24_08_夢語り「戦友との絆」
時はわずかに遡る。
ベイルがコロルゼア小宮殿に忍び込んでいた、その最中。
教皇クリストフ=デュレンダールは、寝室のベッドの上に横たわりながら、夢とも現ともつかないまどろみの中に身を置いていた。
皺だらけになった瞼の裏に、遠い情景が映り出す。
(あの日の夜も、こんな神妙な空気だった。墨を流したような純黒の空に、星辰が綺麗に瞬いていた……)
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「おっと、起こしてすまないな神兵さん。こちらに敵対の意思はない」
「何者だ? オムスケイルの兵ではないな?」
「俺の名はバーリンジャー。ラクドレリス帝国軍の――」
「バーリンジャー? そうか、貴様がBB部隊の不敗隊長か」
出会いは殺伐としたもので、また、戦地での日々も殺伐と続いた。
「肩を貸すよ。まったく、神兵ってのは命知らずを美徳としてるのか?」
「怪我などたいした問題ではない。『神の怨敵を掃滅せよ、信心は強き剣にて貫き示せ』だ」
「ああ、だいたいわかった。大変そうな立場だってのは」
「……だが、礼は言っておこう。バートランド」
苛烈な戦場でありながら、いずれは敵となりうる国の軍人同士でありながら、彼の隣に並び立つのは、実に居心地が良かった。
が、それは長くは続かなかった。
続くはずがなかった、と言うべきなのだろう。
刻々と激化する戦況の中、彼は大いなる偉業を成し遂げ、同時に、多くのものを失った。
「走れバート! お前に、立ち止まることが許されると思うな!」
「……だが、俺は、俺の手は、護るべきものを守れない」
「そんなことはない! 勇敢なるバーリンジャーよ! お前が下を向いて誰が救われる!」
すべての想いを込めた言葉は、戦友の心に届かなかった。
慟哭した私の目に映ったのは、悲壮と哀愁だけを湛えた、冬枯れのようなしおれた顔貌。
それが私に、戦友だった彼との精神的な死別を悟らせた。
「全くの別の姓、か。それならば、〝アロウナイト〟というのはどうだ?」
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(古い話だ。今は、もう……)
一時期は毎夜見ていた悪夢。
そして、久しく見なかった遠い夢……
(なぜ今更……いや、理由など明らかか。血の繋がりなどあるまいと、その高邁なる魂は、次代に――)
ふと、教皇は何かに気づいて思考を止めた。
永い間使われることのなかった、戦地で培った察知能力。
それが不意に働いたのだ。
何者かが、息を殺して部屋にいる。
(ふむ、やはり……いや、ようやく来よったか)
口元に、自然と笑みが浮かびあがる。
あれが何者であるのかなど、ひと目見た瞬間にわかっていた。
かけるべき言葉も、その時から決めていた。
「勢いで忍び込んではみたけど、早まったかなあ……」
「そんなことはあるまい、勇敢なるアロウナイトよ。お前が下を向いて誰が救われる?」




