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5_06_証拠隠滅は立派な兵法

「お、ジャングルが見えてきたぞ」


 しばらく飛行していると、風景に変化があった。

 土肌だらけの荒野がぷつりと途切れて、代わりに、鬱蒼(うっそう)とした密林の木々が、辺りの景色を塗りつぶした。

 ここまで来れば、第17セカンダリ・ベースはすぐそこだ。

 目的地ではないけれど、俺たちは一度基地へと帰投するつもりでいる。

 ある兵器を起動して、ヴェストファールで運ぶためだ。


「しっかし、ずいぶんと木が倒されてるな」


 ゴルゴーンの通った跡だろう。

 荒野から基地の方角にかけて、一直線に木という木がへし折れ、潰され、密林の真ん中に大きな道を作っている。


「誰かに見られたら……いや、こんなところに来る物好きなんているわけないか」

「地理的な要因もそうですが、この密林地帯は、ラクドレリス帝国軍が一般人の立ち入りを禁止している地域です。ですので、近づく者はありません」

「帝国の軍が? あ、そうか、あの遺跡を秘匿するためか」


 帝国軍は、遺跡の中のナノマシンを未知の猛毒だと思い込み、同時に近隣国への切り札と位置づけている。

 俺を強制連行してきた兵士たちは、そんなことを言っていた。


「そういえば、俺を運んできた二人の兵士も、ゴルゴーンが踏み潰してくれたんだよな」

『ええ。ぷちっとやっちゃったわ』


 あの時も、ゴルゴーンを動かしていたのはシルヴィだったらしい。


『あら、元お仲間の死に、今頃罪悪感でも芽生えちゃった?』

「いや全然。俺を殺そうとした奴らだし、顔も名前も知らなかった。正直、ざまあみろとしか思えない」


 時間が経って冷静になってみても、奴らに同情心なんて、これっぽっちも沸いてこない。

 むしろ、冷静な心のその奥で、俺を切り捨てる決定をした軍の連中を、蔑みの目で俺を見下した学校の同期たちを、どうあっても許せない気持ちが日に日に醸成されている。


「ありがとな、シルヴィ。俺の代わりに、あいつらを殺してくれて」

『お礼なんていいわよ。交換条件はネオンが説明したでしょ。あれは単なる取引。見方によっては、復讐相手をふたり奪っちゃってるわ』


 そんなことは、もちろん気にしてない。

 俺ひとりじゃ、戦いを挑むことすらできなかったんだから。


「でも、あいつらを殺害してから2日が経ってるだろ。軍から捜索隊とかが派遣されるんじゃないか?」

「問題ありません」


 俺の懸念を、間髪入れずに打ち消すネオン。


「帝国の町領と密林との間には、長大な山脈が走っています。帝国軍は、その山脈に抜け道となる洞窟を発見し、かなりの年数をかけてトンネルに作り変えました。あなたをピラミッド遺跡に移送してきた馬車も、そこを通ってやってきました」


 彼女のいう山脈というのは、ラスカー山地のことだ。

 俺のいた城塞都市アケドア、従軍予備学校の所在する街の南西に広がる山岳地帯。

 険しい山々が連なるそこは、帝国の人々から敬遠され、ずっと人跡未踏の地だったと聞く。


「あんな山に、軍が管理する抜け道なんてあったんだ」

「はい。ですので、そこを爆破しておきました」


 ……なんですと?


「自然な崩落に見せかけて、かなり広範に潰しました。向こう側からも、こちら側からも、一切の行き来ができません」

「じゃあ、捜索隊なんて来れないってことか」

「それどころか、例のふたりの兵士はその崩落に巻き込まれたと判断されているはずです。崩落を起こした時間は、本来ならば彼らが洞窟内を進んでいる頃合いでしたから」


 さすがはネオン。

 隠蔽(いんぺい)工作はばっちりでしたとさ。


「敵に情報を与えないことは、戦争の基本です」

『隠し方なら、他にもこんなのがあるわよ』


 やや前方の木々を見るよう、俺に促すシルヴィ。

 すると、その一帯の地面が下からゆっくりと持ち上がり、基地への出入口が現れた。

 ヴェストファールが楽々入れる大きさの通路が、地下方向へと伸びている。


『格納庫に下りるわよ。お目当ての兵器を起動したら、またすぐに出発するから』


 ・

 ・

 ・


 3日ぶりのセカンダリ・ベース。

 俺はネオンに案内されて、白い通路を進み、中央司令室へと向かっていた。


「本来ならば、着任した司令官を真っ先に案内するべきブロックなのですが、外部での作戦行動を優先させてしまいました」


 申し訳ありませんでしたと、謝罪の意を表するネオン。


「わかってるって。俺を、基地の技術に慣れさせようとしてくれたんだろ?」


 あの日のネオンの狙いは、今ならよく理解できる。

 無知な俺を現場に駆り出して、セカンダリ・ベースの軍事力や技術力を、肌で感じさせようとしたのだ。


「実際にゴルゴーンに乗せてもらって、アミュレット兵やドローンという戦力にも触れて、イレギュラーだったけど実戦も間近で見せてもらった。俺の知ってる軍隊とは、概念が全く違ってたよ」


 長い通路を抜けると、袋小路のような場所に着いた。

 通路をせき止めているのは、分厚い扉であるらしい。

 その扉の前に、立体映像が浮かび上がった。

 赤く輝く幾何学(きかがく)模様のような円形のそれは、俺の顔の前と、右手の高さにふたつ現れている。


「生体認証によってロックが解除されます。声紋、指紋、静脈、虹彩など、登録済みの司令官のパーソナルデータと照合いたします」


 指示に従い、手元の円を右の手のひらで触れて、正面の円をじっと見つめる。

 そして、自分の名前を答えた。


「ベイル=アロウナイト」


 直後、光の円が赤から緑に変わり、扉が静かに横にスライドした。


「うわ、これは……」


 扉の先の光景に、俺は言葉を失った。


「ようこそ、司令官。第17セカンダリ・ベースの頭脳、中央司令室へ」


 それは、大きな球体型のドームの内側。

 曲面の壁全体を、モニター画面が(おお)う不思議な空間。

 その中心で、司令官のための大きな椅子が、粛然(しゅくぜん)と俺のことを待っていた。

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