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4_03_神という名の説得力

 少しして、西大陸の民の代表者たちが戻ってきた。

 後ろには、数十人の若者たちを連れている。

 俺達の前まで歩み寄ってきた彼らは、一斉に(ひざまず)いた。


「全員の意見をまとめあげてきたそうです。我々の庇護下(ひごか)に入り、ここに住まわせてほしいと懇願しています」

「最初の国民、正式に確保ってことだな」


 頭を上げた彼らは、配給品を受け取るために倉庫に向かった。

 どうやら、荷運びのために若い衆を連れて来たらしい。

 彼らは、倉庫に配置したアミュレット兵から物資と運搬用の荷車を受け取っている。

 その一団の中から、ファフリーヤが抜けだして、こちらに走り寄ってきた。


「お、もしかして、ファフリーヤもみんなを説得してくれたのか?」


 そのようですね、とネオン。

 ファフリーヤは、ニコニコと屈託(くったく)のない笑顔で俺の腰に抱きついた。


「そっか。ありがとな、ファフリーヤ」


 俺は、そんなファフリーヤの体を抱き上げた。

 満足な食事ができていなかった彼女の体は、とても軽くて、痛々しいほどすんなりと持ち上がる。

 ファフリーヤは驚いた顔になってから、すぐに笑顔に変わって、俺の首筋に抱きついてきた。

 彼女の虐遇に胸を痛めつつ、俺にも小さい妹がいたら、こんな感じで可愛がったんだろうなあ、なんて想いも去来して、ファフリーヤを優しく抱きしめ返す。

 これを見てか、代表者たちが何かを言いかけたけど、その口は、俺たちの後ろから現れたゴルゴーン戦車の姿によって動きを止めてしまった。


『給水ポンプの設置、完了したわよ』


 戦車からシルヴィの声。

 彼女は、街の郊外でアミュレット兵に地下水の汲み上げ装置を建造させていた。

 それが終わって、全居住区の仮設兵舎に水道が通ったらしい。


『見てもわかんないでしょうけど、アンタも一応ポンプを見とく? ……って、何よ、変な顔してこっち見て」

「いや、すっかり畏怖(いふ)の対象だなって思ってさ」


 居合わせた西大陸の民たちは、軽く後退(あとじさ)りながら、ゴルゴーンの威容を(おそ)れ多いといった感じで眺めている。

 彼らからすれば、ゴルゴーンは自分たちが束になっても敵わなかった外国人をあっさり打ち倒した化け物で、おまけに、100棟もの住居を一晩で建ててしまうという……やっぱり化け物である。


『おだてたって、何も出ないわよ』


 まんざらでもなさそうなシルヴィ。

 戦闘AIには、今のが()め言葉に聞こえるらしい。


『それに、一番(おそ)れられてるのはアンタのほうじゃない』

「へ、俺?」


 意外な言葉に、きょとんとさせられる俺。

 例によって、横からネオンの補足が入った。


「西大陸の民たちは、ベイル司令官が我々のリーダーであると正しく認識しています。また、我々が新国家を樹立しようとしていることも、彼らは理解しています」


 つまり、俺は強大な兵器の力で国家元首になろうと目論(もくろ)む怖い人だと、皆に思われているってことだ。

 どおりで彼ら、一斉に頭を下げだしたわけだよ。

 そりゃあ、確かにその通りではあるんだけど、少しだけすっきりしないなあ。


「国を作るったって、別に俺を王様に仕立てる必要はないだろ?」


 形だけの承認手続きしかできない男だぞ、俺は。


「これは私の思惑ではありません。どちらかというと、西大陸の民たちの都合……いえ、代表者たちの都合ですね」


 ん? どういうことだろう?


「集団をまとめるには、わかりやすい象徴(シンボル)が必要です。異国の言葉を話し、理解の及ばぬ軍事力を有したあなたのことを、代表者たちは皆に現人神(あらひとがみ)として(あが)めさせています」


 王様どころの話じゃなかった。


「『異郷の神が施しを与えてくださった、我らは祝福された民であり、(そむ)くのは不敬極まりない』。そんなふうに、彼らは民を説得したそうです。最上位の指導者が民たちの信望を集めていることもあり、(あなた)は容易く受け入れられたようです」


 ネオンは警戒用に飛ばしているドローンで、彼らの話を聞いていたらしい。

 街の警備と監視を兼ねて、上空には、数台の飛行ドローンが絶えず辺りを旋回している。

 最上位の指導者とやらが誰かは知らないけれど、俺という存在をうまく利用しているあたり、相当な切れ者なんだろう。


「ちなみに私は、神と交信できるシャーマンと解されているようですね」

『アタシなんて、あの世とこの世を行き来する魂の方舟(はこぶね)って呼ばれてるわ」


 現に、配給品の運搬にあたっている若者たちも、「神のお恵みに感謝します」的なことを言いながら荷物を受け取っているらしい。

 ということは、懐いてくれてると思ってたファフリーヤも、実は今まで、神を敬う言葉を述べていただけなんじゃなかろうか。


「俺も、西大陸の言葉を覚えようかな……」


 自分が何を言われているのか、途端に気になってくる。


「そのことならば、問題はございません」


 そんな俺に、ネオンは待っていましたとばかりに、こんなことを報告してきた。


「西大陸言語の翻訳アルゴリズムは構築し終えています。次回の物資便でデバイスを基地から輸送しますので、司令官も彼らの言語を聞き取れるようになりますよ」

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