表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/310

4_08_地を砕く雷

「これで、イザベラは我々の指示に従うでしょう」


 拘置所から出た俺たちは、歩いて居住区へと戻っていた。

 交渉成功で気を良くしているらしいネオンの隣で、張り詰めた演技から解放された俺は、対照に安堵(あんど)の溜息を吐いている。

 敵国の商会の娘を説得(きょうはく)するだなんて、正直、自分の(ぶん)を超えていたと思う。


「やっぱり、買い付けなきゃならないものって多いのか?」

「まず、食料は絶対に必要です。近隣の町村襲撃は時期尚早ですから」


 当初、食料は近くの村を襲えばいいと言っていたネオン。

 しかし、国民確保のタイミングが早かったことで、計画に若干の修正が必要になっているのだとか。


「基地の糧食(レーション)の在庫って、まだあるんだよな?」


 昨日から今日にかけて食べている軍用レーション。

 西大陸の民たちにも支給してるけど、少し心配になってくる。

 ……というか、基地って凄い大昔に活動休止(スリープ)したって言ってたけど、よく食べられるものが残ってたな。


「基地内にレーションの生産工場区画があります。完全冷凍された食材が大量に保管されていますので、当面は食料不足に陥ることはありません」


 よくわからないが、大丈夫らしい。


「しかし、司令官もなんやかんやで演技力がありましたね」


 さきほどのイザベラへの対応のことだろう。

 褒められたのに、俺の心に、薄く黒い陰が差してくる。


「……従軍学校で、敵兵尋問の実技演習があったからさ」


 捕虜役になって、鬼教官の演技とは思えない脅迫と暴力に耐えたり、逆に尋問官役になって、鬼教官から「手ぬるい尋問で前線の味方を死なせる気か!」なんて恫喝(どうかつ)されたり。

 俺、よくあんなのに耐えられてたな……


(うつ)ろな遠い目をしているところ恐縮なのですが」

「ああ、わかってる。交易ルートは確保できたんだ、しっかり活用しないとな」

「名のある商会のコネですから、かなり重宝するでしょう」


 なにせ、国営事業の奴隷船貿易にまで関わっている商会だ。

 たいていの物資は(そろ)えることができるだろう。


「けど、そのコネを活かすためには」

「はい。多量の(きん)を手に入れなければなりません」


***


 日が傾き、夕暮れも間近に迫ってきた頃。

 俺達はゴルゴーンを走らせて、昨日も来ていた金鉱の盆地にやってきた。


「ここから(きん)を掘り出さないといけないんだよな?」

「はい。掘削しないことには始まりません」


 倉庫らしき建屋の中には、イザベラたちが採掘していた金鉱石も保管してあったが、いかんせん量が少なかった。

 たぶん、貯まった分は一定の期間で出荷していたのだろう。


「町の皆に掘ってもらうってのは……ないよな?」

「ええ。あまりにも非効率的です」


 おまけに、非人道的だ。

 助けだしたのに同じことをやらせたんじゃ、単に支配者が変わっただけになってしまう。


「じゃあ、効率的な方法ってのは?」

「司令官も、だんだんとわかってきましたね」


 そりゃあ、ここまで散々驚かされてきたからな。


「ご推察のとおり、土中の金鉱石は、我々の技術で容易に回収が可能です」


 ネオンは手のひらを光らせると、空中に立体映像を投影した。


「まずは、先日スキャンした金鉱の3Dモデルを御覧ください」


 この金鉱を制圧した時にも見た、地下の坑道の立体見取り図。

 ゴルゴーンに搭載されている、BF(ビー・エフ)波レーダー【クレアヴォイアンス】によるサーチ結果だ。


「この前と、少し色合いが変わってるな」


 制圧作戦時には、赤と緑の光点で埋め尽くされていた見取り図。

 今は、坑道の外側の地下部分に、黄色い波模様が浮かび上がっていた。


「表示しているのは、金鉱石の埋蔵箇所です。前回サーチした際にすべての金脈を把握できています。後は、そこを目掛けて最短距離で穴を穿(うが)つだけです」


 ネオンは、立体映像を別の画像に切り替えた。


「ここへの移動中、司令官に承認手続きをしていただいたのを覚えていますか?」

「ああ。ゴルゴーンに乗ってすぐだったな」


 掘削用の何かを起動させたいって言うので、目の前に浮かび上がった青い球体を「承認する」と言いながら触っておいた。

 その内容は、もちろん知らない。


「司令官の許可に基いて、現在、セカンダリ・ベースからこれを運ばせています」


 示された映像は、一言で言えば、巨大な円柱だった。

 車輪のついた大きな台座らしき機械に、長い長い筒が垂直に載せられている。


「ドリルという地面を掘るための重機です。形式名は【ガレイトール掘削機】。回転採掘(スピンドル)型ではなく、プラズマ式ドリルユニットを装着しています」

「プラズ……?」

「雷に似たエネルギーだとご理解ください」


 立体映像が動いて、筒や大地が断面図に切り替わった。

 筒は台座を貫くように地面へと下降していき、接地面から雷のような青白い閃光を生じさせている。

 その閃光は、接触した大地を破砕して、筒をどんどん、下に下にとめり込ませていく。


「高出力のプラズマ・ドリルが地盤を瞬間爆砕し、ドリル本体を押し込んで掘削していきます」


 こうしてできた縦穴から、今度はアミュレット兵が小型のドリルで横穴を掘って、金脈へと到達するそうだ。

 立体映像上には、開いた穴の中で作業するアミュレット兵たちの様子も映されている。

 けどこれ、縦穴の幅に対して、兵の画像がずいぶんと小さめだ。


「このドリルってのは、もしかして相当大きいのか?」

「比較のために、ゴルゴーンの画像を同じ縮尺比率で出力します」


 映しだされた画像を見て、俺はびっくり。

 このドリルとかいう機械、台座部分だけで、ゴルゴーン4台分くらいの横幅がある。

 円柱の高さなんて、目測では何台分なのか、いや、何十台分なのか正確にわからないほどに縦に長かった。


「こんな馬鹿でっかいコンテナ、どうやってここまで?」

「ガレイトールはコンテナではございません。ゴルゴーン同様、単体での自律機動が可能な重機です。ただし、戦車と違い悪路に対応できません。基地周辺の密林地帯を抜けられないことから、今回は空輸いたしました」

「空……輸?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ