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4_02_住民自治とは理解を得ること

 シルヴィの言っていたとおり、ネオンは西大陸の民たちの代表者数人を招集していた。

 居住区から少し離れた建物に彼らを集めて、住居の説明会を開催するためだ。

 この建物は、仮説兵舎より少しだけ大きくて、内部構造も違っている。

 宿舎ではなく、現地での作戦司令室として用いるための仮設建物であるそうだ。


「あれ、ファフリーヤもいるのか?」


 代表である年配の男たちのなかに、どうしてかファフリーヤの姿もある。

 幼く背の低い彼女は、屈強な男たちの中に埋もれるように立っていたが、俺を見つけると笑顔になって駆け寄ってきて、腰に抱きつき、何かを話した。

 ネオンに聞くと、「感謝の意を示しています」とのことだったので、返礼がわりに、彼女の頭を優しく撫でてあげる。

 ファフリーヤはくすぐったそうにはにかんだが、後ろの男たちの顔はどこか強張った。

 助けたとはいえ、まだ信頼を得れてはいないのだろう。

 ひとまず、めったな態度は控えるべきかもしれない。



「では、彼らに居住地の説明を施します」


 作戦会議に用いる円形テーブルに彼らを座らせたネオン。

 ファフリーヤも、今回は俺の膝上ではなく、きちんと椅子に座っている。

 ネオンは彼らの言葉で説明を行ったが、西大陸の民の代表者たちの顔には、ずっと当惑の色が浮かんでいた。


「どうしたんだ?」

「ここに住むべきか悩んでいます。彼らの仲間の大半は、自分の大陸に帰りたがっているそうです」


 そうだろうなあ。

 無理矢理連れて来られて働かされていたんだ。

 故郷に帰りたくないはずがない。


「今は帰す手段がないと伝え、一応の理解は得ましたが、どうにも悩ましい問題であるようです」


 実際、俺たちには彼らを元の大陸に帰す手段がなかった。

 海の向こうの西大陸は、第17セカンダリ・ベースの半径500キロメートル圏内よりも遥かに遠い距離にある。

 つまり、自律稼働兵器の動力源、DGTIA(ディグティア)エネルギーの遠距離非接触供給の範囲外だということだ。


「彼らを運んできた奴隷船についても問われましたが、これを奪うためには、ラクドレリス帝国と戦争をする必要があると回答し、現状不可能であると納得させています」


 これも本当のことだ。

 奴隷船の保有者であるフレッチャー商会は、帝国の軍部と密接な繋がりがある。

 それもそのはず、奴隷船貿易は、軍の兵士も動員される国営事業なのだから。

 だから、仮にイザベラを(おど)したりしたところで、彼女の一存で船を動かせたりはしない。

 かといって船を強奪しようとすれば、帝国軍との戦闘は避けられない。


「戦争での敗北はあり得ませんが、他国に我々の存在が明るみになってしまいます。新国家を樹立できていない段階での宣戦布告は、残念ながら時期尚早です」


 ネオンの任務は、戦争での勝利と同時に、敵国の民を手中に収めることだ。

 通常の戦闘以上の準備が必要で、だから、セカンダリ・ベースの稼働エネルギーが確保できるようになるまでは、こっそり国を発展させていくしかない。

 国力と戦力が整い次第、帝国に対し戦争を仕掛けると、ネオンは彼らに説明したそうだ。


「でも、そうなると、最後はこの人たちは元々の土地に帰っていっちゃうんだな」


 せっかく、国民になってもらえるかと思ったのに。


「そのこと自体に問題はありません。帰すまでに彼らを新人類に進化、いえ、昇華させてしまえば、西大陸に我らの属国ができるのと同義です」


 ネオンにとっては、新国家の国民を確保することよりも、新人類を増やすことのほうが重要であるらしい。


「また、以前にも申し上げましたとおり、戦争が始まれば難民が勝手に流れこんできます。それを保護するだけで、国民の頭数は(そろ)いますから」


 ちなみに、ネオンは西大陸の言葉を話しながら、居住区の区割りを彼らの文字で説明書きした紙も卓上に配っていた。

 砂漠の民族である彼らにとって、木が原材料である紙は高級品。

 みな、おそるおそるといった感じで、配られた街区図に触れている。

 こんなに畏縮してたら説明にならないんじゃないかとも思ったけど、ネオンいわく、「立体映像を用いますと、これ以上に怯えてしまって説明になりませんので」とのことだった。


 ・

 ・

 ・


 水道の使い方や施錠の仕方など、ひと通りの説明を終えたネオンは、彼らを連れて別の建物に案内した。

 倉庫らしきその建物では、山積みになった何かのケースを、アミュレット兵たちが協力して移動させていた。

 ケースの中を覗いてみると、グレー・カラーの食器や組み立て式の家具など、もの凄い数が詰まっていた。


「これらは住民への配給品です。生活の質を引き上げるため、日用品として彼らに与えます」


 ネオンは代表者たちに説明し、彼らを民たちのもとに戻らせた。

 人数を揃えて物資を受け取りに来るよう指示したそうだ。


「ひょっとして、イザベラに物資を取り寄せさせたのか?」


 聞いてから、それは違うなと自分で気づいた。

 彼女を捕らえて、まだ24時間もたっていないんだから。


「日用品程度であれば、携帯型三次(プリ)元積層造形装置(ンター)を用いて、基地外でも大量生産が可能です」


 基地から何らかの装置を持ち込んで、この場で作成したらしい。


「生活に必要な汎用品(はんようひん)は、こちらで作って配給します。原始的な物品であれば、大抵のものは作成可能です」


 職人なしでも道具を作れるなんて、何をどうしているのか全く理解が及ばない。


「どんな技術を使ってるのかは知らないけど、俺や彼らが扱えるものでお願いするよ」

「専門知識がなければ扱えないような道具は、汎用品とは言えません」


 彼らに与える道具は、無知識でも使用でき、かつ、動作も一工程以内に収まるものに限定するとのことだ。

 こういう道具は、俺にとっても結構ありがたかったりして。


「ただ、司令官には、覚えておいていただきたいことがございます」


 配給品を整理しているアミュレット兵を眺めている俺に、彼女は注意事項を伝えてくる。


「こうした施策によって引き上げているのは、あくまで彼らの生活レベルです。町全体の文明レベルは、意図的に抑えています」


 『原始的な物品』はいくらでも渡すけれど、高度な技術に触れさせるつもりはないということのようだ。


「それは、反乱を防ぐために?」

「いえ、我々の物資量に限界がありますので」


 基地は、稼働エネルギーが少ないという問題の他に、鉄や銅などといった材料資源も不足している状態なのだという。


「建国にせよ、軍備拡張にせよ、卑金属(ベースメタル)希土類(レアアース)が大量に必要です。この街をエネルギー生産拠点とする計画にも着手する予定ですが、それとは別に資源の採掘場も早急に確保しておきたいところです」


 戦争開始までにやることは、まだまだたくさんあるようである。

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