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5_05_空を自由に飛ぶという恐怖

「なあネオン、本当にイザベラを味方に引き入れるのか?」


 イザベラとの話を終えた俺たちは、ゴルゴーンに乗って町の外へと移動していた。

 その車内で、ネオンにさっきの件について尋ねた。


「そのつもりです。しばらく説得を続けて、我々の側に引き入れましょう」


 イザベラは、ネオンへの返答を保留した。

 明確に断りはしなかったが、少し考えさせて欲しいと猶予を求めたのだ。

 心が揺れているようだったから、ネオンが本気で説得すれば、間違いなく懐柔できることだろう。

 同じような状況だった俺が、最後にはネオンへの協力を決めたように。


「でも、当初の計画とは、だいぶ予定が違ってるよな?」


 事前に聞いていた計画では、帝国との戦争の意志があることは伏せておき、監視と脅迫と取引によって、逆らえない状況のもとに物資と軍資金を調達させるはずだった。

 もしもイザベラが、身を(てい)してでも自国の危機を誰かに知らせてしまったら、こちらの存在が露見するからだ。


「そのリスクを差し引いても、イザベラの妹への執着は、我々にとって非常に都合がよいと言えます。物資や軍資金の調達に利用するだけでなく、敵と内通する工作員として有効に使えるならば、これ以上ない手駒です」


 脅迫によらず自発的にこちらに(くみ)するなら、重要な仕事を任せられるとネオン。

 ただ、手駒と堂々と言い切るあたり、いざとなれば切り捨ててもよい人材ではあるのだろう。


「こんなに圧倒的な戦力があるのに、内部工作が必要なのか?」

「戦争での勝利には必要ありませんが、戦後統治において重大な意味を持ちます」

「例の、新人類への進化だか昇華だかってやつのためか?」

「はい。内通者を使って我々を受け入れさせれば、非常にスムーズに事を運べます」


 まだ戦争も始まっていないのに、勝った後のことを考えているネオン。


「気が早い……とは言えないんだろうな」

「戦後統治の方針は、戦争の勝ち方、つまり勝利条件に関わってきますので」


 軍隊とは戦うけれど、敵国の民を虐殺しないとネオンは言っていた。

 それはつまり、勝って帝国を占領した後に、反抗の意思が芽生えないようにしなければならないということだ。


「戦争の進め方と、その結果が国民感情にどう作用するかは、あらかじめパターンごとにシミュレーションして最適解を導いておく必要があります。彼女の存在は、その計算に大いに役立ちます」


 ネオンのことだ。

 きっと、こう動いたらどういう結果が起きるっていう予測を、かなり緻密に計算しているんだろう。



『お話中だけど、ランデブー・ポイントに到着したわよ』


 コクピット内にシルヴィの声が響き、ゴルゴーンが停止した。

 直後、外の様子を映すモニター画面に、上空から飛来する影が映り込む。

 大型長距離航空輸送機【ヴェストファール】。

 昨日、金鉱に巨大重機を運んできた4機のうちの1機だ。

 町から少し離れたこの場所でヴェストファールと落ちあって、ここからは、空から目的地まで移動する。


『ここで乗り換えよ。ちゃっちゃとゴルゴーンから降りちゃって』

「どうせ乗り換えるなら、こいつに町まで来てもらえばよかったんじゃないか?」

『アンタ、昨日自分がどれだけ驚いてたか覚えてないの?』


 呆れたようなシルヴィの声


『前文明の科学技術に慣れてきたアンタでさえあの驚きようだったのよ。空からやって来るヴェストファールを西大陸の民たちが見たら、どうなると思う?』


 ああ、確かに。

 巨大な鉄塊が空を飛んで現れたなんて、神話や伝説の怪物が襲来してきたようなものだ。

 町の上空に呼び寄せたら、皆がパニックを起こして、大混乱が生じていたかもしれない。


「それに、エネルギー効率のこともあります。生産体制が整うまで、節約できるところでは節約しないと」


 ネオンからも補足が入る。

 航空戦力はゴルゴーンよりもエネルギー使用量が多いって、昨日も話していたんだっけ。


 ・

 ・

 ・


「ホントに、飛んでるよ……」


 悠々と飛行するヴェストファールのコックピットから、俺は外の風景をおっかなびっくりと眺めていた。

 高い空から見下ろす一面の荒野は、地上から見渡すときより遥かに茫漠(ぼうばく)として、地平の彼方に伸びている。

 あまりに壮大な光景が、地に足がついていないという事実を刃物のように突きつけてきて、俺をどんどん不安の崖際に追い込んでいく。


「落ちたり、しないよな?」

『するわけないでしょ』


 再びシルヴィに呆れられた。


『あの重いガレイトール掘削機を4機がかりで連携運搬できるほどの推力と安定性が、このヴェストファールには備わってるのよ』

「それに、第17セカンダリ・ベースが保有する航空戦力の中では、ヴェストファールの飛行は大人しいほうです。あくまで輸送機ですから」


 ネオンの補足も地味に怖い。

 もしも乗っていたのが攻撃に特化した航空兵器だったら、どんな過激な飛び方だったことやら。


「……今のうちに、空の世界に慣れておくよ」

「賢明です、司令官」


 ちなみに、ヴェストファールのコックピットは、前列に2席、後列に2席という配置になっている。

 前列左側の席にネオンが座り、俺は、その右側の操縦席に座っていた。

 でも、実際の操縦はシルヴィの担当だ。

 目の前にある操縦桿(そうじゅうかん)は、俺が触れるまでもなく、シルヴィの意志で動いている。

 やることが一切なかった俺は、びくびくと外の景色を眺めては、空を飛んでいる現実を受け止めるよう努め続けた。

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