27_21_空に降る夜想曲
<全員の旅立ちの前夜>
<ジラトーム国 とある教会の一室にて>
「歌が、聞こえるわ」
歌、だって? アンナ?
「そう。歌よ、カティヤ。聖歌のように厳かで、赤子をあやすように優しくて、それでいて――」
ほう、聖なる子守唄かい?
「――兵士を戦場に送り出すような、勇ましくも儚い歌」
ふむ。君の感受性が豊かなことは理解するよ、アンナ。
「不思議ね。毎年、宵瘴の驟雨が終わりに近づくにつれて、夜になると聞こえてくる」
そして、最終日の空送りが過ぎると同時にパタリと聞こえなくなる、とかだったかな?
「カティヤ。あなた、信じてないわね?」
私はね、アンナ。自分が君ととても似ていることを自覚している。性格や価値観にこそ若干の差異があれど、趣味嗜好についてはほとんど一致しているからね。
「『若干』ってところに引っかかりを覚えるけれど……そうね。好きな食べ物は同じだし、好きな物語も同じ。ずっと一緒に生きてきたものね」
明確に違うのは、ここ数年の立場くらいなものさ。君はめっきり、外に出ることを止めてしまった。
「出られないのよ。知ってるでしょ?」
抗うこともしなかっただろう?
「受け入れた、と言ってほしいわ」
何をだね? 君の運命を……かい? それとも、私たちの歴史を……かな?
「どちらだっていいでしょう。未来も過去も、そう大差が無いのが私たちなのだから」
それはどうだろう?
「……否定するの? あなたが?」
肯定するさ。君が言うのが、〝私たちの未来と過去〟であったならばね。
「カティヤ?」
〝私たちの過去〟という歴史は、確かに〝私たちの未来〟を運命づけた。けれどね、アンナ。
「〝私の過去〟は、〝私の未来〟をまだ決定していない? ずいぶんと楽観的な物言いね、カティヤ」
最近、私にもわかるようになってきたからね。
「あら、未来が視えるようにでもなった?」
素敵な出逢いがあるような気がしていてね。近いうち……そう、君の耳に歌が聞こえている間じゅうくらいには……かな。
「……本当に予言を始めたわね。お医者さんでも呼んでもらったほうがいいかしら?」
わかるのだよ。なんとなく、だけれどね。たぶん、君や私にとって、とても良い巡り合わせが待っている。ただし――
「急に不穏な接続詞を使うじゃない……いいわ、続けて」
――ただし、私たちは幾つかの運命を……試練を乗り越えなければならない。その時が来てしまったのだよ、黒き聖女……アンナ=アモンレイス。




