵資源の採掘と、その保管程度の機能しか備わっていません」
振動が地上に響いてしまっているのも、設備が簡易的であるせいだとネオンは言う。
最終的には、厳重な防振防音対策を施すほか、ここに溶鉱炉や加工設備なども設置し、基地や町への輸送ルートも構築する計画なのだという。
「そんなに大々的にやっちゃったら、さすがに帝国にバレるんじゃないか?」
「プラントの大部分は地下に建造しています。資源の採掘が完了したエリアから工事を進めていますので、振動や騒音、発生する土砂などは最小限に抑えられています」
「でも、崩落したトンネルの代わりのルートを探しに、いつかは部隊がやってくるだろ?」
この山脈は帝国にとっても、隠し通路を作るくらいに重要な場所のはず。
特に、山脈を越えた先、ピラミッド遺跡の中の猛毒(本当はナノマシンだけど)は、近隣各国に対する秘密の切り札だ。
トンネルが崩落したとしても、必ず迂回路を通って遺跡にやってくるに違いない。
「その対処のために、多脚型戦車バル=カトレークスを配備したのです。ゴルゴーンと同様、カトレークスにも【ネルザリウス】が搭載されていますから」
「金鉱を制圧した、あの武器か」
指向性エネルギー兵器ネルザリウス。
BF波という不可視のエネルギーを標的に放射する遠距離射撃用の武器だ。
目に見えず、また、分厚い岩盤さえもすり抜けてしまうBF波攻撃は、回避も防御もまず不可能。
おまけに、出力を抑えれば非殺傷設定にもできる。
この武装があれば、事故に見せかけて調査隊を追い払うことくらい、なんてことはないだろう。
「帝国軍が遺跡を諦めることはないでしょう。しかし、派遣した調査部隊に事故が続けば、命令を見直さざるを得なくなります。部隊の派遣をある程度延期させられれば、こちらが攻めこむ準備は完了するでしょう」
「攻めこむ準備……たしか、基地のエネルギーを貯めないといけないんだよな」
今のセカンダリ・ベースは、エネルギー貯蔵量が万全ではない。
しかし、現状のエネルギー生産量だと、フルチャージには400日以上かかってしまうとネオンは言っていた。
だから、エネルギー生産拠点を整備しなければならないのだと。
「今朝も申しあげましたとおり、町の郊外にてエネルギー・プラントの建造に着手しました。DGTIAエネルギーを生産し、セカンダリ・ベースへと転送するほか、自律稼働兵器への遠距離供給スポットとする予定です」
ゴルゴーンなどの自律兵器は、稼働のためのDGTIAエネルギーを、今は基地から遠距離非接触供給で受け取っている。
仮に、エネルギー・プラントにもセカンダリ・ベースと同等の供給機能を持たせられるのなら、町を起点に半径500キロメートルまで、兵器の活動範囲が広がることになる。
「ですが、現状では、直ちにDGTIAエネルギーを生産することはできません。エネルギー生成装置のコアとなるパーツは、第17セカンダリ・ベースの工場設備では製造できませんので」
「なんだって?」
あれだけ常識を打ち破ってきたセカンダリ・ベースにも、できないことがあったのか。
「じゃあ、どうするんだ?」
「エネルギーの生産量を増やす方法はふたつあります。ひとつは、各地に眠るセカンダリ・ベースをスリープから復帰させること」
第17セカンダリ・ベース以外にも、前文明の軍事基地には生き残っているものがあるそうだ。
世界の各地でスリープ・モードになっていて、目覚めの時を待っているという。
これらの基地にも、エネルギーの生産設備が備わっている。
「もうひとつは、破損したエネルギー・プラントから部品を回収し、修理して再利用すること」
これも、前文明の遺産を利用するということだ。
ネオンの文明を滅ぼした終焉戦争では、軍事拠点とエネルギーの生産拠点が真っ先に狙われたという。
防衛能力の高かった軍事拠点は、かろうじて数カ所が生き残ることができたものの、エネルギー・プラントは敵の攻撃に耐え切れず、その全てが陥落した。
しかし、遺跡と化したその跡地には、もしかしたらコア・パーツが残っているかもしれないと、ネオンは推測している。
「現在、各地の基地、並びにプラント等の重要施設が所在していた場所に偵察機を派遣しています。我々の基地から半径500キロメートルを遥かに越える距離のため、ルート探索に少々時間がかかっていますが、安全を確認でき次第、遺留品の回収に向かいましょう」
「『向かいましょう』ってことは、現地で俺の承認手続きが必要になるんだな?」
「はい。厳密には、別基地の司令官ないしプラントの施設長を兼任していただくことで、当該設備のシステムを復旧させていきます」
基地や施設を眠りから起こすのにも、新人類である俺が必要になるようだ。
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採取された材料資源の詳細を聞いたり、使い道について説明を受けていたところ、イザベラから通信が入った。
『どうにか言われた量は仕入れたよ。またあの場所に戻ればいいのかい?』
ヘッドセットから彼女の声。
イザベラの通信は、俺にも届くようになっていたようである。
「では、彼女を回収しに行きましょう」
俺たちはヴェストファールに乗り込むと、イザベラを迎えに空に飛び立った。




