表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/310

4_06_交渉の肝は演技力

「それで、ネオン。ファフリーヤは?」

「部族の代表たちに婚姻の事実を報告しました。その後、族長会議が開催された模様です」


いや、事実なんて無根も無根だけどな。


「反対意見は?」

「多少()めていますが、基本的には抑えこまれています。我々の庇護を失っては生きていけないと、彼らもわかっていますから」

「弱みにつけ込んだみたいな言い方はよしてくれ……」


 がっくりと項垂(うなだ)れる俺。

 対してネオンは、いつも通りの無機質な表情で、この後の展開を予見する。


「正式な婚姻は、新国家の樹立後ですね。関連法規を総て整備し終えて、ようやく法的にも結婚と言えますから」

「何につけても、国作りのほうが先決ってことだろ」


 ちゃんとした法治国家を作ってこそ、他国と対等に戦争が始められる。

 たとえ一方的な蹂躙(じゅうりん)になったとしても、大義名分がそこには生まれるのである。


「で、そのために、か」

「はい。そのために、です」


***


 俺とネオンは、居住区画から離れた場所に設置した仮設建物にやってきていた。

 ここは、捕虜の拘留施設。

 昨日拘束したフレッチャー商会会長の娘、イザベラ=フレッチャーが、中に押し込まれている。

 彼女は、商会が国から受託している奴隷船貿易に関わりつつ、奴隷の一部を私的に集め、金鉱採掘事業を独自に進めていた。


「入るぞ、イザベラ――うわっ!?」


 厳重なドア・ロックを解除した途端、俺の目の前に人影が飛び出してきた。

 手錠をかけられ、目には涙をたっぷりと(たた)えたイザベラが、縋りつくように倒れこんできたのである


「ああ! 勇敢なるベイル=アロウナイト様! わたくしイザベラは、此度のことを海よりも深く反省いたしました! このような空間に独りきりなど耐えられません。どうか、貴方様の寛大なるご慈悲によって、憐れみを――」


 ……なんだろう、オペラ歌劇でも見ている気分にさせられた。

 彼女の言動は、あまりに芝居臭すぎる。


「こいつ、元気そうだな」

「脳波上では感情の(たか)ぶりが認められますが、意図的に作り出しているようですね」


 手の込んだ演技だということが、ネオンの分析によっても断定された。

 意識的に感極まって涙まで流せるだなんて、商人よりも演劇役者になったほうが大成するんじゃないのか、この女。


「貴方様の高邁奇偉(こうまいきい)なる精神と、聡明叡智(そうめいえいち)なるご慧眼をもってすれば、わたくしをお生かしくださることの意義につきまして、高次の政治的戦略的ご判断をいただけますものと――」

「どうする? なんか、話す気がどんどん失くなってくるんだけど」

「もうしばらく閉じ込めておきましょうか」


 長々しい台詞を無視して、拘束の継続を検討し始める俺たち。

 あまりにぞんざいな扱いに、泣き腫らしていたはずのイザベラの目が、どんどん吊り上がっていく。

 こちらの作戦通りだ(・・・・・・・・・)


「クソ野郎どもが! このあたしが下手(したて)に出てやってれば――」

「なんだ、反抗的だな。取引次第では自由にしてやろうと思ってたのにな」

「仕方ありません、他の人材を探しましょう。秘密裏に動いてくれる優秀な商人……帝都で探せば、見つけられないこともありません」

「――へ?」


 イザベラが食いつきかけたことを確認して、俺たちは(きびす)を返した。


「無駄足だったな。こいつ、どうするか?」

「やはり、西大陸の民に差し出しましょう。煮て食うなり、焼いて食うなり、好きにさせればよろしいかと」


 拘置所から去ろうとする俺たちの背後から、悲痛な絶叫が(とどろ)いた。


「おりますわ! ここに! めっちゃくちゃ優秀な商人が!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ